北極の温暖化の一因と考えられている水蒸気量の増加について、その起源を解析した結果、夏はユーラシア大陸からの、秋は北極海からの水蒸気が長期的に増えていることが分かりました。
このうち、特に夏は、陸域から北極へ運ばれる水蒸気が持つ温室効果によって海氷が溶けやすくなった結果、水蒸気の流れがさらに強まるという連鎖的な仕組みを見出しました。
北極の温暖化は偏西風の流れを変え、日本の気候にも影響すると考えられています。本研究は、夏の豪雨、冬の寒波などの異常気象を理解するための手がかりになります。
北極域*1は地球全体の平均よりも速いペースで温暖化が進んでおり、その要因のひとつとして大気中の水蒸気量の増加があります。
気象研究所 中村 哲研究官、北海道大学大学院地球環境科学研究院 佐藤友徳教授 、名古屋大学宇宙地球環境研究所 福富慶樹特任准教授、檜山哲哉教授らの研究グループは、水蒸気の起源を追跡することが可能な数値モデル(タグ付き水蒸気輸送モデル*2)と複数の大気再解析データ*3を用いて、1980年から2024年までの北極域における水蒸気輸送を解析しました。
その結果、夏(6月から8月)にはユーラシア大陸から北極域へ運ばれる水蒸気の増加が、また秋(10月から12月)には海氷の減少に伴う北極海からの蒸発量の増加が、北極域における水蒸気の増加の主な要因であることを明らかにしました。さらに、陸域から運ばれた水蒸気の温室効果により海氷が溶けやすくなり、海氷の減少によって変化した風の流れが北極域への水蒸気流入を強めるという、連鎖的な仕組み(フィードバック構造)が働く可能性を世界で初めて示しました。
北極域の気候変化は偏西風の流れの変化などを通じて中・高緯度地域にも波及し、異常天候や極端気象にも影響することが指摘されています。また、水循環の変化は、降水や干ばつに関係するだけでなく、温室効果を介して地球規模の温暖化にも影響します。本研究の成果は我が国における将来の気候予測や、夏の豪雨、冬の寒波などの極端気象の理解の向上に貢献することが期待されます。
本研究成果は、2026年4月21日付でSpringer Natureが発行する「npj Climate and Atmospheric Science 」誌に掲載されました。
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら
*1.北極域(Arctic Region)
北極点を中心とする高緯度地域の総称。本研究では主に北緯66度以北を対象としており、北極海とその周辺の陸域を含む。
*2.タグ付き水蒸気輸送モデル(Tagged Moisture Transport Model)
水蒸気がどこから蒸発し、どこへ運ばれたのかを追跡することができる数値モデル。地域ごとに水蒸気の起源を区別して解析することができる。色水モデルと言われることもある。
*3.大気再解析データ(Reanalysis)
観測データと数値モデルを組み合わせて、過去の大気状態を再現したデータ。気候変動の長期解析などに広く用いられている。
掲載誌:npj Climate and Atmospheric Science
タイトル:Interlinks between sea-ice melting and continental wetting under a changing Arctic moisture transport
著者名:Tetsu Nakamura1, Tomonori Sato2, Yoshiki Fukutomi3, Tetsuya Hiyama3
所属:1気象研究所 2北海道大学 3名古屋大学
DOI: 10.1038/s41612-026-01389-6
URL: https://www.nature.com/articles/s41612-026-01389-6
宇宙地球環境研究所 檜山 哲哉 教授
https://hydroclimatologylab.home.blog/member/hiyama/