生物学
2026.08.31
腱・靱帯の形成に関わる遺伝子の働きを調節するDNA領域を発見 ~腱が筋肉を骨の正しい部位に導く仕組みの一端を解明~
・筋肉と骨をつなぐ腱・靱帯の形成に必要な遺伝子の働きを調節するDNA領域(エンハンサー)を新たに発見しました。
・このエンハンサーは、シーラカンスからヒトまで共通して受け継がれており、生物の進化の過程でも重要な役割を果たしてきたことが分かりました。
・このエンハンサーを失ったマウスでは、上腕骨の骨隆起の一つである三角筋粗面が形成されず、筋肉が骨に付着する位置もずれることを確認しました。
・本成果は、腱や靱帯がどのようにつくられ、筋肉と骨が正しくつながるのかを理解する手がかりとなり、将来的には腱・靱帯の再生医療の開発につながることが期待されます。
名古屋大学大学院生命農学研究科の隅山健太教授は、広島大学大学院医系科学研究科・生体分子機能学の山家新勢大学院生、宿南知佐教授、京都大学医生物学研究所の渡邊仁美助教、近藤玄教授らとの共同研究により、腱・靱帯の成熟に不可欠な転写因子Scx(※1)の発現を制御するエンハンサー(※2)を同定し、その役割を明らかにしました。
本研究グループは、まず、lacZTgマウス(※3)胚を用いて候補となるゲノム領域の活性を解析し、マウスScx遺伝子の一部とその下流領域を含む5.3 kbのゲノム領域にエンハンサー活性があることを明らかにしました。さらに、この5.3 kb領域に含まれる進化的に高度に保存された領域(CSE)にもエンハンサー活性があることを見出しました。
次に、ゲノム編集技術によりCSEを欠失したマウスを作製して解析したところ、四肢形成過程でScxの発現が大きく低下していました。
また、通常は上腕骨に形成される三角筋(※4)粗面が消失し、三角筋と上腕筋の付着位置が上方へ移動していました。これらの結果から、CSEを介したScxの発現は、三角筋粗面の形成だけでなく、筋肉を適切な位置へ導いて骨に付着させるためにも重要であることが明らかになりました。
本研究は、腱によって制御される骨隆起の形成と筋肉の付着位置決定の仕組みの理解につながる成果です。
本研究成果は、2026年6月1日付けで、「Development」に掲載されました。
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら
(※1) Scleraxis (Scx)
腱・靱帯前駆細胞、腱・靱帯細胞で特異的に発現する転写因子。Scxが欠失したマウスでは、腱・靭帯およびその付着部で著しい成熟不全が観察される。マウスでは、第15番染色体のblock of proliferation 1 (Bop1)の遺伝子座に反対向きに位置している。
(※2) エンハンサー
特定の細胞や時期において、標的となる遺伝子の発現を調節・増強するDNA領域。転写因子などのタンパク質がこの領域に結合することで標的遺伝子の転写活性を制御する。
(※3) lacZトランスジェニックマウス (lacZ Tgマウス)
lacZレポーター遺伝子を導入した遺伝子改変マウス。lacZ発現部位がX-gal染色によって青色になり可視化される。lacZ遺伝子とともにミニマルプロモーター・エンハンサー候補領域を導入し、lacZの発現パターンを解析することで、エンハンサー候補領域の転写活性を検証できる。
(※4) 三角筋
鎖骨・肩甲骨から上腕骨に付着する筋肉。上腕を水平・上下方向に動かす役割がある。肩関節のなかで最も強力な外転筋であると同時に、肩関節を覆うことで衝撃を吸収する保護の役割がある。
論文タイトル
Divergent temporal control of deltoid tuberosity and limb tendon development by an evolutionarily conserved scleraxis enhancer
著者
山家 新勢1†、隅山 健太2†、渡邊 仁美3、滝本 晶4、佐々木 隆子5、近藤 玄3、Denitsa Docheva6、宿南 知佐1*
1.広島大学・大学院医系科学研究科・生体分子機能学
2.名古屋大学・大学院生命農学研究科・動物遺伝育種学
3.京都大学・医生物学研究所・統合生体プロセス分野
4.京都大学・再生医科学研究所・生体分子設計分野
5.大分大学・医学部・薬理学講座
6.Department of Musculoskeletal Tissue Regeneration, Orthopaedic Hospital König-Ludwig-Haus, Julius-Maximilians-University Würzburg
(†共同筆頭著者)(*責任著者)
掲載雑誌
Development
DOI番号
doi.org/10.1242/dev.205325
https://doi.org/10.1242/dev.205325
本研究成果は、同誌のResearch Highlightsの一つとして紹介され、研究内容に関する著者インタビュー記事“The people behind the papers – Chisa Shukunami, Shinsei Yambe and Kenta Sumiyama”(doi.org/10.1242/dev.205819)も掲載されています。