名古屋大学宇宙地球環境研究所の檜山 哲哉 教授、秋田県立大学 生物資源科学部 生物環境科学科の田代 悠人 助教[専門:生物地球化学](自然生態管理学研究室)らの共同研究チームは、地球温暖化による永久凍土融解によって、北東シベリアのコリマ川におけるCa 2+、Mg 2+、SO 4 2-濃度が長期的上昇傾向にあることを解明し、その成果が国際学術誌「Global Biogeochemical Cycles」に掲載されました。
・北極圏は世界で最も温暖化が著しい地域です。温暖化に伴う永久凍土の融解は、これまで凍結していた土壌鉱物類の露出を招き、化学的風化作用を促進します。その結果、新たに溶け出した風化由来イオン(Ca 2+、Mg 2+、SO 4 2-)が河川へと流出します。本研究では、北東シベリアのコリマ川(流域面積は日本の国土の約1.7倍)において、1980年から2022年までの長期的な水質傾向とその変動メカニズムについて解析しました。
・この川では過去43年間で風化由来イオンの濃度が有意に上昇していました。さらに、これらの濃度上昇は気温と土壌温度の上昇、および活動層(永久凍土の上層に位置し、夏季に融解する土壌層)の深化と密接に関連していました。特に、北東シベリアが記録的熱波に見舞われた2020年には、風化由来イオンの濃度が過去最高値を記録しました。これは、熱波による異常高温が、「エドマ」と呼ばれる含氷率の高い永久凍土の融解を加速させた結果と考えられます。これらの結果は、極端な気温上昇が、風化由来イオンを北極圏の河川に大量流出させる誘因となる可能性を示唆しています。
・これらの発見は、温暖化が進むなかで北極圏の河川システムがどのように変貌し、さらに河川を介した化学成分輸送が北極海にどのような影響を及ぼすかを理解する上で重要です。したがって、永久凍土融解に伴う環境変化を正確に把握するには、「河川水質」「気候」「永久凍土の状態」を統合的にモニタリングしていくことが不可欠です。
・今後の展望…近年、北極圏では記録的な熱波が発生しており、今後その頻度と強度は増加すると予測されています。このような異常気象に起因する河川を通じた化学物質の大量放出は、従来の緩やかな温暖化予測の枠組みでは捉えきれない急激な北極海の水質変化を引き起こす可能性があります。今後は、こうした極端現象が北極圏の物質循環に与えるインパクトを精緻に予測し、北極圏の河川システム変貌の全容解明を目指します。
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本研究成果は,国際学術誌「Global Biogeochemical Cycles」誌に,令和8年2月18日に掲載されました。
・論文タイトル
『Long-Term Increases in Ca2+, Mg2+, and SO42− Concentrations in the Kolyma River (1980–2022) Due To Yedoma Degradation』 (エドマ融解によるコリマ川のCa2+、Mg2+、SO42−濃度の長期的な上昇(1980~2022年))
・著者
Y. Tashiro, T. Hiyama, H. Kanamori, L. Lebedeva, H. Park, O. Makarieva, P. Nikitina, S. R. Fassnacht, A. Zemlianskova, O. Zhunusova and K. Suzuki
・DOI
http://dx.doi.org/10.1029/2025GB008825
宇宙地球環境研究所 檜山 哲哉 教授
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