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数物系科学

2026.10.27

巨大宇宙嵐で放射線帯の"破られない壁"が破られた!~鍵は内壁で生まれる超高エネルギー電子、「あらせ」衛星が初観測~

【ポイント】

・2024年5月の観測史上最大級の宇宙嵐注1)で、超高エネルギー電子が入り込めない「破れない壁」とされてきた地球近傍(高度約1万2千km以下)の領域の内側に、超高エネルギー電子が新たに生まれていた。「あらせ」衛星注2)が世界で初めてこれを直接とらえた。
・壁の内側で電子の量(位相空間密度)注3)が局所的に増えていたことから、電子は壁の外から入ってきたのではなく、壁の内側で生成されていた。「安定している」とされてきた領域が、巨大な宇宙嵐のときには、超高エネルギー電子の発生源になりうることが分かった。
・加速を起こしたのは、鳥のさえずりのように聞こえる宇宙の電波「コーラス波」注4)。嵐に伴う「負の電離圏嵐」注5)の影響で壁の内側のプラズマが極端に薄くなり、コーラス波が電子を効率よく加速できる状態になっていた。
・この仕組みを宇宙天気注6)予報に取り入れれば、人工衛星や有人宇宙活動に影響する放射線環境をより正確に予測できると期待される。

 

名古屋大学宇宙地球環境研究所の三好 由純 教授らの国際研究グループは、地球の放射線帯(ヴァンアレン帯)のうち、これまで超高エネルギーの電子を寄せ付けない高度12000km以下の“破れない壁”と考えられてきた宇宙空間領域で、2024年5月の観測史上最大級の宇宙嵐の際に、超高エネルギー電子が“壁の中”で新たに生み出されていたことを世界で初めて明らかにしました。この電子は、人工衛星に障害を引き起こしうる危険な宇宙の放射線の一種です。
研究グループは、日本のジオスペース探査衛星「あらせ」(ERG)注2)の観測データを解析しました。その結果、壁のすぐ内側で超高エネルギー電子の存在量を表す指標が局所的に急増する様子をとらえたことに加え、この電子の増加とほぼ同じ場所・同じタイミングで、「コーラス波」と呼ばれる宇宙の電波が強く発生していたことも見いだしました。さらに、壁の中で周囲のプラズマの密度が、通常よりも極端に低下しており、この特殊な環境下でコーラス波が電子を効率よく加速していたことを指摘しました。
本研究は、これまで「安定した領域」と考えられてきた地球近傍の宇宙空間が、極端な宇宙嵐の下では新たな超高エネルギー電子の発生源になりうることを示すもので、人工衛星や有人宇宙活動に影響を与えうる「危険な宇宙天気」の理解を深めるものです。本研究成果は、2026年10月26日午後10時(日本時間)付で米国地球物理学連合速報誌 Geophysical Research Letters に掲載されました。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注 1)宇宙嵐:
太陽活動の影響によって地球の磁気圏や電離圏が大きく乱れる現象。ここでは、地球周辺の宇宙環境が大きく変化する一連の現象を「宇宙嵐」と呼ぶ。巨大宇宙嵐:宇宙嵐のうち特に規模の大きなものを、ここでは「巨大宇宙嵐」と呼ぶ。「巨大」について厳密に統一された定義があるわけではないが、2024年5月の宇宙嵐は観測史上最大級の規模の一つであった。

 

注2)「あらせ」衛星/ジオスペース探査衛星「あらせ」(ERG):
2016年12月に打ち上げられたJAXAの科学衛星。宇宙嵐の変動過程およびヴァン・アレン帯電子の加速・消失機構の解明を主目的としている。あらせ衛星に関するサイエンスセンターが、JAXA宇宙科学研究所と名古屋大学宇宙地球環境研究所によって運営されている(https://ergsc.isee.nagoya-u.ac.jp)

 

注3)位相空間密度:
あるエネルギー・場所に電子がどれだけ存在するかを表す指標。外部から電子が単に運ばれてきた場合と、その場で新たに作られた場合では、この指標の分布の仕方が異なるため、電子がどこで生まれたかを見分ける手がかりとなる。「あらせ」はきわめて正確にこの位相空間密度を計測することができる。

 

注4)コーラス波:
宇宙空間で自然に発生する電磁波(プラズマ波動)の一種。電波として受信して音に変換すると鳥のさえずりのように聞こえることからこの名がついた。電子と共鳴(サイクロトロン共鳴)することで、電子を高いエネルギーまで加速できることが知られている。

 

注5)負の電離圏嵐:
磁気嵐に伴って地球の電離圏(高度数百km付近)で電子密度が一時的に減少する現象。この影響で、宇宙空間のプラズマ(電子)密度が低い状態が続くことが知られている。

 

注6)宇宙天気:
太陽活動に伴って変化する、地球周辺の宇宙空間の状態やその変動を指す。激しい
宇宙天気現象は、人工衛星や有人宇宙活動などに影響を与えることがある。現在、
その変動の予測を目指した研究が進められており「宇宙天気予報」と呼ばれる。

 

【論文情報】

雑誌名:Geophysical Research Letters(米国地球物理学連合発行)
論文タイトル:Local Acceleration of Multi-MeV Electrons Inside Earth's Impenetrable Barrier During the May 2024 Superstorm
著者:
三好由純:名古屋大学宇宙地球環境研究所 教授
栗田怜:京都大学生存圏研究所 准教授
新堀淳樹:名古屋大学宇宙地球環境研究所 特任助教
山本和弘:名古屋大学宇宙地球環境研究所 特任助教
Chae-Woo Jun(チョン チェウ):名古屋大学宇宙地球環境研究所 特任助教
松田昇也:金沢大学理工研究域電子情報通信学系/先端宇宙理工学研究センター 准教授
齊藤慎司:情報通信研究機構(NICT)プランニングマネージャー
片岡龍峰:沖縄科学技術大学院大学主幹研究員
Wang Dedong:GFZヘルムホルツ・ドイツ地球科学センター研究員
篠原育:宇宙航空研究開発機構(JAXA)教授
高島健:宇宙航空研究開発機構(JAXA)教授
三谷烈史:宇宙航空研究開発機構(JAXA)助教
東尾奈々:宇宙航空研究開発機構(JAXA)参事
松岡彩子:京都大学大学院理学研究科 附属地磁気世界資料解析センター 教授
笠原禎也:金沢大学学術メディア創成センター/理工研究域先端宇宙理工学研究センター 教授     
土屋史紀:東北大学教授
熊本篤志:東北大学准教授
堀智昭:名古屋大学宇宙地球環境研究所 特任准教授
北村成寿:名古屋大学宇宙地球環境研究所 特任助教
寺本万里子:九州工業大学准教授

DOI:10.1029/2026GL125879

URL:https://doi.org/10.1029/2026GL125879

 

【研究代表者】

宇宙地球環境研究所 三好 由純 教授
https://is.isee.nagoya-u.ac.jp

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