No.55 町田 洋 准教授
Researchers'
大学院工学研究科
No.42 山内 悠輔 教授
一般的に、日本では他の人々と違った考え方をする人は、少し敬遠されます。逆に、私は、そのような「とがった」人間こそが面白く魅力的な存在だと感じます。「とがった」人間は、多くの場合、通常のルートや常識的な考えにとらわれず、独自の視点を持っています。そのため、新たなアイデアや発見が生まれる可能性が高まりますし、そうした人と研究することで、自分の視野も広がることもあります。
新しい「無機ナノ物質・材料」を作り出すための合成化学の研究を展開しています。2012年には世界で初めて、ナノレベル(地球を1メートルとすると、1円玉の大きさが1ナノメートル)の無数の穴が存在する「多孔化」した金属材料=金属ナノ多孔体を作り出すことに成功しました。更に最近の研究では、5種類の金属からなるナノ多孔体の合成に世界で初めて成功しました(名古屋大学プレスリリースでも紹介されました)。我々の新しいナノ多孔体は、異なる元素同士をテーラーメイドに組み合わせることもでき、通常より少ない量で大きな表面積を実現できるため、多くの応用でパフォーマンスも大きくなります。我々の研究は、物質・材料創製の根源となる合成化学の基礎研究であるため、高性能な触媒やバッテリーの他にも様々な分野での応用が期待できます。
元々化学が好き(国語や社会といった他の科目よりも出来る、という理由でだったかもしれませんが・・・)だったので、大学では化学を専攻しました。大学院では電気化学が学びたかったのですが、希望通りにはいかず、(くじ引きで負け)無機化学を学びました。
自分の将来のことを考えた大学院生の頃、化学の分野で、自分のやりたいことを、自分の意志で決められる働き方はあるかと考えていた時に、若手の採用に力を入れていた国立研究開発法人物質・材料研究機構の存在を知り、応募しました。その後、博士号取得の翌月からの採用が決まり、研究者の道に進むこととなりました。当時、最年少の終身雇用の若手研究者でした。
小さい頃から小さい物を組み立てることが大好きでした(小学生の時はミニ四駆ですね)。今でも、新しい無機材料を作る際に、どのようにしたら効率的に作れるか、どの手法や構造が最適かを学生やスタッフと考えるのが楽しみな時間なんです。無機材料の合成方法は、まだまだ開拓の余地がある分野です。今までにないナノ多孔体の作り方を見つけたり、新たな構造を創り出したりすることには、非常に面白さと魅力を感じています。これらは、まさにクリエイティブな作業であり、その中で自分達のアイデアや発見が実現する瞬間が何よりも楽しい瞬間です。
私は静岡出身なので、幼い頃から名古屋大学の存在は身近なものでした(大学進学は東京方面に行きましたが・・・笑)。名古屋大学はトップレベルの研究を推進するための環境が整っている点に魅力を感じました。特に、卓越教授制度を利用して着任することで、私の研究を更に高みへと進めることができると確信しました。また、大学側のスタッフ支援や海外の大学と同等の給与保証など、大学からのサポートにも心から感謝しています。自身の研究を通じて、大学と地域に貢献できるよう努力していきたいと考えています。
セレンディピティを掴むかどうかがポイントです。私は、定期的に実験ノートや生データを学生たちと一緒に振り返ります。これによって新たな着眼点やアイデアが浮かび上がることがあります。15年前、博士課程の学生が持ってきたデータを一緒に見ていたとき、驚くべき現象を発見しました。溶液中で何も手を加えないでいると、金属のナノ多孔体が自発的に形成されていくのです。これは今まで知られている合成ルートとは全く異なり、私たちにとって大きな発見でした。この発見をきっかけに、私たちはそのメカニズムや応用の可能性についてさらに追究しました。その結果、新しい研究分野を開拓することができました。日本では数値的な指標を出すのは敬遠されますが、欧米では被引用回数(他者から引用された回数)で論文のインパクトを表すのですが、山内論文の年間の総被引用回数はおよそ年間1万回です。それだけ世界的に注目を浴びている研究分野になりました。ノーベル受賞経験者からは、もっともっと自分の研究をさらに研ぎ澄ますように御教授して頂いております。まだまだ道半ばです。
オーストラリアと日本を行き来する日々です。最近は、自分の時間を確保する余裕がほとんどありません。朝から晩までずっと仕事に追われています。休日も同様で、仕事のことが中心です。でも実は、この仕事自体が私の道楽なんです。だから、苦にはならないんですよ。笑
現在、名古屋大学でJSTの大型プロジェクトを動かしています。私たちが提案した導電性ナノ多孔体は「第二世代無機多孔体」として、今や材料化学の世界で熱い注目を浴びています。特に金属ナノ多孔体は、ナノスケールの金属を微細な空間で結晶化させ、それでいて電気伝導性を持つ無機単結晶構造体です。従来のゼオライトやMOF/PCP、第一世代無機多孔体であるメソポーラスシリカと比べてみても、高い電気伝導性や骨格の結晶性、多様な組成・細孔構造などの面で、非常に優れた性質を持っていることが分かります。金属のみならず我々オリジナルの導電性ナノ多孔体が、異種材料の融合によって新たな電子・物理化学的な性質が引き出される可能性があります。我々の研究は、結晶中の「ナノ空間」と高度に集積化された「ハイブリッド空間」の両方を制御する新たな合成プラットフォームの確立を目指しています。
氏名(ふりがな) 山内 悠輔(やまうち ゆうすけ)
所属 名古屋大学大学院工学研究科
職名 教授
略歴・趣味
早稲田大学理工学部を卒業し、2007年に同大学院で博士課程を修了。その後、国立研究開発法人物質・材料研究機構でのグループリーダーなどの経歴を経て、2017年からはオーストラリアのクイーンズランド大学で教授を務める。2023年4月、名古屋大学において初めての卓越教授に選ばれた。忙しい日々を送っているため、現在は趣味を持っていません(みんなとおいしいものを食べておしゃべりするくらいの時間は欲しい)。
・名古屋大学研究成果発信サイト(2023/7/18)ハイエントロピー合金メソ多孔体の合成に初成功 ~複数の金属原子を組み合わせて高性能を実現~
・名古屋大学研究成果発信サイト(2023/11/6)準安定相型メソポーラス半導体 (CuTe2)の合成に成功~光エレクトロニクス材料として優れたテルル化合物の応用に道を~
・名古屋大学研究成果発信サイト(2024/6/24)貴金属原子を孤立させた金属ナノ多孔体
・名古屋大学研究フロントライン「もったいない」からナノサイズの穴を開ける...!?