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Researchers'

VOICE

大学院環境学研究科

No.33 須藤 健悟 教授

My Best Word:

疑うがゆえに知り、知るがゆえに疑う。

 

Q:この言葉を選ばれた理由は?

これは私の尊敬する物理学者・地球物理学者、寺田寅彦先生の言葉です。各分野が高度に細分化・専門化された現代科学において、自らの狭い専門の外の事柄については、その分野の専門家に任せ、自分で考えることをなかば放棄する傾向があるように思われます。しかし、私が取り組んでいる地球環境・温暖化等にまつわる研究は社会とのつながりも強く、科学者としての責任もそれなりに大きいものであると感じていますので、地球科学に関わらず多岐にわたる分野の色々な情報・知見に触れる際には、まずは「疑い」、時間の許す限り自分で調べ、考えてみることをモットーとしています。

 

Q:先生はどのような研究をされているのですか?

気候変動を予測する数値モデル(気候モデル)に、大気中の気体・粒子(エアロゾル)と、これらに関連する化学反応のシミュレーションを導入し、化学気候モデルの開発を行っています。この数値モデルは、成層圏・対流圏のオゾンやメタンなどの温室効果気体に加え、PM2.5のようなエアロゾルの全球分布変動とその気候への影響を計算することができます。このモデルを用い、半球~全球規模の大気汚染や大気の質(Air Quality)、そして気候変動のメカニズムを同時に評価し、予測する研究を行っています。また、メタン・オゾン・エアロゾル等、短寿命気候影響物質(SLCFs)の排出量・濃度の制御により、今後予期される温暖化をCO2削減以外で緩和させる方策の構築・提案にも力を入れています。最近では、とくに、大気の空気清浄能力・酸化能力をつかさどるOHラジカルをキーとして、大気汚染・気候変動問題の予測・解決に向けて研究を進めています。

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シミュレーション結果の解説(研究室サーバ室にて)

 

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化学気候モデルCHASER(MIROC)による気候影響物質の全球シミュレーション例。
     地表の黒色炭素(左上)、対流圏積算オゾン(右上)、および地表でのOHラジカル濃度(下)

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研究室メンバーとの懇親(2019年12月)


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大気環境・気候モデリング研究室の最近の様子

 

Q:研究の道に進んだきっかけは?

幼稚園児だったころの将来の夢は、なぜかゴミ収集員で、ゴミ収集車(パッカー車)が大好きだったことをよく記憶しています。その後、夢は医学、航空機・宇宙関連と変化しましたが、理系の研究者・技術者には一貫した憧れをもっていたようです。高校生の頃にスペースシャトルから見た地球表層(陸・海・空・雲)の様子をTVでみて、その美しさと不思議さに惹かれたことも影響し、地球に関する仕事をしたいと決意を新たに、大学では地球科学・地球物理学の分野に足を踏み入れました。大学院では、修士課程1年から始めた上述の化学気候モデル開発が比較的順調に進んだこと、性格的に人の指示を受けて仕事する気質ではないことなど、総合的に考え、博士課程に進学することを決め、現在のような仕事をするようになりました。

 

Q:研究が面白いと思った瞬間はどんな時ですか?

シミュレーション主体の研究ですので、やはり自分が構築した数値モデルが観測データをうまく再現できたときは快感にも近いやりがいを感じます(これは、人前で会心のモノマネを披露し、「似てる、似てる~」と称賛されたときの感覚に近いです(笑))。また、数値モデルですので、例えば、ある場所の汚染物質がどこからどのくらい輸送されてくるか?や、観測されている各種変動にどのようなメカニズムがどの程度関与しているか?など、現象を分離して考察することもでき、自然のつくりの巧妙さに感嘆させられるときもあります。さらに、数値モデルに、各種観測、ちょっとした理論計算を組み合わせると、単独手法では到達しえない解明につながる点も面白さの一つです。モデル開発という工学的側面と現象解明という理学的側面の両面から楽しめるのが、この研究の醍醐味ではないでしょうか。

