TOP   >   総合理工   >   記事詳細

総合理工

2022.12.27

セルロースの表面を溶かして分解する酵素の機能を解明 ――70年にわたる議論に終止符――

きのこが生産するセルラーゼ(Cel6AとCel7D)による結晶性セルロースの分解が、溶解性多糖モノオキシゲナーゼ(LPMO)の一種であるAA9Dの添加によって促進されることが、生化学的実験で明らかにされました。その機構を調べるために、高速原子間力顕微鏡(注1)による酵素分子の観察、および分子動力学シミュレーション(注2)によって調べたところ、AA9Dが酸化的に切れ込み(ニック)を入れると、反応したセルロース分子だけでなく、その周辺のセルロース分子も連鎖的に水和、非晶化し、他の酵素による分解性を高めていることが分かりました。この知見から、地球上で最も豊富に存在するバイオマスであるセルロースからバイオ化成品やバイオ燃料、バイオプラスチックなどを生産する効率を著しく高めることが可能となり、循環型で生物圏に優しい「サーキュラーバイオエコノミー」の達成に貢献することが期待されます。

 

【ポイント】

◆セルロースを酸化的に分解する酵素「溶解性多糖モノオキシゲナーゼ(LPMO)」が、どのように他の酵素の反応性を高めるのかを調べました。
◆結晶性セルロース表面のLPMOによって酸化されたところの周辺で、非晶化の連鎖反応が起こり、他の酵素による分解性が高まることが明らかになりました。
◆持続可能でカーボンニュートラルな社会の構築を達成するためには、地球上で最も豊富に存在するバイオマスであるセルロースを、様々な用途に利用していく必要があります。その鍵となる酵素によるセルロース分解機構の詳細が明らかになったことで、効率良くバイオ化成品やバイオ燃料、バイオプラスチックなどを生産することが可能となります。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

(注1)高速原子間力顕微鏡:
原子間力顕微鏡は、探針(プローブ)を観察対象の表面に沿って走査することで観察対象の形の情報(画像)を得ます。しかしながら従来の原子間力顕微鏡は1画像取得するのに数分を要していたため、対象物の変化をリアルタイムで追うことは困難でした。高速原子間力顕微鏡では、様々な改良を行うことで走査の高速化に成功し、リアルタイムで画像を撮ることができます。本研究ではセルラーゼ分子がセルロース表面でどのように振る舞っているのかを観察する
ために用いられています。

 

(注2)分子動力学シミュレーション:
物質を構成する各原子に対して、古典力学におけるNewtonの運動方程式を解き、計算機(コンピュータ)によって原子位置やエネルギーの時間変化を追跡する手法。本研究では、高速原子間力顕微鏡では観察できない水分子の挙動を推測するために用いられています。

 

【論文情報】

雑誌名:「Science Advances
論文タイトル:Lytic polysaccharide monooxygenase increases cellobiohydrolases activity by promoting decrystallization of cellulose surface
著者:Taku Uchiyama, Takayuki Uchihashi, Takuya Ishida, Akihiko Nakamura, Josh V. Vermaas, Michael F. Crowley, Masahiro Samejima, Gregg T. Beckham, and *Kiyohiko Igarashi(*責任著者)
DOI番号:10.1126/sciadv.ade5155
URL:https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.ade5155

 

【研究代表者】

大学院理学研究科 内橋 貴之 教授
https://www.nagoya-d-lab.com/