・液体ガリウム上に形成される酸化ガリウム層に,5種類のハイエントロピー酸化物(HEO)※1超薄膜を形成させることに初めて成功しました。
・酸化ガリウム層が多くの金属イオンと高い親和性を有することを活用することで,ハイエントロピー酸化物超薄膜の汎用的な作製法を開発しました。
・ハイエントロピー酸化物超薄膜への歪みの導入により,酸素発生反応(OER)※2の自由エネルギー障壁を下げ,酸素発生反応に高い活性を示す電極触媒を得ることができました。
・様々な組成のハイエントロピー酸化物超薄膜を得ることができる本手法は,触媒や電池などへ応用可能な材料の開発につがなります。
ハイエントロピー酸化物(HEO)は5種類以上の金属元素を均一に含むことにより,単一の材料では実現が難しい高い化学安定性,触媒活性,電気化学的特性などを同時に発現できることが期待されており,次世代の触媒材料やエネルギーデバイス材料として有望視されています。しかし,その構造的複雑さゆえに,HEOの超薄膜の合成は依然として大きな課題となっていました。
早稲田大学 理工学術院 菅原義之(すがはらよしゆき)教授,名古屋大学大学院工学研究科 山内悠輔(やまうちゆうすけ)卓越教授らの研究グループは,液体ガリウムの上に自然に形成される酸化ガリウム層を用いて,HEO超薄膜の合成を実現しました。液体ガリウム上の酸化ガリウム層が多くの金属イオンと強い親和性を持つことを利用し,5種類の金属イオンを表面に取り込んだ後,HEO超薄膜へと変換しました。変換時にはガリウムから酸化ガリウムが生成し,この時HEO超薄膜に導入される歪みにより酸素発生反応(OER)の自由エネルギー障壁を低下させることがわかりました。HEO超薄膜が持つ,大きな表面積と多くの活性サイトも反応効率の向上に寄与します。結果として,酸化ガリウム上のHEO超薄膜は非貴金属電極触媒として優れたOERへの触媒活性を示しました。本研究は,酸化ガリウム層がHEO合成の優れた基板であることを示しています。
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※1 ハイエントロピー酸化物(HEO)
5種類以上の陽イオンをほぼ等モル比で単一の構造の中に含む酸化物。
※2 酸素発生反応(OER)
水の電気分解において,水あるいは水酸化物イオン(OH−)が酸化されて酸素が発生する反応。電気分解によって水から水素を効率的に製造するためには,酸素発生反応の反応速度を向上させることが必要とされている。
雑誌名:Nature Communications
論文名:A universal approach for ultrathin high-entropy oxides regulated by Ga2O3 layers for oxygen evolution reaction
執筆者名(所属機関名):Wenyang Zhang(早稲田大学), Huixin Jin(東京理科大学)*, Yanna Guo(早稲田大学), Yinghao Cui, (早稲田大学) Jingyu Qin(山東大学), Jianxin Zhang(山東大学), Yusuke Yamauchi(名古屋大学・クイーンズランド大学)*, and Yoshiyuki Sugahara(早稲田大学)*
*:責任著者
掲載日時: 2025年7月19日
掲載URL: https://www.nature.com/articles/s41467-025-60399-9
DOI:https://doi.org/10.1038/s41467-025-60399-9