 

Q:先生の研究チームは、2021年6月、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対応した世界規模のロックダウン期間中、工場や自動車などから排出される窒素酸化物の排出量が減少したという研究成果を発表しました。この研究について教えてください。また、この成果は、どんな期待がありますか? 研究をしている中で、印象に残っていることを教えてください。

2020年の新型コロナウィルス感染拡大に伴う世界的なロックダウンでは、自動車や工場からの排ガスの減少により、大気汚染が大きく緩和されたことが知られています。本研究は、窒素酸化物(NOx)に着目し、上述の化学気候モデルと衛星観測を組み合わせたデータ同化手法により、ロックダウン期間中の排出量減少を高精度に推定したものです。さらに、NOxの減少に対流圏オゾンがどのように応答したか実証的に明らかにすることにも成功しています。対流圏オゾンは重要な温室効果気体であり、NOxの減少による対流圏オゾン濃度の抑制は有効な温暖化緩和策の一つとして有望視されていますので、今回の解析でNOxの排出量減少に対してどの程度のオゾン抑制効果が期待できるか実証できた点は、大きな意味を持ちます。NOxは大気の酸化能力を支配するOHラジカルにも大きく影響しますので、2020年から急増したメタンとも関係がある可能性があります。現在、この点に着目した研究をさらに進めているところです。

 

※研究成果の詳細はこちらをご確認ください。

https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2021/06/post-25.html

 

Q:休日はどのように過ごされていますか。リフレッシュ方法などがあれば教えてください。

家の掃除、ゴミ収集担当(幼稚園の頃の夢が叶った(笑))、子供たちの習いごとの送迎、子供と同じ目線で遊ぶこと、鳥(インコ)、メダカ、金魚のお世話に追われます。子供、生き物とのふれあいは、それなりに疲れますが、貴重な活力源となっています。また、空気清浄機に凝ったり、ちょっとしたDIYをしたり、”環境改善”はライフワークなのかもしれません。

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Q:今だから言える、ここだけの話を聞かせてください。

名古屋大学に赴任する前は、ずっと東京で実家暮らしでした。名古屋で初の一人暮らしを開始したわけですが、最初は名古屋と名古屋大学の環境に戸惑うことも少なからずありました。15年以上経過した今では、名古屋生活も板につき、味噌汁は赤みそしか受けつけなくなり、東山キャンパスもすっかり体に馴染んでおります。名古屋大学に赴任して最初に受け持った大学院授業の受講生の一人が今の妻です。名大で研究員をこなしながらの子育てや諸々のサポート、感謝しかありません。

 

Q:今後の目標や意気込みを教えてください。

やはり独自路線、人と同じようなことはできるだけしない、という方向性は大事にしたいと思います。この分野は温暖化や地球環境問題等、政治色の強い側面もありますが、そういった流れを適度に受けつつ、一方で、現象論としての大気科学・気候科学を徹底的に追求し、「木も見て、森も見る」の精神でいければと考えています。疲れたときは、「木も見ず、森も見ず」(by 高田純次)です。

 

 

氏名(ふりがな) 須藤 健悟 (すどう けんご)

所属 名古屋大学大学院環境学研究科

職名 教授

 

略歴・趣味

東京大学理学部・地球惑星物理学科卒業、同大学院博士課程修了。博士(理学)。地球フロンティア研究システム、海洋研究開発機構にて研究員を歴任。2006年に名古屋大学大学院環境学研究科・准教授に着任し、2019年より現職。海洋研究開発機構では招聘上席研究員を務める。趣味は掃除、酒、youtube鑑賞、カラオケ、セルフ散髪。

 

 

【関連情報】

2023/7/31 プレスリリース「ロックダウンによる人為起源エアロゾル減少が気候に与える影響を全球規模で解明―衛星観測に基づく原料物質の排出量変化から現実的な評価を可能に―」

2021/6/10 プレスリリース「世界規模のロックダウンによる大気汚染物質の減少量と気候システムへの影響を算出」

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