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化学

2022.09.20

『主鎖むき出し』の芳香族ポリマーの合成に成功 ~長年の難溶性問題を解決~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)の伊丹 健一郎 教授、八木 亜樹子 特任准教授、藤木 秀成 博士後期課程学生らは、新材料の創製に寄与しうるポリマー主鎖注4)が修飾基で置換されていない「主鎖がむき出し」の芳香族ポリマーの合成に成功しました。
ポリチオフェンやポリパラフェニレンなどの芳香族ポリマーは、様々な有機電子材料として活用されている機能性高分子です。それらは有機溶媒に対する溶解性が極めて低いため、一般的に長鎖アルキル基やアルコキシ基などの修飾基が多数導入された状態で合成されます。修飾基は分子の機能発現に重要な役割を担う一方で、望まない物性変化をもたらすこともあり、修飾基をもたない芳香族ポリマーを合成する一般的手法の開発が求められていました。また、そのような芳香族ポリマーの有する性質や応用にも興味がもたれていました。
本研究では、デンドリマーという樹状分子を担体として用い、デンドリマー中心部を起点に触媒移動型連鎖重合注5)を行うことで、様々な難溶性芳香族ポリマーを合成しました。本手法では、巨大なデンドリマーが芳香族ポリマーの近接と凝集を阻害することで、溶液中での合成や性質評価が可能になったと考えられます。また、デンドリマーからポリマー鎖を切断し無機材料や生体材料へとポリマー鎖を繋ぎ換えることで、新たなハイブリッド物質を創製することにも成功しました。これにより、芳香族ポリマーの化学を進展させ、新材料の創製につながると期待されます。
本研究成果は、2022年9月16日午後6時(日本時間)付イギリス科学誌「Nature Communications」のオンライン速報版に掲載されました。

 

【ポイント】

・主鎖がむき出しとなった芳香族ポリマー注1)を溶液中で合成する方法論を開発。
・独自で設計したデンドリマー注2)を担体注3)に用い、様々な難溶性芳香族ポリマーを合成。
・溶液中での性質解明を行い、無機材料や生体材料とのハイブリッドを創製した。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)芳香族ポリマー:
ベンゼン環などの芳香環が連続して繋がった構造の高分子の総称。ベンゼン環が一直線に繋がったものは「ポリパラフェニレン」、チオフェン環からなるものは「ポリチオフェン」と呼ばれる芳香族ポリマーである。

 

注2)デンドリマー:
規則的な分岐をもつ樹上構造分子の総称。

 

注3)担体:
他の物質を固定する土台となる物質のこと。

 

注4)ポリマー主鎖:
ポリマーにおける最も長い一本鎖のことを指す。一方で、主鎖から分岐した部位は側鎖と呼ばれる。

 

注5)触媒移動型連鎖重合:
芳香族ポリマーの合成に用いられる反応の一種。パラジウムなどの遷移金属触媒を用いて芳香環同士を繋げるカップリング反応が連続的に起こる。

 

【論文情報】

雑誌名:英国科学誌「Nature Communications」
論文タイトル:“Synthesis, properties, and material hybridization of bare aromatic polymers enabled by dendrimer support”
著者:藤木 秀成天池 一真八木 亜樹伊丹健一郎は責任著者、下線は本学関係者)
DOI: 10.1038/s41467-022-33100-7
URL: https://www.nature.com/articles/s41467-022-33100-7

 

【WPI-ITbMについて】http://www.itbm.nagoya-u.ac.jp
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)は、2012年に文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の1つとして採択されました。名古屋大学の強みであった合成化学、動植物科学、理論科学を融合させ、新たな学問領域であるストライガ、植物ケミカルバイオロジー研究、化学時間生物学(ケミカルクロノバイオロジー)研究、化学駆動型ライブイメージング研究などのフラッグシップ研究を進めています。ITbMでは、精緻にデザインされた機能をもつ分子(化合物)を用いて、これまで明らかにされていなかった生命機能の解明を目指すと共に、化学者と生物学者が隣り合わせになって融合研究を行う「ミックス・ラボ、ミックス・オフィス」で化学と生物学の融合領域研究を展開しています。「ミックス」をキーワードに、人々の思考、生活、行動を劇的に変えるトランスフォーマティブ分子の発見と開発を行い、社会が直面する環境問題、食料問題、医療技術の発展といったさまざまな課題に取り組んでいます。

 

【研究代表者】

トランスフォーマティブ生命分子研究所 伊丹 健一郎 教授八木 亜樹子 特任准教授
http://synth.chem.nagoya-u.ac.jp/wordpress/