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化学

2023.09.04

カーボンナノリングのキーホルダー式固定化法の開発 ~金属イオンとの相互作用による機能性材料の創製に期待~

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)の伊丹 健一郎 教授、八木 亜樹子 特任准教授、同大学院理学研究科の石橋 弥泰 博士後期課程学生らは、九州大学大学院工学研究院の君塚 信夫 教授との共同研究で、カーボンナノリングに他の大環状分子注2)をキーホルダーのようにぶら下げることで、カーボンナノリングの新たな固定化・修飾法を開発しました。
カーボンナノリングは短いカーボンナノチューブと呼べる構造をもつ分子群で、特異な環状構造に由来したユニークな性質をもつことから、機能性材料としての活用が期待されています。カーボンナノリングを応用するためには、構造修飾や固定化を行う必要がありますが、その手法は限られていました。また、一般的に行われている共有結合を介した直接修飾や固定化では、カーボンナノリングの構造が変化し、性質を不本意に変化させてしまうという問題がありました。
本研究では、Active Metal Template (AMT)法注3)という戦略を用いてカテナン構造を形成することで、共有結合を介することなくカーボンナノリングに対し他の大環状分子を簡便に固定化させる「キーホルダー式」手法を開発しました。この手法により、カーボンナノリングの構造を変えずに様々な分子構造をつなぐことができます。また、カテナン構造を活かして金属イオンと相互作用させることにより、カーボンナノリングの示すリン光の長寿命化にも成功しました。このことから、本研究成果は新規リン光材料の創製や励起三重項を活用した化学の発展につながると言えます。
本研究成果は、2023年8月31日付ドイツ化学会誌「Angewandte Chemie International Edition」のオンライン速報版に掲載されました。

 

【ポイント】

・機能性分子カーボンナノリングの新たな固定化・修飾法を開発。
・2つのリング分子が空間的につながった「カテナン注1)構造」の形成により、さまざまな分子構造に対してカーボンナノリングを「キーホルダーのようにぶら下げる」ことに成功。
・カテナン構造を活かして、金属イオンとの近接によるカーボンナノリングのリン光の長寿命化にも成功。新たなリン光材料の創製につながる成果。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

注1)カテナン:
2つ以上の大環状分子が鎖のように共有結合を介さずに連結した分子集合体。1983年にストラスブール大学のJean-Pierre Sauvage教授が効率的なカテナンの合成法を開発したことで大きく発展し、2016年にノーベル化学賞を受賞した。

 

注2)大環状分子:
炭素原子や酸素原子などにより形成された大きな環状の分子。一般的に、環状構造を形成する原子が12個以上あるものを指す。

 

注3)Active Metal Template (AMT)法:
共有結合を介さず、分子同士を機械的に連結するための手法の一つ。2006年にマンチェスター大学のDavis A. Leigh教授や東京理科大学の斎藤慎一教授の研究グループによって開発された。

 

【論文情報】

雑誌名:ドイツ科学会誌「Angewandte Chemie International Edition」
論文タイトル:“Noncovalent Modification of Cycloparaphenylene by Catenane Formation Using an Active Metal Template Strategy ”
著者:石橋 弥泰Manuel Rondelli周戸 大季前川 健久伊藤 英人、水上 輝市、君塚 信夫*、八木 亜樹子伊丹 健一郎は責任著者、下線は本学関係者)
DOI: 10.1002/anie.202310613
URL: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/anie.202310613

 

【WPI-ITbMについて】(http://www.itbm.nagoya-u.ac.jp
 名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)は、2012年に文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の1つとして採択されました。
 WPI-ITbMでは、精緻にデザインされた機能をもつ分子(化合物)を用いて、これまで明らかにされていなかった生命機能の解明を目指すと共に、化学者と生物学者が隣り合わせになって融合研究をおこなうミックス・ラボ、ミックス・オフィスで化学と生物学の融合領域研究を展開しています。「ミックス」をキーワードに、人々の思考、生活、行動を劇的に変えるトランスフォーマティブ分子の発見と開発をおこない、社会が直面する環境問題、食料問題、医療技術の発展といったさまざまな課題に取り組んでいます。これまで10年間の取り組みが高く評価され、世界トップレベルの極めて高い研究水準と優れた研究環境にある研究拠点「WPIアカデミー」のメンバーに認定されました。
 

【研究代表者】

トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)/大学院理学研究科 八木 亜樹子 特任准教授
トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)/大学院理学研究科 伊丹 健一郎 教授
http://synth.chem.nagoya-u.ac.jp/