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工学

2026.05.08

強誘電体のドメイン構造を原子レベルで解明 ペロブスカイト層数の「偶数・奇数」が支配する新たな設計原理を発見

【ポイント】

・走査透過電子顕微鏡(STEM)注1)を用いて、層状ペロブスカイト注2)強誘電体注3)のドメイン構造注4)を原子レベルで直接観察。
・ペロブスカイト層の層数nと偶奇性に応じてドメイン構造が本質的に異なることを発見。
・n = 4のハイブリッド間接型強誘電体注5)では、中性および帯電したドメイン壁注6)が共存する新しいドメイン構造を発見し、原子レベルで形成機構を解明。
・次世代メモリやナノ電子デバイス設計に新たな指針を提示。

 

名古屋大学未来材料・システム研究所の長田 実 教授らの研究グループは、層状ペロブスカイト強誘電体におけるドメイン構造の形成メカニズムを原子レベルで初めて解明しました
本研究では、新型強誘電体 Cs(Bi2Srn–3)(Tin–1Nb)O3n+1(n = 3–5)注7)を対象に、走査透過電子顕微鏡解析を実施しました。その結果、奇数層(n = 3)では中性ドメイン壁のみが現れるのに対し、n = 4および5では中性と帯電ドメイン壁が共存するという本質的な違いを確認し、ペロブスカイト層数の偶奇性が、強誘電性の発現機構とドメイン構造を決定づけることを発見しました。
特に、偶数層(n = 4)ではハイブリッド間接型強誘電体へと転移し、従来未解明だったドメイン構造の謎に迫る重要なモデル系であることが明らかになりました。これにより、ハイブリッド間接型強誘電体におけるドメイン構造の統一的理解を世界で初めて提示しました。本成果は、次世代メモリやナノ電子デバイス設計に新たな指針を与えるものと期待されます。
本研究成果は、2026年4月21日付米国化学会材料化学誌「Chemistry of Materials」のオンライン速報版に掲載されました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)走査透過電子顕微鏡(STEM):
電子線を試料に走査しながら透過電子を検出する電子顕微鏡。原子レベルの分解能で物質の構造を観察できる。

 

注2)ペロブスカイト:
ロシアの科学者ペロフスキーによって発見された天然鉱物灰チタン石(CaTiO3)。一般式ABO3で表され、TiO6八面体を基本ユニットとした構造。代表的な物質にチタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸鉛(PbTiO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3:略称PZT)などがあり、強誘電体に好適な構造として知られている。さらに、関連化合物として、ペロブスカイト型構造が他のブロック構造と交互に積層した層状ペロブスカイトがある。層状ペロブスカイトは、層間のブロック構造により、酸化ビスマス層が内包したAurivillius型、アルカリ土類金属イオンが内包したRuddlesden-Popper型およびアルカリ金属イオンが内包したDion-Jacobson型がある。

 

注3)強誘電体:
絶縁体の一種で、外部より与える電圧の向きに応じて電気分極のプラス、マイナスが反転し、しかも電圧がゼロとなっても分極が保たれる性質を持つ物質。強誘電性を利用したメモリは、高速書き換えが可能、電源を切っても記憶内容が消えない、消費電力が少ないなどの優れた特徴があり、電車のICカードなどで広く使用されている。また、強誘電体は、押したり引っ張ったりして結晶を変形させることで電場が発生し、逆に電場をかけることによって結晶が変形したりする圧電性を併せ持つ。この圧電性は、インクジェットプリンタのヘッド、3Dプリンタのマイクロデバイス、各種アクチュエーター、振動発電床などとして広く用いられている。

 

注4)ドメイン構造:
強誘電体結晶内に混在する、分極の向きがそろった微小領域(ドメイン)。メモリ素子やセンサに応用され、外部電場によって分極の向きを変え(反転)、保持できる性質を有する。180度ドメイン壁や90度ドメイン壁などの境界が存在し、分極反転によりこの壁が動くことで強誘電性が発現する。

 

注5)ハイブリッド間接型強誘電体:
八面体の回転や傾斜といった構造変化が連動し、結晶構造の反転対称性を破ることで自発分極が生じる新しい強誘電体。原子変位により直接的に強誘電性が発現する従来モデル(直接型モデル)に対して、副次的に強誘電性が発現するため、ハイブリッド間接型強誘電体と呼ばれる。主に層状ペロブスカイトで研究が進んでいる。

 

注6)中性ドメイン壁、帯電ドメイン壁:
中性ドメイン壁は、分極方向の異なる2つの領域(ドメイン)の境界において電荷の過不足が生じず、静電エネルギーが最小となる安定な界面。他方、帯電ドメイン壁は、強誘電体内部で分極の向きが異なる領域(ドメイン)の境界に、電束密度の不連続性によって電荷が蓄積した界面。
中性ドメイン壁は、通常、自発分極の方向と平行に形成され、帯電ドメイン壁のように強くピン止めされないため、比較的容易に移動できる性質がある。他方、帯電ドメイン壁は高い電気伝導性や特異な機能を示し、次世代の高速・低消費電力メモリや電子素子(メモリスター)への応用が期待されている。

 

注7)新型強誘電体 Cs(Bi2Srn–3)(Tin–1Nb)O3n+1(n = 3–5):
研究グループオリジナルの層状ペロブスカイト強誘電体。分子レベルの積木細工により、従来合成が困難とされていた多層ペロブスカイト(Cs(Bi2Srn−3)(Tin−1Nb)O3n+1; n = 4, 5)の合成に初めて成功した。
名古屋大学プレスリリース(2024.09.03)
https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2024/09/post-717.html

 

【論文情報】

論文誌 :Chemistry of Materials
タイトル:Atomic-Scale Visualization of Competing Polar Orders in Dion–Jacobson Layered Perovskites
著 者(研究当時):
森田 秀(名古屋大学大学院工学研究科・博士課程3年)
西橋慧太(名古屋大学大学院工学研究科・博士課程1年)
丹羽慧人(大阪公立大学大学院工学研究科・修士課程2年)
小林 亮(名古屋大学未来材料・システム研究所・准教授)
山本瑛祐(名古屋大学未来材料・システム研究所・助教)
漆原大典(名古屋工業大学生命・応用化学類・助教)
浅香 透(名古屋工業大学生命・応用化学類・准教授)
笠井秀隆(大阪公立大学大学院工学研究科・准教授)
森 茂生(大阪公立大学大学院工学研究科・教授)
長田 実*(名古屋大学未来材料・システム研究所・教授)*責任著者

 

DOI: 10.1021/acs.chemmater.5c03317
URL: https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.chemmater.5c03317

 

【研究代表者】

未来材料・システム研究所 長田 実 教授

https://mosada-lab-nagoya.com