・脳腫瘍で最も多い神経膠腫の診断に重要な2つの遺伝子変異を、術中25分以内に検出する新しい解析手法を確立し、従来の手法に比べて大幅な時間短縮が可能となった。
・IDH1変異の検出で感度98.5%、特異度98.2%、TERTプロモーター変異では感度・特異度ともに100%という、極めて高い診断精度を示した(図1)。
・手術中に複数部位での迅速遺伝子解析を行うことで、腫瘍と正常組織の境界部の同定や、より的確な腫瘍切除範囲の検討に貢献する可能性がある。
名古屋大学大学院医学系研究科 脳神経外科学の前田紗知研究員、大岡史治講師、齋藤竜太教授らの研究グループは、脳腫瘍の迅速な分子診断を可能とする新たな遺伝子解析技術を開発しました。本システムは、組織を採取してから25分以内で脳腫瘍に特徴的な遺伝子変異を検出できる、世界初の臨床応用型手法です。
マイクロ流路技術を用いた高速リアルタイムPCR装置「GeneSoC®」(杏林製薬)と、加熱処理のみで高品質DNAを抽出できる独自のプロトコルを組み合わせることで、神経膠腫の診断に極めて重要な遺伝子変異(IDH1変異・TERTプロモーター変異)を迅速かつ高精度に検出することに成功しました。
120例で手術中に解析を行い、IDH1変異に対して感度98.5%、特異度98.2%、TERTプロモーター変異に対しては感度・特異度ともに100%の診断精度が得られました。これらの遺伝子異常は腫瘍細胞にしか認めないことから、手術中に複数箇所の検体を解析することで、遺伝子異常の有無をもとに正常脳と腫瘍の境界をリアルタイムに把握できる可能性が示唆されました。本技術は手術中に腫瘍の適切な切除範囲を検討する上で有用なツールとなることが示されました。
脳腫瘍の診断および手術の精度向上に資する新たな技術として、今後の臨床応用が期待されます。
本研究成果は、2025年8月24日付(日本時間8月25日0時)国際医学雑誌『Neuro-Oncology』に掲載されました。
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雑誌名:Neuro-Oncology
論文タイトル:Rapid Intraoperative Genetic Analysis of Adult-type Diffuse Gliomas Using a Microfluidic Real-Time Polymerase Chain Reaction Device
著者:Sachi Maeda, Yotaro Kitano, Fumiharu Ohka, Kazuya Motomura, Kosuke Aoki, Shoichi Deguchi, Yoshiki Shiba, Masafumi Seki, Yuma Ikeda, Hiroki Shimizu, Kenichiro Iwami, Kazuhito Takeuchi, Yuichi Nagata, Junya Yamaguchi, Keisuke Kimura, Yuhei Takido, Ryo Yamamoto, Akihiro Nakamura, Shohei Ito, Keiko Shinjo, Yutaka Kondo, Shohei Miyagi, Kennosuke Karube, and Ryuta Saito
DOI:10.1093/neuonc/noaf188
大学院医学系研究科 脳神経外科学 大岡 史治 講師
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