・固体粒子集合体(粉体※1)において、金属等の原子結晶特有の変形メカニズムである“転位すべり※2”を世界で初めて観測。
・コンピューターシミュレーションにより、ミクロな原子結晶の理論に基づく欠陥構造をマクロな粉体系に精緻に導入することで、粒子間の摩擦が小さい場合に限って“転位すべり”が発生することを発見。また、この“転位すべり”によって、欠陥のない完璧な結晶状態に比べて、はるかに小さい力で物質全体が変形することも明らかに。
・原子レベルの結晶物理学と、目に見える大きさの粒子を扱う粉体物理学という、異なるスケールの学問分野を繋ぐ重要な発見。
・転位がもたらす「極めて小さい力で、かつ特定の方向にのみ変形する」というユニークな性質を応用し、新規機能性材料の開発などの産業応用につながることに期待。
大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻の仲井文明特任研究員(常勤)、佐々木勇人さん(博士後期課程)、桂木洋光教授、名古屋大学大学院工学研究科の畝山多加志准教授、および東京理科大学先進工学部の吉井究助教から成る共同研究グループは、多数の固体粒子で構成される粒状物質(粉体)において、“転位すべり”と呼ばれる特異な変形メカニズムが生じることを世界で初めて発見しました。
転位すべりは、金属や半導体など、原子レベルの微小な結晶が変形する際に生じる基本的な現象です。しかし、砂や食品粉末、ガラスビーズのような目に見える大きさの固体粒子が集まった“粉体”においても同様の現象が起こるのか、また、どのような条件で発生し、物質全体の変形挙動(レオロジー)にどう影響するのかは、これまで解明されていませんでした。
今回、研究グループは離散要素法※3と呼ばれるコンピューターシミュレーション技法を用いてこの謎に挑みました。原子結晶の理論を参考に、意図的に“転位”という結晶欠陥を一つだけ持つ特殊な粉体結晶を設計しました(図1)。この結晶に力を加えて変形させるシミュレーションを行った結果、粒子間の摩擦が小さい場合に限って“転位すべり”が発生することを発見しました。さらに、この転位すべりによって、欠陥のない完璧な結晶状態に比べて、はるかに小さい力で物質全体が変形することも明らかにしました(図2)。
本成果は、原子レベルの結晶物理学と、目に見える大きさの粒子を扱う粉体物理学という、異なるスケールの学問分野を繋ぐ重要な発見です。将来的には、転位がもたらす「極めて小さい力で、かつ特定の方向にのみ変形する」というユニークな性質を応用し、新規機能性材料の開発につながることが期待されます。
本研究の成果は、米国科学誌「Physical Review Letters」に7月24日(木)0時(日本時間)に公開されます。
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※1 粉体 原子に比べて格段に大きい粒子(一般に粒径が数十マイクロメートル以上)の集合体。砂、小麦粉、ガラスビーズなどが身近な例である。
※2 転位すべり 金属や半導体のような結晶性物質の主要な変形様式。尺取虫の動きや、カーペットのたわみの移動に例えられる。転位滑りによって極めて小さい力で変形が可能になる。
※3 離散要素法 粉体の代表的なシミュレーション技法。個々の粒子間に働く力(反発力、摩擦力、エネルギー散逸など)をモデル化し、多数の粒子一つ一つの運動方程式をコンピューターで解くことで、粉体全体の複雑な構造や運動を再現する。
タイトル:“Dislocation glides in granular media”
著者名:Fumiaki Nakai, Takashi Uneyama, Yuto Sasaki, Kiwamu Yoshii, and Hiroaki Katsuragi
DOI: https://doi.org/10.1103/7g7s-c157