TOP   >   工学   >   記事詳細

工学

2025.09.01

名大発 "GaN系"技術で半導体製造の重要課題を打開! キオクシア岩手で検査・計測の基盤技術化プロジェクト始動

【研究概要】

・半導体フォトカソード注1)技術は、電子ビームを用いた半導体製造技術に対する技術革新の可能性が示唆されていたが、産業利用上、脆弱性の課題があった。
・GaN系半導体材料注2)により、既存技術の20倍以上の高耐久性能を実現したことで、産業利用への課題が突破された。
・GaN系フォトカソードのナノ秒パルス電子ビームを活かした、選択的電子ビーム照射技術(Digital Selective e-Beaming: DSeB技術)が発明された。
・DSeB技術を用いて、メモリデバイス内の微細なトランジスタの非接触での駆動およびその観測や、高アスペクト比注3)のシリコントレンチ底部の観測に成功した。
・3D構造を有するフラッシュメモリを製造するキオクシア岩手株式会社が研究成果に基づく応用技術の導入評価を開始する。同社の製造現場において、製造工程での本技術の歩留まり(ぶどまり)改善に向けた効果が検証される。

 

2025年9月下旬、名古屋大学発スタートアップ企業の株式会社Photo electron Soul(以下PeS社)と名古屋大学 天野・本田研究室が共同で研究開発を進めるGaN系半導体フォトカソード技術について、キオクシア岩手株式会社(岩手県北上市 以下キオクシア岩手)が導入評価を開始します。
これまでにPeS社と天野・本田研究室は、GaN系半導体材料を用いた次世代光電子ビーム源(GaNフォトカソード)の共同研究を行ってきました。そしてPeS社は、この共同研究成果を活用したGaNフォトカソードからの光電子ビーム技術を用いて、微小MOSトランジスタやアスペクト比の高い構造を持つ、実際の半導体デバイスの電子顕微鏡撮像により、半導体デバイス製造の歩留まり改善に資する検査・計測に対する新しいアプローチの有効性を実証してきました。
これらの成果は、従来技術では困難だった半導体製造の前工程注4)での電気的な非接触検査・計測のみならず、高アスペクト構造深部領域における欠陥や形状の検査・計測までの可能性を拓くものであり、半導体デバイス製造における有効な解決策が無かった歩留まり課題に対して、新たなソリューションを提供すると期待されます。
キオクシア岩手はこれらの実証を受け、将来的な製造ラインにおける基盤技術としての導入を見据え、製造現場における評価を開始します。今後、実際の工程における欠陥検出や原因特定等の歩留まり向上に対する本技術導入効果を詳細に検証していく方針です。
本取組みは、大学発技術の社会実装モデルとしても注目されており、大学発スタートアップと大手企業の連携による半導体製造革新の具体的な一歩となるものです。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)半導体フォトカソード:
光照射により電子を放出する機能を持つ半導体材料で構成された電子源。特に、アルカリ金属を表面に原子層レベルに薄く形成されたものでは、半導体のバンドギャップの波長の光で電子放出が可能となる。
注2)GaN半導体材料:
窒化ガリウム(Gallium Nitride)の略で、GaNやInGaN(Indium Gallium Nitride)は近紫外領域の青色LEDなどに使用されている半導体材料。次世代パワー・通信・光電子技術の中核材料としても注目されている。
注3)アスペクト比:
半導体デバイス内での、穴や溝などの構造の深さを穴径や溝幅で割った比率。3D NANDデバイスにおいて、メモリーセルや配線層間接続などの形成では、10以上の高いアスペクト比を持つ構造が不可欠となっている。
注4)前工程:
半導体製造におけるウェーハ上への回路素子形成までの工程を指す。

 

【研究代表者】

未来材料・システム研究所 天野 浩 教授, 西谷 智博(客員准教授)
http://www.semicond.nuee.nagoya-u.ac.jp/