・光合成をやめた植物がどのように光合成を失ったのかその進化を観察した例はない。
・シアノバクテリア注1)を暗所で長期間培養し光合成の能力を調べた。
・暗所に適応した株の多くは光合成で生育できないか、もしくは光合成能力が低下した。一方、暗所での呼吸による生育は親株よりも向上していた。
・ゲノム解読の結果、多数の突然変異が一つの遺伝子に集中して生じていた。
・この遺伝子phsPは、光合成と呼吸のトレードオフに関わる調節的役割を担うと推定される。
・光合成と呼吸のトレードオフを調節するシステムへの突然変異は光合成を失う進化の初期プロセスの一つかもしれない。
ナンバンギセルやギンリョウソウのように光合成の能力を失った寄生植物注2)がよく知られていますが、光合成を失う進化のプロセスを観察した例はこれまでありませんでした。名古屋大学大学院生命農学研究科の肥田 真太朗 博士前期課程学生(研究当時)、西尾 万梨恵 博士前期課程学生(研究当時)、上坂 一馬 研究員、馬場 真里 研究員、高谷 信之 研究員(研究当時)、山本 治樹 助教、井原 邦夫 准教授、藤田 祐一 教授らの研究グループは、葉緑体と同じ祖先をもち植物と同じ光合成を営む微生物シアノバクテリアを、光合成ができない暗闇で長期間培養を行い、光合成の能力の変化を調べました。その結果、実際に光合成能力の喪失・低下が起こり、そのような変化の多くは、ある遺伝子への突然変異による光合成と呼吸のトレードオフによってもたらされたことが分かりました。これらの突然変異と形質の変化は、まさに光合成を失う進化の初期プロセスと思われます。今後は、この新しい光合成と呼吸の調節メカニズムの解明と、光合成が失われるプロセスの具体的な道筋の解明につながると期待されます。
本研究成果は、2025年7月1日午前9時01分(日本時間)に日本植物生理学会誌『Plant & Cell Physiology』のオンライン版に掲載されました。
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら
注1)シアノバクテリア:
植物と同じ光合成を行う微生物。シアノバクテリアの祖先は植物の葉緑体の起源に
なったと考えられている。本研究で使ったLeptolyngbya boryana(図1)もシア
ノバクテリアの一種である。
注2)寄生植物:
光合成を行う植物に寄生する植物で、寄生先の植物(宿主となった植物)から光合
成による有機物などを得て生育するため、その多くは光合成の能力を失っている。
雑誌名:Plant and Cell Physiology
論文タイトル:Genome analysis of dark-adapted variants identifies the phosphatase gene phsP involved in the regulation of photosynthetic and dark-heterotrophic growth in the cyanobacterium Leptolyngbya boryana. (シアノバクテリアLeptolyngbya boryanaの暗所適応株のゲノム解析による光合成と暗所従属栄養生育の制御に関わるホスファターゼ遺伝子phsPの同定)
著者:肥田真太朗、西尾万梨恵、**上坂一馬、**馬場真里、**高谷信之、*山本治樹、*井原邦夫、*藤田祐一(すべて本学関係者、*名古屋大学教員、**名古屋大学研究員)
DOI: 10.1093/pcp/pcaf043
URL: https://doi.org/10.1093/pcp/pcaf043