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工学

2025.07.18

わずか60秒で巨大DNAのサイズ分析を実現 ~ナノスリット流路を用いた新手法、ゲノム応用に新たな道~

【研究概要】

・ナノスリット流路による巨大DNAのサイズ分析法を開発し、既存技術よりも高分離能 注1)・短時間でサイズ分析を実現。
・DNAの緩和時間注2)(伸長状態からコイル状へ戻るまでの時間)を計測することで、サイズを正確に判別。
・デバイスは簡便なフォトリソグラフィで製造可能、わずか200分子で解析可能なため、量産・実用化に向けた展開が期待。
・新手法により、高精度かつ網羅的な疫学解析が可能、薬剤耐性菌対策への貢献が期待。

 

名古屋大学大学院工学研究科の伊藤 伸太郎 教授らの研究グループは、ナノスリット流路内でDNA分子の緩和時間を測定することで、巨大DNA分子のサイズを分析する新手法を開発しました。現行技術のパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE注3))と比較して、分析時間は大幅に短縮され、分解能も向上しています。特に深さ49 nmのナノスリット流路においては、λ(ラムダ)DNA注4)(48.5 kbp注5))とT4 DNA注4)(166 kbp)をわずか60秒で識別可能で、分離能2.33を達成しました。
本手法は、DNA分子の物理的な分離を行わず、画像解析と統計処理により迅速なサイズ判別を実現しており、人工ゲノム開発や感染症遺伝子型解析に新たな道を開きます。また、ナノスリット流路を集積化した分析デバイスはフォトリソグラフィとドライエッチングによって容易に作製でき、製造コストの低減や再現性の高い量産も見込めます。今後は、薬剤耐性菌の疫学解析や、ゲノム医薬品製造の品質管理に応用されることが期待されます。
本研究成果は、2025年7月1日付国際学術論文誌『Lab on a Chip』に掲載されました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)分離能:
2つのピーク(ここでは異なるサイズのDNA)の区別可能性を示す指標。

注2)緩和時間:
DNA分子が外部応力から解放された後、伸びた状態から自然なコイル状に戻るまでの時間。サイズが大きいほど長くなる。
注3)PFGE:
パルスフィールドゲル電気泳動(Pulsed-Field Gel Electrophoresis)は、巨大DNA分子(数十kbp~数Mbp)の分離に適した電気泳動法。
注4)λ(ラムダ) DNA / T4 DNA:
長さの異なる直鎖状の巨大DNA分子。サイズ識別技術の性能評価に広く使用される。
注5)kbp:
「kbp」は「キロベースペア」の略であり、DNAの長さを表す単位。1 kbp は 1,000 個の塩基対を意味する。

 

【論文情報】

雑誌名:Lab on a Chip
論文タイトル:Size analysis of large DNA molecules by relaxation time measurement using a nanoslit channel
著者:Hongdong Yi, Shintaro Itoh, Kenji Fukuzawa, Hedong Zhang, Naoki Azuma
DOI: 10.1039/D4LC00998C
URL: https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2025/lc/d4lc00998c

 

【研究代表者】

大学院工学研究科 伊藤 伸太郎 教授, 主著者:Hongdong Yi(ホンドン イー)(博士後期課程学生)

https://www.itoh-lab.org/