京都大学生態学研究センターの工藤洋 教授と村中智明 特定研究員(現在は名古屋大学大学院生命農学研究科 助教)、湯本原樹 研究員(現在は信州大学山岳科学研究拠点 特任助教)、本庄三恵 准教授らの研究グループは、永野惇 教授(名古屋大学 生物機能開発利用研究センター)、Ji Zhou教授(National Institute of Agricultural Botany, UK)との共同研究において、アブラナ科多年草のハクサンハタザオを対象とした野外トランスクリプトームと個体モニタリングにより、遺伝子発現の日周リズムが7℃以下で停止すること、その温度帯では成長も停止することを発見しました。 植物には概日時計という1日周期のリズム(日周リズム)を生み出すメカニズムがあり、様々な生理現象を昼夜サイクルに同調させて制御しています。工藤洋教授は兵庫県多可町のハクサンハタザオ自然集団の長期モニタリングを継続してきましたが、これまでの研究で気温が低下する冬季には、多くの遺伝子で日周リズムが停止し、発現が高止まりすることを報告していました。一方で、リズムが停止する閾値温度は不明でした。今回、野外トランスクリプトームの1時点データから概日時計の振動振幅を推定する方法を開発しました。その結果、日平均気温が約7℃低下すると、振幅が大きく減少することを見出しました。興味深いことに、個体サイズのモニタリングにおいて、同じく7℃以下では成長が停止することが示唆されました。概日時計の下流には低温耐性の遺伝子が含まれることから、冬季のリズム停止は、成長よりも低温耐性を優先するスイッチとして機能すると考察しました。また、今回の解析では、一部の遺伝子では冬季でも日周リズムが維持されることも明らかとなり、機械学習によるトランスクリプトームからのサンプリング時刻の推定は冬季でも可能であったことから、低温下においても時間情報は保持されていることも示唆されました。本研究成果は2025年8月7日に日本植物生理学会の国際学術誌「Plant and Cell Physiology」にオンライン掲載されました。
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概日時計:複数の遺伝子のフィードバックループにより、自律した約24時間周期のリズムを生み出す。このリズムは昼夜サイクルに同期する。
タイトル:Coincidence of the Threshold Temperature of Seasonal Switching for Diel Transcriptomic Oscillations and Growth.
著 者:Tomoaki Muranaka, Genki Yumoto, Mie N Honjo, Atsushi J Nagano, Ji Zhou, Hiroshi Kudoh
掲 載 誌:Plant and Cell Physiology
DOI: 10.1093/pcp/pcaf092
URL: https://doi.org/10.1093/pcp/pcaf092
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