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化学

2026.02.03

ジチオカーバメートラジカル触媒のデザイン~三重項ビラジカルの新たな触媒機能を発見~

【ポイント】

・ジチオカーバメート注1)を構造基盤とした新しい分子性ラジカル触媒注2)を開発
・励起三重項状態注3)のビラジカル種注4)が硫黄中心ラジカル触媒として機能
・アジリジン(窒素原子を含む3員環骨格)からアミノシクロペンタン(アミノ基を有する炭素5員環骨格)への原子効率の高い変換反応を実現

 

名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)・大学院工学研究科の大井 貴史 教授、中島 翼 助教、川口 竜寛(博士後期課程学生)、塩田 祐里菜(博士前期課程学生)、花井 悠太郎(工学部学生)らの研究グループは、可視光を吸収して働く光触媒を活用して、適切な構造を持つジチオカーバメートの三重項励起状態を発生させ、相当するビラジカル種が新たな分子性ラジカル触媒として機能することを見出しました。
本触媒を用いることで、窒素原子を含む3員環骨格を持つビニルアジリジンの選択的な変換反応が進行し、生物活性化合物などに広く見られるアミノシクロペンタン(炭素5員環骨格)を効率的に合成することができます。
本研究の成功の鍵は、分子性触媒として利用されてこなかったジチオカーバメートの構造を工夫して適切な修飾を行い、望まない分解反応を抑制しながら硫黄中心ラジカル触媒としての機能を引き出したことにあります。また、反応機構を明らかにするために詳細な実験と計算科学による解析を併用し、励起三重項状態のビラジカルが支配的な触媒活性種であることを突き止めました。今後、触媒構造のさらなる修飾を行うことで、新反応の開発につながることが期待されます。
本研究成果は、2026年1月30日付米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」オンライン速報版に掲載されました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1) ジチオカーバメート:
チオカルボニルC=S構造に窒素原子と硫黄原子が結合したNC(=S)S構造を持つ化合物群の総称(Cは炭素原子、Nは窒素原子、Sは硫黄原子)。
注2) ラジカル触媒:
ラジカル(不対電子を有する反応性の高い化学種)としての性質を示しながら、分子変換反応を促進・媒介する触媒。
注3) 励起三重項状態:
基底状態の分子が光やエネルギーを吸収することで励起され、一重項励起状態から項間交差を経て生成するエネルギーの高い化学種。
注4) ビラジカル:
同一分子内に二つの平行なスピンを有する化学種。

 

【論文情報】

雑誌名:Journal of the American Chemical Society
論文タイトル:Designer Dithiocarbamates as Radical Covalent Catalysts via Excited-State Triplet Biradicals: Application to Skeletal Reorganization of Vinylaziridines
著者:川口 竜寛塩田 祐里菜花井 悠太郎中島 翼*大井 貴史* (*は責任著者、下線は本学関係者)        
DOI: 10.1021/jacs.5c20284
URL: https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.5c20284

 

※【WPI-ITbMについて】(http://www.itbm.nagoya-u.ac.jp
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)は、2012年に文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の1つとして採択されました。WPI-ITbMでは、精緻にデザインされた機能をもつ分子(化合物)を用いて、これまで明らかにされていなかった生命機能の解明を目指すと共に、化学者と生物学者が隣り合わせになって融合研究を行うミックス・ラボ、ミックス・オフィスで化学と生物学の融合領域研究を展開しています。「ミックス」をキーワードに、人々の思考、生活、行動を劇的に変えるトランスフォーマティブ分子の発見と開発をおこない、社会が直面する環境問題、食料問題、医療技術の発展といった様々な課題に取り組んでいます。これまで10年間の取り組みが高く評価され、世界トップレベルの極めて高い研究水準と優れた研究環境にある研究拠点「WPIアカデミー」のメンバーに認定されました。

 

【研究代表者】

トランスフォーマティブ生命分子研究所/大学院工学研究科 大井 貴史 教授
https://www.chembio.nagoya-u.ac.jp/labhp/organic3/index.html