・臓器にコラーゲンが過剰に蓄積する「線維化」は、特発性肺線維症、心肥大、肝硬変、慢性腎不全、難治性がんなど、多くの病気に関与しますが、現在、決定的な治療薬はありません。
・線維化した臓器で筋線維芽細胞が産生するコラーゲンは、その構成アミノ酸の約20%をプロリンが占めています。本研究では、コラーゲンの主材料となるプロリンの産生を促進する分子としてBCAT1(Branched chain amino acid transaminase 1)を同定しました。
・BCAT1を欠損させたマウスや、BCAT1の阻害剤を投与したマウスでは、線維化を誘導した心臓におけるプロリン量が減少し、それに伴ってコラーゲン量も低下しました。BCAT1は新たな線維化治療法の開発のための標的分子になる可能性が考えられます。
名古屋大学環境医学研究所生体適応・防御研究部門・大学院医学系研究科疾患制御学の仲矢道雄教授らの研究グループは、九州大学薬学研究院の濱瀬健司教授、平井剛教授、徳島大学先端酵素学研究所の小迫英尊教授との共同研究で、線維化した心臓において、BCAT1がコラーゲンタンパク質の主要な材料であるアミノ酸「プロリン」の産生を増やすことで、コラーゲンタンパク質の産生を促進することを発見しました。
コラーゲンは、さまざまな臓器に適度に存在し、臓器の形や弾力を保つために重要なタンパク質です。しかし、臓器に炎症が起こると、コラーゲンが必要以上に作られ、臓器にたまることがあります。この状態を「線維化(*1)」と呼びます。線維化が進むと臓器が硬くなり、本来の働きが損なわれ、病気はさらに悪化します。
線維化は、特発性肺線維症、心肥大、肝硬変、慢性腎不全、難治性がん(膵臓がんなど)など、さまざまな病気に関わっており、先進国における全死亡原因の約45%に関係します。しかし現在のところ、線維化を改善する決定的な治療薬はありません。そのため、線維化が進む過程で重要な役割を果たすタンパク質を見つけ、それを標的とした新しい治療薬を開発することが期待されています。
本研究では、心臓の線維化時にBCAT1というタンパク質がコラーゲンタンパク質のアミノ酸の約20%をも占めるプロリンの産生を促進することで、コラーゲンタンパク質量を増加させることを世界で初めて発見しました。BCAT1は健康な心臓には存在せず、心臓の線維化の進行に伴って筋線維芽細胞(*2)に特異的に発現することも見出しました。
本研究は、BCAT1を標的とした新たな線維化治療法の開発につながることが期待されます。
本研究成果は、2026年9月1日付(日本時間9月2日午前1時)で『Journal of Clinical Investigation』に掲載されました。
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*1)線維化:コラーゲンなどの細胞外マトリックスタンパク質が臓器内に過剰に蓄積し、臓器が硬くなった状態。
*2)筋線維芽細胞:臓器の損傷や炎症に応じて出現し、コラーゲンなどの細胞外マトリックスタンパク質を産生することで、組織の修復や線維化を担う細胞群。正常な臓器にはほとんど存在せず、組織が傷害を受けた際に、線維芽細胞をはじめとするさまざまな細胞が分化・活性化することで生じる。
雑誌名:Journal of Clinical Investigation
論文タイトル:Branched chain amino acid transaminase 1-mediated pathway promotes proline-dependent collagen production in cardiac myofibroblasts
著者:Noburo Takizawa1, Takanori Hironaka1, Hayato Watanabe1, 2, Haruna Suetsugu1, Keisuke Yoshioka1, Yuma Horii1, Yuri Nagata3, Hiroaki Matoba4, Hidetaka Kosako5, Kenji Hamase3, Go Hirai4, Michio Nakaya1, 2
1Department of Disease Control, Graduate School of Pharmaceutical Sciences, Kyushu University, Fukuoka, Japan.
2Department of Disease Control, Research Institute of Environmental Medicine, Nagoya University, Nagoya, Japan.
3Department of Drug Discovery and Evolution, Graduate School of Pharmaceutical Sciences, Kyushu University, Fukuoka, Japan.
4Department of Pharmaceutical Synthetic Chemistry, Graduate School of Pharmaceutical Sciences, Kyushu University, Fukuoka, Japan.
5Division of Cell Signaling, Fujii Memorial Institute of Medical Sciences, Institute of Advanced Medical Sciences, Tokushima University, Tokushima, Japan.
DOI: 10.1172/JCI182216
URL: https://doi.org/10.1172/JCI182216
大学院医学系研究科 仲矢 道雄 教授
https://www.riem.nagoya-u.ac.jp/noukinou.html