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化学

2025.09.22

機械学習により従来を凌駕する活性・耐久の合金触媒を特定 触媒設計の新たな戦略を確立、次世代燃料電池の実現に寄与

【研究概要】

機械学習(ML)注1)駆動の触媒設計:7種類の高エントロピー合金(HEA)注2)候補と21万超の合金組成をスクリーニングし、モリブデン(Mo)が鍵元素であり、10〜20at.% の組成で水分子の解離を促進し、CO被毒注3)を低減できることを特定した。

優れた触媒性能:PtPdRhRuMoは電流密度18.20mA/cm²および質量活性9.89A/mgPt⁻¹を達成し、市販Pt-C(白金-炭素)触媒の約8倍の性能を示した。

耐久性:10,000秒後に約50%の活性を維持し、市販Pt-C触媒系が16%しか維持できなかったのに比べ、圧倒的に優れていた。

将来展望:この戦略は、より安価なHEAへの展開も可能であり、低コストかつ高性能な触媒の発見を加速し、さまざまなエネルギー応用に寄与することが期待される。

 

高エントロピー合金(HEA)は、特異な物理化学的性質、卓越した耐久性、そして複雑な多電子移動反応を高い選択性で駆動できる能力から、有望な触媒材料群として注目されています。しかし、その構造の複雑さや有効な設計戦略の欠如により、研究の進展は限定的でした。これらの課題を克服するため、名古屋大学大学院工学研究科の山内 悠輔 卓越教授の研究チームは「モデリング―メイキング―モジュレーティング(Modeling–Making–Modulating)」と名付けた新しいボトムアップ型戦略を開発しました。本戦略は、機械学習、第一原理計算、実験的検証を統合することで、卓越した活性と耐久性を有するHEA電極触媒の探索を加速するものです。

元素スクリーニングと原子組成の最適化における機械学習の効果的な統合により、メタノール酸化反応(MOR)のような複雑反応に対するHEA触媒の合理的設計が可能となりました。特に、新規に開発されたPtPdRhRuMo合金は市販Pt-C触媒の約8倍の性能を記録しました。注目すべきは、この新しいHEAが10,000秒の安定性試験後も約50%の活性を保持した点であり、市販Pt-Cが16%しか維持できなかったのと比較して優れていたことです。

今回の合金は高価な白金族金属に依存していたものの、提案手法による正確な予測は、今後より安価で地殻に豊富に存在する金属にも幅広く応用可能です。これにより、複雑な多電子移動反応に適した低コストかつ高効率な次世代触媒の実現に道を拓くことが期待されます。

本研究は、山内卓越教授を中心とするJST-ERATO山内物質空間テクトニクスプロジェクトの一環として、遂行されました。研究成果は2025年9月3日に 「Journal of the American Chemical Society」 にオンライン掲載されました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)機械学習(ML):

人工知能の一分野で、コンピュータがデータからパターンを学習し、逐一プログラムされなくてもタスクの性能を向上させる技術。

注2)高エントロピー合金(HEA):

5種類以上の元素から構成され、原子がランダムに配列した構造をもつ合金。

注3)CO被毒:

一酸化炭素分子が触媒表面に強く吸着しすぎることで活性サイトを塞ぎ、性能を低下させる現象。

 

【論文情報】

雑誌名:Journal of the American Chemical Society (JACS)

論文タイトル:Modeling-Making-Modulating High-Entropy Alloy with Activated Water-Dissociation Centers for Superior Electrocatalysis

著者:Nam, Ho Ngoc (Nagoya Univ); Nandan, Ravi (NIMS); Fu, Lei (Nagoya Univ); Zhao, Yingji (Nagoya Univ); Kang, Yunqing (Nagoya Univ); Fukushima, Tetsuya (AIST), Sato, Kazunori (Osaka Univ); Asakura, Yusuke (Nagoya Univ), Cretu, Ovidiu (NIMS), Kikkawa, Jun (NIMS); Henzie, Joel (NIMS); P. Hill, Jonathan (NIMS); Yanai, Takeshi (Nagoya Univ); Phung, Quan Manh (Nagoya Univ); Yamauchi, Yusuke (Nagoya Univ, Univ of Queensland)

DOI : 10.1021/jacs.5c08012

URL : https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/jacs.5c08012

 

【研究代表者】

大学院工学研究科 山内 悠輔 卓越教授

https://www.nagoya-yamauchi-lab.com/index.html

 

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