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生物学

2026.06.01

小脳が「危険」と「安全」を見分ける仕組みを解明~行動を柔軟に切り替える脳内部モデルの実体に迫る~

【ポイント】

・ゼブラフィッシュの小脳注1)が「危険」と「安全」を区別して表現する神経回路を持つことを発見。
・小脳内に危険・安全それぞれに応答する神経細胞集団が形成されることを解明。
・環境の変化に応じて神経活動が柔軟に変化し、学習を支える仕組みを明らかに。
・小脳が運動制御に加えて、価値判断や意思決定に関わる重要な役割を担うことが示され、精神・神経疾患の理解や治療への応用が期待される。

 

名古屋大学大学院理学研究科の小山 航 博士後期課程学生(研究当時)、清水 貴史准教授、日比 正彦 教授らの研究グループは、理化学研究所脳神経科学研究センターの岡本 仁 客員主管研究員の研究グループ、ワイツマン科学研究所の川島 尚之 博士との共同研究で、小脳が「危険」と「安全」に関する価値情報注2)を区別して表現し、それに基づいて行動を制御する仕組みを明らかにしました
動物は、環境中の手掛かりから「危険」や「安全」を学習し、それに応じて行動を選択します。このような能力は生存に不可欠ですが、その神経基盤は十分に解明されていませんでした。
本研究では、ゼブラフィッシュを用いた仮想現実(VR)環境とカルシウムイメージング技術注3)を組み合わせ、行動中の小脳の神経活動を解析しました。その結果、小脳神経回路が「危険」と「安全」を表す内部モデル注4)を形成し、それをもとに回避行動を制御していることを明らかにしました。
さらに、環境のルール(色と危険・安全の対応)を変更すると、神経活動も柔軟に変化し、新しいルールに適応することが分かりました。
本研究により、小脳が運動制御に加えて、価値判断や意思決定に関わる重要な役割を担うことが示され、精神・神経疾患の理解や治療への応用が期待されます。
本研究成果は、2026年5月30日午前3時(日本時間)付で米国科学雑誌『Science Advances』に掲載されました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)小脳とその神経回路:
小脳は脳の後方に位置する構造で、運動の正確さやタイミングの調整に重要な役割を果たす。近年では、学習や意思決定、感情に関わる情報処理にも関与することが明らかになってきている。小脳は主に、顆粒細胞、プルキンエ細胞、出力神経細胞などから構成される。顆粒細胞は外部からの感覚・運動情報を受け取り、プルキンエ細胞へ伝える。プルキンエ細胞はこれらの情報と誤差信号を統合し、小脳の出力を制御する中心的な神経細胞である。出力神経細胞は、小脳で処理された情報を他の脳領域へ伝え、行動の制御に関与する。本研究では、この小脳神経回路が「危険」や「安全」といった価値情報を表現し、それに基づいて行動を制御することを示した。
注2)価値(バレンス, valence):
刺激や状況が「好ましい(安全)」か「好ましくない(危険)」かといった意味的な価値のこと。脳はこの価値情報をもとに行動を選択する。本研究では、小脳内に危険と安全をそれぞれ表現する神経細胞群が存在することが明らかになった。
注3)カルシウムイメージング:
神経細胞の活動に伴って細胞内のカルシウム濃度が変化することを利用し、神経活動を光で可視化する技術。本研究では、行動中のゼブラフィッシュの小脳神経細胞の活動をリアルタイムで観察するために用いた。
注4)内部モデル:
脳内に形成される、外界の状態や行動に関連する情報を脳内で表現する仕組み。運動制御では、感覚情報や運動情報を統合して適切な行動を導くために用いられると考えられている。本研究では、小脳が「危険」や「安全」を表現する内部モデルを形成し、それに基づいて回避行動を制御していることを示した。

 

【論文情報】

雑誌名:Science Advances
論文タイトル:The cerebellum implements structured representation of valence to support adaptive behavior control
著者:Wataru Koyama(名古屋大学、現カリフォルニア大学サンディエゴ校), Yuki Tanimoto(理化学研究所), Tanvir Islam(理化学研究所), Makio Torigoe(理化学研究所), Takashi Shimizu(名古屋大学), Takashi Kawashima(ワイツマン科学研究所), Hitoshi Okamoto(理化学研究所), Masahiko Hibi(名古屋大学)
DOI: 10.1126/sciadv.aeb5860
URL: http://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.aeb5860

 

【研究代表者】

大学院理学研究科 日比 正彦 教授, 小山 航(研究当時;博士後期課程学生)
https://bbc.agr.nagoya-u.ac.jp/~junkei/new/index.html