・展示設計が来館者の学びと日常生活や社会とをつなげられるか検証。
・木曽馬注1)の標本資料を使って、来館者の理解や意識の変化を明らかにした。
・感覚体験(Sense)―科学的理解(Science)―価値の意味づけ(Significance)を段階的につなぐ教育モデル「S-S-Sモデル」を実践にもとづき体系化。
名古屋大学博物館の梅村 綾子 特任助教は、岐阜大学高等研究院の高須 正規 准教授とともに、博物館における学びを段階的かつ意図的に深める教育フレームワーク「感覚体験(Sense)→ 科学的理解(Science)→ 価値の意味づけ(Significance)<S-S-Sモデル>」を、実践にもとづき体系化しました。
博物館は、文化や自然遺産を「知る」場であると同時に、来館者がそれらを自分自身の問題として「考える」場でもあります。しかし、木曽馬をテーマとした企画展①注2)の来館者調査から、文化や歴史の象徴として認知される一方で、日常生活や社会との関わりの中では自分事として結びつきにくいことが明らかになりました。
そこで企画展②注3)では、触覚(蹄の模型)、嗅覚(馬糞のにおい)、聴覚(馬市の音)など多感覚体験(Sense)を起点とし、木曽馬に関する文化的・社会的・環境的な問いや解説(Science)を段階的に提示しました。さらに、「木曽馬のどのような点を、誰かに伝えたいと思いましたか」といった問いかけを通じて、来館者が展示体験を振り返り、その意味を自らの言葉として表現(Significance)する機会を設けました。その結果、来館者は展示を受動的に鑑賞するだけでなく、木曽馬の価値や保存の意義を整理し、他者に伝えることを意識した反応を示しました。
この教育モデルは木曽馬に限らず、博物館における人と遺産、社会をつなぐための実践的で汎用性の高い教育モデルとして期待されます。名古屋大学博物館学生運営スタッフMusaForum注4)と実施している展示・イベント企画でも活用されています。
本研究成果は、2026年2月16日付の国際学術誌『Journal of Museum Education』オンライン版に掲載されました。
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注1)木曽馬:
本州唯一の日本在来馬であり、文化的・歴史的価値が高いことから、保存と活用のあり方が社会的課題となっている。在来系統を代表する個体として知られる「第三春山号」は、約700頭の子孫を残し、木曽馬の保存に大きく貢献した。その骨格標本は名古屋大学博物館に、剥製標本は開田郷土館に収蔵されている。
注2)企画展①:
名古屋大学博物館第29回特別展「岐阜大・名古屋大 博物館コラボ展」(会期:2022年10月11日~2023年5月6日、会場:名古屋大学博物館)の一角で、木曽馬に関する展示を行った。会期中、「木曽馬とは何か?」という問いを設定し、来館者から自由記述による回答(88名)を収集した。さらに、その結果をもとに、市民参加の対話型イベント「木曽馬とともに生きる楽しみを考えてみよう」(2023年4月29日開催)を実施した。
注3)企画展②:
2024年4月22日から5月12日まで、木曽町文化交流センターにおいて、名古屋大学博物館出張企画展「木曽馬とはどんな馬なのか」(共催:木曽町、後援:木曽町教育委員会)を開催。展示期間中には任意回答によるアンケート調査を実施し、75名の回答を収集した。
注4)名古屋大学博物館学生運営スタッフMusaForum:
2020年4月に設立された、名古屋大学博物館を拠点とする学生運営スタッフ団体。2026年1月現在、現役229名(累計358名)が在籍し、名古屋大学および他大学の多様な専門分野をもつ学生が参画している。博物館を拠点に、地域と連携しながら、さまざまなテーマの展示・イベント企画を企画・運営している。
雑誌名:Journal of Museum Education
論文タイトル:Sense-Science-Significance Model: A Museum Education Framework for Engaging Visitors with Cultural Heritage
著者:梅村綾子(名古屋大学博物館)、高須正規(岐阜大学高等研究院)
DOI: 10.1080/10598650.2026.2619268
URL: https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/10598650.2026.2619268