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医歯薬学

2022.12.13

腸内細菌の改善が認知症を予防する可能性: 腸内細菌コリンセラ属やビフィズス菌がレビー小体型認知症の発症に関係することを発見

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院医学系研究科(研究科長・木村 宏)・オミックス医療科学准教授・平山正昭、神経遺伝情報学教授・大野欽司、同助教・西脇寛らの研究グループは、岡山能神経内科クリニック院長・柏原健一、岩手医科大学神経内科老年科学教授・前田哲也、福岡大学能神経内科学教授・坪井義夫らとともに、腸内細菌コリンセラ属やビフィズス菌がレビー小体病※1 の一つであるレビー小体型認知症※2 の発症に関係する可能性があることを発見しました。
レビー小体型認知症(DLB)は、アルツハイマー病についで多い認知症であり、パーキンソン病※3(PD)とほぼ同等の高齢者罹患率で、幻覚などの陽性症状が社会問題となっています。DLB は PD やレム睡眠行動異常症※4 (RBD)と類縁疾患で脳の中にαシヌクレインが蓄積することで発症します。研究グループは、腸管神経叢の変化により異常蓄積したαシヌクレイン が プリオンの性質を有し、迷走神経背側核から青斑核、黒質に進展し RBD や PD を発症する可能性を明らかにしてきました(Mov Disord 35:1626,2020;mSystems 5:e00797-20,2020;npj Parkinson’s Dis 8:65,2021)。
今回本研究グループは、DLB, PD, RBD 患者 278 人の腸内細菌叢と糞便胆汁酸を解析しました。その結果、短鎖脂肪酸(SCFA)を産生する腸内細菌が低下し、腸の粘膜を分解するAkkermancia※5が上昇する特徴が PD 患者と DLB 患者において共通して認められました。しかし、PD では変化がなかったRuminococcus torques※6 とCollinsella※7 が DLB で増加していました。また、DLB と PDを区別するランダムフォレストモデル※8 では腸管透過性を抑制するRuminococcus torques とCollinsella の高値と、アルツハイマー病においても観察されるBifidobacterium※9 の低値が DLB の特徴であることがわかりました。Ruminococcus torques とCollinsella は主要な二次胆汁酸産生菌であることから、糞便中の胆汁酸を定量したところ、DLB ではウルソデオキシコール酸(UDCA)の産生が高いことがわかりました。したがって、これらの細菌およびその代謝産物は,DLB の発症と進行に関わる可能性があると思われます。
本研究成果は「npj Parkinson's Disease」(2022 年 12 月 9 日オンライン版)に掲載されました。

 

【ポイント】

○ レビー小体病、パーキンソン病、レム睡眠行動異常症の患者 278 人の腸内細菌叢と糞便胆汁酸を解析することで認知症症状の発症に関連するコリンセラ属やビフィズス菌といった腸内細菌を特定した。
○ レビー小体病とパーキンソン病共通の腸内細菌が存在する一方、認知症から発症するタイプのレビー小体型認知症と運動症状から発症するタイプのパーキンソン病を区別する細菌が明らかになった。
○ アルツハイマー病とレビー小体型認知症に共通して関係する細菌が明らかになり、認知症の発症に共通した腸内細菌が関与する可能性が示唆された。
○ これらの細菌およびその代謝産物の調節は,神経変性疾患の発症と進行を遅らせる可能性があり、腸内細菌叢の改善や関連した代謝産物の投与が認知症治療の足がかりとなる。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

※1 レビー小体病:異常αシヌクレインの脳への沈着が認知症状運動症状を引き起こすとされている一群の疾患。パーキンソン病(PD)、レビー小体型認知症(DLB)、レム睡眠行動異常症が含まれる。
※2 レビー小体型認知症:注意や明晰さの著明な変化を伴う認知の変動や繰り返される幻視を特徴とする認知症。アルツハイマー病と異なり初期には記憶障害は伴わないことが多い。2000 年代から注目されるようになった認知症であるが、アルツハイマー病についで 2 番目に多い認知症である。妄想,過度の日中の眠気など介護に難渋することが多い。数年以内にパーキンソン症状が出現する。
※3 パーキンソン病:運動緩慢が出現し、固縮もしくは静止時振戦がみられる神経変性疾患。高齢になるほど発症しやすく、70 歳以上では 100 人に一人が発症するとされている。発症初期には、運動症状だけであるが、10 年以上経過すると幻覚などの精神症状が出現しやすい。
※4 レム睡眠行動異常症:レム睡眠時に全身の筋肉の弛緩が起こらないために、夢の中での行動がそのまま現実の行動となって現れる疾患。大声で寝言を言ったり、腕を上げて何かを探すしぐさをしたり、殴る、蹴るなどの激しい動作がみられる。一部が、レビー小体病に移行する。
※5 Akkermancia:Verrucomicrobia 門に属するグラム陰性の偏性嫌気性細菌。腸管粘膜のムチン(糖タンパク質)を唯一の炭素・窒素源として利用する細菌。肥満やII型糖尿病に対する改善効果が示されるとする報告がある一方、多くの疾患で増加することからその役割の評価が現在も分かれている。
※6 Ruminococcus torques:Firmicutes 門に属する大腸の細胞表面ムチンを構成するムチン 2(MUC2)を最も効率的に分解する細菌。腸管透過性を増加させる可能性がある。しかし、胆汁酸を産生することで腸の炎症を抑制する可能性もあり、十分にはその機能が解明されていない。
※7 Collinsella:グラム陽性の偏性嫌気性菌でビフィズス菌と同様Actinomycetota 門に属する。過敏性腸症候群の患者においては本菌の菌数が少ないことが報告されている。しかし、本菌の生理作用については未だ明らかになっていない。
※8 ランダムフォレストモデル:機械学習のアルゴリズムのひとつで、決定木による複数の弱学習器を統合させて汎化能力を向上させる。
※9 Bifidobacterium:Actinomycetota 門に属する偏性嫌気性桿菌。いわゆる善玉菌としてプロバイオティクスに用いられることが多い。グルコースから乳酸と酢酸を産生することで、他の細菌の増殖を抑制させる。

 

【論文情報】

掲雑誌名:npj Parkinson's Disease 8(1): 169, 2022
論文タイトル:Gut microbiota in dementia with Lewy bodies
著者・所属:
Hiroshi Nishiwaki1, Jun Ueyama2, Kenichi Kashihara3,4, Mikako Ito1, Tomonari Hamaguchi1, Tetsuya Maeda5, Yoshio Tsuboi6, Masahisa Katsuno7, Masaaki Hirayama2,*, Kinji Ohno1,*
1Division of Neurogenetics, Center for Neurological Diseases and Cancer, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
2Department of Pathophysiological Laboratory Sciences, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
3Department of Neurology, Okayama Kyokuto Hospital, Okayama, Japan

4Okayama Neurology Clinic, Okayama, Japan
5Division of Neurology and Gerontology, Department of Internal Medicine, School of Medicine, Iwate Medical University, Iwate, Japan
6Department of Neurology, Fukuoka University, Fukuoka, Japan
7Department of Neurology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
*Co-corresponding authors
https://www.nature.com/articles/s41531-022-00428-2
DOI:10.1038/s41531-022-00428-2

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/npj_221213en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 平山 正昭 准教授

http://square.umin.ac.jp/hirayamalab/hirayamalab