工学
2026.09.30
高活性・高耐久な燃料電池用触媒を開発 ~白金をグラフェンで包み長寿命化、自動車など燃料電池の利用拡大へ道~
・白金ナノ粒子を窒素ドープ数層グラフェン注1)で包み、単層カーボンナノチューブ注2)上に固定した新しい燃料電池用触媒を開発。
・グラフェンと白金の相互作用により、市販触媒を上回る酸素還元反応注3)活性を実現。
・実際の燃料電池を模した膜電極接合体注4)を用いた試験で、30,000サイクル後も触媒表面積の96.9%を維持する高い耐久性を実証。
・燃料電池の高性能化・長寿命化を通じて、自動車や大型輸送機械への普及拡大に貢献。
名古屋大学大学院工学研究科および未来社会創造機構マテリアルイノベーション研究所のMiftakhul Huda(ミフタフル フダ)特任講師、于 初陽(ウ チューヤン) 博士後期課程学生、松尾 豊 教授らの研究グループは、株式会社名城ナノカーボンと共同で、窒素を導入した数層グラフェンで白金ナノ粒子を包み込み、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)上に固定した新しい燃料電池用電極触媒「Pt@N-FLG/SWCNT」を開発しました。固体高分子形燃料電池(PEFC)注5)は、水素と酸素から電気を生み出し、発電時に二酸化炭素を排出しないことから、水素社会を支える重要なエネルギー変換技術として期待されています。一方、その普及には、電極に用いる高価な白金触媒の高活性化と長寿命化、さらに白金を固定するカーボン材料の腐食抑制が重要な課題となっています。本研究では、白金ナノ粒子を窒素ドープ数層グラフェン(N-FLG)で包むことで白金自体を保護すると同時に、従来のカーボンブラックに代えて、化学的耐久性に優れるSWCNTを触媒担体として利用しました。さらに、窒素ドープグラフェンと白金との強い相互作用が白金の電子状態を変化させ、酸素還元反応に適した状態を形成することを明らかにしました。その結果、開発した触媒は市販の白金/カーボン(Pt/C)触媒を上回る高い酸素還元反応活性を示しました。実際の燃料電池を模した膜電極接合体(MEA)で評価したところ、30,000サイクルの加速耐久試験注6)後にも電気化学的表面積注7)の96.9%を保持しました。また、1.0~1.5 Vという厳しい高電位条件で5,000サイクルの耐久試験を行った後も、電気化学的表面積の低下は27.2%に抑えられ、高電流密度1.5 A/cm2において電圧低下が観測されませんでした。
これらの結果は、米国エネルギー省(DOE)が2025年目標として設定した電極触媒とカーボン担体の両方の耐久性基準を上回るものであり、高性能かつ長寿命な次世代燃料電池の実現につながる成果です。
本研究成果は、2026年8月24日付で米国化学会の触媒専門誌『ACS Catalysis』にオンライン掲載されました。
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注1)窒素ドープ数層グラフェン(N-FLG:Nitrogen-Doped Few-Layer Graphene):
炭素原子が六角形状に配列したグラフェン数層からなる構造に、一部の炭素原子を置き換えるなどして窒素原子を導入した材料。窒素の導入によって電子状態や化学反応性を制御することができる。
注2)単層カーボンナノチューブ(SWCNT:Single-Walled Carbon Nanotube):
炭素原子からなるグラフェンシートを直径数ナノメートル程度の筒状にしたナノ材料。高い電気伝導性、機械的強度、化学的安定性を有する。
注3)酸素還元反応(ORR:Oxygen Reduction Reaction):
燃料電池のカソード(空気極)で酸素が還元され、水を生成する反応。反応速度が比較的遅いため、白金などの高性能な触媒が必要となる。
注4)膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly):
高分子電解質膜の両側に触媒層を配置した、燃料電池の発電反応が実際に起こる中核部品。
注5)固体高分子形燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell):
水素と酸素の電気化学反応によって電気を取り出す燃料電池。比較的低温で作動し、高い出力密度を持つことから、自動車用をはじめ幅広い用途への応用が進められている。
注6)加速耐久試験(ADT/AST):
燃料電池を長期間使用した際に生じる触媒や担体の劣化を、電位を繰り返し変化させるなどの方法によって短時間で評価する試験。
注7)電気化学的表面積(ECSA:Electrochemically Active Surface Area):
触媒中の白金表面のうち、実際に電気化学反応に利用できる表面積。燃料電池触媒の性能や劣化を評価する代表的な指標の一つ。
雑誌名:ACS Catalysis
論文タイトル:
Pt–N Interactions and Nitrogen-Doped Graphene-Shell Encapsulation in Platinum Electrocatalysts Supported by SWCNTs for Enhanced ORR Activity and Durability
著者:
Chu-Yang Yu, Qiao Chen, Xue-Lin Zheng, Kiho Yamada, Takeshi Hashimoto, Nagahiro Saito, Masaya Kawasumi*, Miftakhul Huda*, Yutaka Matsuo*
(*責任著者)
掲載日:2026年8月24日(オンライン)
DOI:10.1021/acscatal.6c03908
URL: https://doi.org/10.1021/acscatal.6c03908
大学院工学研究科・未来社会創造機構マテリアルイノベーション研究所 松尾 豊 教授
https://www.matsuo-lab.net