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化学

2025.08.07

含フッ素化合物の分岐型合成法の開発 化合物ライブラリー構築の効率化、医薬品探索に大きく貢献

【研究概要】

・同一の原料からフッ素置換基の位置が異なる異性体(位置異性体注1))の作り分けに成功。
・フッ素置換基は医薬品に多く含まれており、創薬への貢献が期待される。
・計算化学を利用して、位置異性体を作り分ける機構を解明。

 

名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所・大学院工学研究科の大井 貴史 教授、荒巻 吉孝 助教、Tobias E. Schirmer(トビアス シルマー) 博士 (研究当時博士研究員)、内田 裕貴 氏 (研究当時 博士後期課程学生)、田浦 悠也 氏 (研究当時 博士前期課程学生)、Pablo Gabriel(パブロ ガブリエル)博士(研究当時博士研究員)、ドイツ・ミュンスター大学のLine Næsborg (リネ ネスボーグ)グループリーダー、Julian C. G. Kürschner(ユリアン キュルシュナー) 氏、 東京大学大学院総合文化研究科の横川 大輔 准教授らの研究グループは、可視光を吸収して働く光触媒を用いる反応に着目し、医薬品開発において重要なフッ素置換基をもつ化合物(含フッ素化合物)の2種類の位置異性体を同じ原料から作り分ける手法を開発しました。
フッ素置換基は化合物の脂溶性や代謝耐性を向上させる効果があるため数多くの医薬品に含まれていますが、その効果を最大化する上で最適な導入位置の決定は、異なる位置にフッ素置換基をもつ多くの化合物からなるライブラリーの構築と、それを利用したスクリーニングに依存しています。
従来、このようなライブラリーの構築では、フッ素置換基を望みの位置に導入するためには必要な原料をそれぞれ合成しなければならず、多大な労力と時間を要していました。本手法によって、光触媒として用いたカチオン性イリジウム錯体の対イオンと反応溶媒を適切に選択することで、フッ素置換基の導入位置が異なる位置異性体を作り分けることができるようになりました。また、本手法はライブラリー構築の効率を飛躍的に高め、医薬品の迅速な探索に大きく貢献するものと期待されます。また計算化学を駆使して、位置異性体の作り分けの機構についても明らかにしており、今後、新反応の開発につながる成果であると言えます。
本研究成果は、2025年6月12日付ドイツ化学会誌『Angewandte Chemie, International Edition』に掲載されました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)位置異性体:
化学式と置換基の種類は同じだが、置換基の位置が異なる関係にある化合物。

 

【論文情報】

雑誌名:Angewandte Chemie, International Edition
論文タイトル:Regiodivergent Photocatalytic Annulation for the Synthesis of gem-Difluorinated Cyclic Hydrocarbons
著者:Tobias E. Schirmer, Julian C. G. Kürschner, Yuki Uchida, Yuya Taura, Pablo Gabriel, Line Næsborg, Daisuke Yokogawa, Yoshitaka Aramaki, Takashi Ooi*
(トビアス シルマー、ユリアン キュルシュナー、内田 裕貴、田浦 悠也、パブロ ガブリエル、リネ ネスボーグ、横川 大輔、荒巻 吉孝、大井 貴史* *は責任著者)
DOI: 10.1002/anie.202502450
URL: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/anie.202502450

 

【研究代表者】

トランスフォーマティブ生命分子研究所/大学院工学研究科 大井 貴史 教授
https://www.chembio.nagoya-u.ac.jp/labhp/organic3/index.html