医歯薬学
2022.07.20
細胞表面とウイルス感染の甘い関係 ~細胞表面糖鎖によるウイルス感染の補助~
名古屋大学大学院医学系研究科ウイルス学の佐藤好隆 准教授、鈴木健史 客員研究員(元・大学院生)、木村宏 教授らの研究グループは、名古屋市立大学大学院医学研究科ウイルス学の奥野友介 教授、神戸薬科大学生化学研究室の北川裕之 教授、藤田医科大学医学部ウイルス・寄生虫学の村田貴之 教授、国立感染症研究所の脇田隆字 所長、渡士幸一 治療薬開発総括研究官との共同研究で、口唇ヘルペスや脳炎を起こす単純ヘルペスウイルス 1 型の感染に関与する宿主因子の網羅的な探索により、ヘパラン硫酸の生合成に関与する一連の遺伝子を同定し、PAPSS1 遺伝子と単純ヘルペスウイルス 1 型感染の関係を明らかにしました。
細胞表面の糖鎖であるヘパラン硫酸が、ウイルス粒子と標的細胞との吸着を補助し、ウイルス粒子の細胞への侵入に寄与していることがわかり、これは単純ヘルペスウイルス 1 型だけでなく、B 型肝炎ウイルスやヒト風邪コロナウイルスにも共通していました。ウイルス感染の理解が深まり、感染をコントロールする技術開発に繋がることが期待されます。
本研究成果は、2022 年 7 月 19 日付(日本時間 7 月 19 日 18 時)国際科学雑誌『Communications Biology』オンライン版に掲載されました。
本研究は、文部科学省科学研究費助成事業(JP16H06231, JP19H04829, JP21K15448,JP20K06551, JP20H03386, JP20H03493)、科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(JPMJPR19H5)、日本医療研究開発機構 新興・再興感染症研究基盤創生事業(多分野融合研究領域)(JP21wm035042, JP20wm0325012)、日本医療研究開発機構 地球規模保健課題解決推進のための研究事業(JP19jk0210023)などの支援のもとで行われたものです。
○網羅的な単一遺伝子ノックアウトスクリーニングから単純ヘルペスウイルス 1 型の感染に関与する宿主因子を同定した。
○本研究で同定された宿主因子には、細胞表面糖鎖であるヘパラン硫酸(注 1)の生合成に関わる遺伝子が多く含まれていた。
○単純ヘルペスウイルス 1 型の感染に関与する宿主因子の一つとして PAPSS1(注 2)を本研究で同定した。
○糖鎖の硫酸化修飾を担う遺伝子 PAPSS1 の活性は、その側系遺伝子(注 3)PAPSS2 でも補完されることが示された。
○PAPSS1 遺伝子の機能を欠損(ノックアウト)すると、細胞表面のヘパラン硫酸量が減り、単純ヘルペスウイルス 1 型だけでなく、B 型肝炎ウイルスやヒト風邪コロナウイルスの細胞への吸着も低下し、ヘパラン硫酸は多くのウイルスで細胞への吸着に利用されていることが明らかになった。
◆詳細(プレスリリース本文)はこちら
(注 1)ヘパラン硫酸:グルクロン酸と N-アセチルグルコサミンからなる二糖単位が繰り返された骨格を持つ多糖。硫酸基が含まれており、マイナス電荷を有する。各糖残基が様々なパターンで硫酸化されることで構造に多様性がもたらされ、細胞増殖や炎症制御、傷の治癒などの様々な生理機能に関与している。
(注 2)PAPSS1:哺乳類では唯一の硫酸基の供給源となる 3'-ホスホアデノシン-5'-ホスホ硫酸を合成する酵素をコードする遺伝子。
(注 3)側系遺伝子:進化の過程で遺伝子重複によって生じたと考えられる類似遺伝子で、異なる機能を獲得している場合もある。
雑誌名:Communications Biology
論文タイトル:Genome-wide CRISPR screen for HSV-1 host factors reveals PAPSS1 contributes to heparan sulfate synthesis
著者:Takeshi Suzuki 1, Yoshitaka Sato 1,2,* , Yusuke Okuno 3, Fumi Goshima 1, Tadahisa Mikami 4, Miki Umeda 1, Takayuki Murata 1,5, Takahiro Watanabe 1, Koichi Watashi 6,7,8,9, Takaji Wakita 6, Hiroshi Kitagawa 4 and Hiroshi Kimura 1,*
所属:
1Department of Virology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya 466-8550, Japan
2PRESTO, Japan Science and Technology Agency (JST), Kawaguchi 332-0012, Japan
3Department of Virology, Nagoya City University Graduate School of Medical Sciences, Nagoya 467-8601, Japan
4Laboratory of Biochemistry, Kobe Pharmaceutical University, Kobe 658-8558, Japan.
5Department of Virology and Parasitology, Fujita Health University School of Medicine, Toyoake 470-1192, Japan
6Department of Virology II, National Institute of Infectious Diseases, Tokyo 162-8640, Japan
7Research Center for Drug and Vaccine Development, National Institute of Infectious Diseases, Tokyo 162-8640, Japan
8Department of Applied Biological Sciences, Tokyo University of Science, Noda 278-8510, Japan
9Institute for Frontier Life and Medical Sciences, Kyoto University, Kyoto 606-8507, Japan
DOI:10.1038/s42003-022-03581-9
English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Com_220720en.pdf
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/virus/index.html