No.55 町田 洋 准教授
Researchers'
大学院生命農学研究科
No.32 白武 勝裕 准教授
スティーブ・ジョブズのスピーチの「Connecting the Dots」というエピソードを聞き、「点と点をつなげること」は、自分が研究や仕事をする上で大切に思っていることと同じだと共感したからです。ひとつひとつの知識、情報、技術は小さく断片的でも、それをつなげていくことで、これまでにない画期的で大きなアイデアを作り上げることができます。また、自分と違う知識や経験を持つ研究者とつながることで、自分一人ではできない大きな研究ができるようになります。
「遺伝子を使って花や野菜や果物をデザインする」が私の研究です。色や形だけでなく、味や香りや栄養成分も含めた農作物のデザインです。私たちの研究対象は、花、野菜、果物といった園芸作物です。園芸作物の研究は、飢餓をなくすといったものでありませんが、人が生きていくために必要な栄養の摂取や、味、香り、見た目などで人の生活を豊かにすること、すなわちQuality of Lifeに必要です。最新の生物学の研究技術を使って、園芸作物の品質の鍵となる遺伝子を探し出し、その遺伝子をゲノム編集などの遺伝子工学を使って改変し、より良い品種を作り出すことで、人の暮らしを豊かにしたいと考えています。
子供の頃から、植物を育てたり、家の近くにあった遺跡を掘ったり、パソコンでプログラミングをしたり、研究者っぽいことが好きで、植物学者か、考古学者か、コンピューターエンジニアになりたいと思っていました。高校の時に自分が一番向いているのは生物学だと気付き、特に農作物の品種改良に興味があったので農学部に入学し、そのまま研究の世界から抜けられなくなりました(笑)
頭の中の点と点がつながり新しい研究のアイデアが生まれたときや、新しい共同研究者と出会い意気投合し新しい研究プロジェクトが始まるときが、わくわくして楽しいです。実際に研究を進めると、失敗や苦労の連続ですが、学生や共同研究者と創意工夫と努力を重ねて、結果が出た時は嬉しいし、やり甲斐を感じます。特に思い通りの色の花や味の果物ができた時は「やった!」と思いますね。
ゲノムは生物の設計図とも言われます。この生物の設計図であるゲノムの情報を書き換える技術が「ゲノム編集」です。私たちはトマトに糖がたまり過ぎないようにブレーキをかけている遺伝子の情報を書き換えて、ブレーキを外すことで、糖度を3割高めることに成功しました。
トマトを甘くする品種改良は限界に近く、農家は水を与え過ぎないよう特別な栽培管理をして、甘いトマトを作っています。ただ、この方法だと栽培に手間がかかり、糖度が高くなった分だけ、果実が小さくなり、収量が大幅に減少してしまいます。私たちのゲノム編集技術で作ったトマト品種は、普通の栽培管理をするだけで、果実の大きさや収量をそのままに甘いトマトを収穫できるので、農家の負担が少なく、安く消費者に甘いトマトを供給できる点が画期的です。
大自然の中にある温泉に出かけ、その土地の美味しいものを食べ、ゆっくり温泉に浸かって過ごすことで、リフレッシュしています。旅行や出張で日常と異なる環境に身を置くことで、いつもは使ってない脳が活性化し、電車の中や温泉に浸かって頭を空っぽにすると、頭の中で日頃つながらない点と点がつながっていき、新しい研究や仕事の発想が生まれます。
小さい頃は人見知りで、小学生の頃は先生に当てられると下を向いて黙ってしまうような子供でした。研究者は一人でコツコツやる自分に向いた仕事だと思っていましたが、大学教員は大勢の学生の前で講義をしたり、学会や講演会でたくさんの聴衆の前で話をしたり、人前でしゃべる仕事ばかりで、最初は大変でした。自分の話したことが学生や聴衆に伝わることが楽しくなり、今でも緊張しますが、人前で話をすることが苦ではなくなりました。
ゲノム解読やバイオインフォマティクスなどの生物の秘密を解き明かすテクノロジーや、ゲノム編集などの画期的な品種改良のテクノロジーが、現在、ものすごいスピードで進化しています。そのようなテクノロジーを駆使して、花や野菜や果物の不思議を解き明かし、世の中の人々の生活を豊かにする農作物を作り出して行きたいです。
氏名(ふりがな) 白武 勝裕 (しらたけ かつひろ)
所属 大学院生命農学研究科
職名 准教授
略歴・趣味
福岡県出身。1993年 名古屋大学農学部卒業。1998年 名古屋大学大学院農学研究科博士課程修了。博士(農学)。1998年 名古屋大学農学部助手、2001年 名古屋大学生命農学研究科助教授、2007年より現職。2003-2005年 スイス・チューリッヒ大学Institute of Plant Biologyにて客員助教授として研究に従事。趣味は旅行。学生時代はバックパックを背に世界を旅行、今は国内の温泉巡りが中心。
・名古屋大学研究成果発信サイト(2021/11/10)糖度が高いトマト品種を作るゲノム編集技術を開発 ~特別な栽培技術を必要とせず、果実の大きさをそのままに、甘いトマトを収穫可能~
・名古屋大学農学部(研究トピックス)「花や野菜や果物を遺伝子でデザインする」
・名古屋大学研究フロントライン「見たことないような植物を、みんなの生活に届けたい」
・名古屋大学研究成果発信サイト(2022/12/14)トマトの果実の形を変えるゲノム編集技術を開発~ゲノム編集によりピーナッツ型のユニークな形のトマトの作出に成功~
・名古屋大学研究成果発信サイト(2023/3/29)農作物に含まれる成分を簡便・迅速に分析する技術を確立~煩雑な抽出や分離操作が不要、わずか3分間で81種類のアントシアニンを分析可能~