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農学

2023.03.29

農作物に含まれる成分を簡便・迅速に分析する技術を確立 ~煩雑な抽出や分離操作が不要、わずか3分間で81種類のアントシアニンを分析可能~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院生命農学研究科の白武 勝裕 准教授らの研究グループは、京都大学大学院農学研究科の石橋 美咲 助教(研究当時: 名古屋大学)、近畿大学生物理工学部の財津 桂 教授(研究開始当時: 名古屋大学)、名城大学農学部の太田垣 駿吾 准教授(研究開始当時: 名古屋大学)らとの共同研究により、探針エレクトロスプレーイオン化タンデム質量分析(PESI/MS/MS)により、農作物に含まれるアントシアニンの簡便・迅速な新規分析手法を確立しました。
アントシアニンは、植物の色やヒトに対する機能性に関わるポリフェノール化合物で、多くの分子種が存在するため、簡便・迅速に分子種を見分ける分析技術が求められていますが、従来の分析手法では煩雑で時間のかかる抽出や分離操作を必要とします。本研究では、前処理や分離が不要で迅速な分析が可能なPESI/MS/MSを、植物の代謝物分析に適応し、16種類の野菜と果物から、それぞれ約3分間で81種類のアントシアニンを特異的に検出することに成功しました。さらに、探針を直接サンプルに約1秒挿してサンプリングを行ってから分析するプローブサンプリング法により、イチゴの痩果などの微小な器官や果肉の局所組織からも、簡便かつ安定してアントシアニンを検出できることを示しました。
本技術の活用により、多様な植物、農作物、食品に含まれる成分を対象とした、簡便・迅速な成分分析の発展が期待でき、植物科学分野や農業・食品分野への応用が期待されます。
本研究成果は、2023年2月28日付国際科学雑誌「Horticulture Research」にオンライン掲載されました。

 

【ポイント】

・アントシアニンは野菜、果物、花の着色に関わる色素で、抗酸化などの機能性成分としても注目されている。
・探針エレクトロスプレーイオン化タンデム質量分析(PESI/MS/MS)注1)により、農作物に含まれる81種類のアントシアニンを、約3分間で分析する手法を確立した。
・イチゴの痩果(そうか)注2)などの微小な器官や局所的な組織からも、安定してアントシアニンを検出することに成功した。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 
【用語説明・参考文献】

注1) 探針エレクトロスプレーイオン化タンデム質量分析(probe electrospray ionization tandem mass spectrometry,PESI/MS/MS):
探針エレクトロスプレーイオン化法(PESI)は、2007年に山梨大学の平岡 賢三 教授(当時)が開発したイオン化法(Hiraoka et al. Rapid Commun. Mass Spectrom. 2007)である。タンデム質量分析(MS/MS)は、四重極型と呼ばれる質量分離部が3つ直列に接合し、1つ目の四重極でイオンを分離した後、そのイオン(プリカーサーイオン)を2つ目の四重極でガスと衝突させることで開裂させ、開裂で生じたイオン(プロダクトイオン)を3つ目の四重極で検出する手法であり、化合物を高選択的に検出する質量分析法である。
PESIは後述するアンビエントイオン化質量分析の一種であり、化合物の分離手法を持たないことから、MS/MSのような高選択的な質量分析法と組み合わせることで化合物の同定能力を高めることができる。PESIをMS/MSと組み合わせたPESI/MS/MSは、共著者である財津教授と株式会社島津製作所が共同で開発した。
なお、PESI/MS/MSの開発経緯やPESI/MS/MSによる実際のマウス肝臓試料の分析の様子などを紹介した動画が「名古屋大学 研究フロントライン」において公開されており、実際の装置の駆動状況などを確認したい場合は、下記のURLから視聴できる。
https://www.youtube.com/watch?v=3RxUuKGfCko

 

注2) 痩果(そうか)・果托(かたく):
イチゴの果肉部は果托と呼ばれ、花床という器官が肥大したものである。果肉の表面に存在する種のような器官を痩果と言い、実際はイチゴにおける果実であり、種子を含んでいる。

 

【論文情報】

雑誌名:Horticulture Research
論文タイトル:High-throughput analysis of anthocyanins in horticultural crops using probe electrospray ionization tandem mass spectrometry (PESI/MS/MS)
著者:Misaki Ishibashi1,2, Kei Zaitsu3, Ikue Yoshikawa1, Shungo Otagaki1,4, Shogo Matsumoto1, Akira Oikawa2, and Katsuhiro Shiratake1(所属: 名古屋大学生命農学研究科1, 京都大学大学院農学研究科2, 近畿大学生物理工学部3, 名城大学農学部4
DOI: 10.1093/hr/uhad039 
URL:
https://academic.oup.com/hr/advance-article/doi/10.1093/hr/uhad039/7060411                      

 

【研究代表者】

大学院生命農学研究科 白武 勝裕 准教授
https://www.agr.nagoya-u.ac.jp/~hort/shira/top/top.html