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医歯薬学

2024.01.11

指定難病である汎発性膿疱性乾癬の発症に、家族性地中海熱の疾患関連遺伝子でもある「MEFV」のバリアントが関与していることを発見

名古屋大学医学部附属病院 皮膚科の吉川 剛典(よしかわ たけのり)病院助教、名古屋大学大学院医学系研究科 皮膚科学分野の秋山 真志(あきやま まさし)教授、武市 拓也(たけいち たくや、責任著者)准教授らの研究グループは、汎発性膿疱性乾癬の疾患関連遺伝子として、MEFV 遺伝子を世界で初めて報告しました。
汎発性膿疱性乾癬(generalized pustular psoriasis: GPP)は、発熱とともに全身の皮膚が潮紅し、無菌性膿疱※2 が多発する、時に致死的な慢性炎症性皮膚疾患で、患者は日本を含め世界中にみられます。日本国内では指定難病の 1 つで、医療費受給の対象疾患であり、令和 3 年度の特定医療費受給証所持者数は約 2,000 人です(出典:厚生労働省 令和 3 年度衛生行政報告例)。2011 年にIL36RN 遺伝子が GPP の疾患関連遺伝子として報告されてから、これまでに計6 種類の遺伝子が疾患関連遺伝子として報告され、病態解明が徐々に進んでいます。しかし、これらの遺伝子にバリアントを持たない患者も多く、さらなる疾患関連遺伝子が模索されてきました。
本研究グループは、GPP 患者 24 例(日本人)の網羅的遺伝子バリアント解析を行いました。その結果、GPP 患者集団では、一般人と比べて、2 つのMEFV 遺伝子バリアント(p.Arg202Gln※3と p.Ser503Cys※4)を持つ頻度が高いことがわかりました。パイリンインフマソーム※5 の構成タンパク質であるパイリンをコードするMEFV 遺伝子は代表的な自己炎症性疾患である家族性地中海熱の疾患関連遺伝子です。
本研究により、日本人の GPP 患者の約 21%が p.Arg202Gln を、約 13%が p.Ser503CysのMEFV 遺伝子バリアントを持っていることが示されました。今回の研究結果から、MEFV 遺伝子変異を持つ GPP 患者では、MEFV 遺伝子バリアントが関与するパイリンインフマソーム関連の炎症経路を標的とした抗炎症療法の有効性が期待できます。
本研究成果は、米国の医学雑誌「Journal of the American Academy of Dermatology」(2023 年 12 月 19 日付の電子版)に掲載されました。

 

【ポイント】

 

・汎発性膿疱性乾癬は厚労省の難治性疾患克服研究事業における臨床調査対象疾患の 1 つです(指定難病 37)。
・汎発性膿疱性乾癬患者 24 例(日本人)の遺伝子変異解析と統計解析を行った結果、患者集団では一般人と比べて 2 つのMEFV 遺伝子バリアント※1 を持つ頻度が高いことがわかりました。
・汎発性膿疱性乾癬の発症に、MEFV 遺伝子バリアントの関与が示唆されました。
MEFV 遺伝子バリアントを有する汎発性膿疱性乾癬患者に対して、MEFV 遺伝子が関与する炎症経路を標的とした原因治療の開発が期待されます。

 

◆詳細(プレスリリース本文)はこちら

 

【用語説明】

※1 遺伝子バリアント:一般的に DNA の塩基配列の違いのことです。もっとも頻度の高い(一般的な)塩基配列(野生型、wildtype)と塩基配列が異なることを意味します。必ずしも、疾患の原因になるとは限りません。
※2 無菌性膿疱:細菌感染がないのに産生された膿が貯まった病変を無菌性膿疱と呼びます。いわゆる“膿”は、細菌と戦うために集まった白血球(主に好中球)で形成されますが、GPP では、細菌感染がないにも関わらず皮膚に好中球が集まり、無菌性膿疱を形成します。
※3 p.Arg202Gln:MEFV でコードされるタンパク質、パイリンでは、本来の野生型(wildtype)のアミノ酸配列の場合、202 番目のアミノ酸は、アルギニン(Arg)ですが、このバリアントでは、グルタミン(Gln)に変わっていることを意味します。
※4 p.Ser503Cys:MEFV でコードされるタンパク質、パイリンでは、本来の野生型(wildtype)のアミノ酸配列の場合、506 番目のアミノ酸は、セリン(Ser)ですが、このバリアントでは、システイン(Cys)に変わっていることを意味します。
※5 パイリンインフマソーム:インフラマソームは、一連の細胞内タンパク質複合体であり、病原体の感染や組織傷害を感知して活性化し、炎症反応を惹起します。構成要素として、パイリンというタンパク質を持つインフラマソームが、パイリンインフラマソームです。パイリンは特定の病原体や毒素を感知するセンサーの様な役割を担っています。パイリンインフラマソームは病原体や毒素等の侵入を察知して活性化し、それらを排除するべく組織の炎症を惹起し、生体を守ります。しかし、パイリンの遺伝子変異により過剰な炎症が生じると、様々な不調が起こります。家族性地中海熱の他にも、パイリンインフラマソームの過剰活性化により発症する疾患はいくつか知られています。

 

【論文情報】

雑誌名:Journal of the American Academy of Dermatology
論文タイトル:MEFV variants are a predisposing factor for generalized pustular psoriasis
著者名・所属名:
Takenori Yoshikawa1, Takuya Takeichi1,*, Kazuki Nishida2, Yumiko Kobayashi2, Hozumi Sano3, Akitaka Shibata4, Haruka Koizumi1, Reiko Tsutsumi5, Ryo Fukaura1, Masahiro Hayashi6, Akiko Imanishi7, Kenta Nakamura8, Yasutomo Mikoshiba8, Eisaku Ogawa8, Shinya Sano9, Manao Kinoshita9, Takashi Okamoto9, Reiko Kageyama10, Yuko Sano11, Sakae Kaneko12, Jun Aoi13, Toshihide Hara14, Yaei Togawa15, Mari Kishibe16, Yuichi Yoshida5, Hiroaki Yagi11, Tetsuya Honda10, Kazumitsu Sugiura17, Shigetoshi Sano3, Tamio Suzuki6, Tomoo Ogi18, Yoshinao Muro1, and Masashi Akiyama1
1Department of Dermatology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan
2Department of Advanced Medicine, Nagoya University Hospital, Nagoya, Japan
3Department of Dermatology, Kochi Medical School, Kochi University, Nankoku, Japan
4Department of Dermatology, Prefectural Tajimi Hospital, Tajimi, Japan
5Division of Dermatology, Department of Sensory and Motor Organs, Faculty of Medicine, Tottori University, Yonago, Japan
6Department of Dermatology, Faculty of Medicine, Yamagata University, Yamagata, Japan
7Department of Dermatology, Osaka City General Hospital, Osaka, Japan
8Department of Dermatology, Shinshu University, Nagano, Japan
9Department of Dermatology, University of Yamanashi, Yamanashi, Japan
10Department of Dermatology, Hamamatsu University School of Medicine, Hamamatsu, Japan
11Department of Dermatology, Shizuoka General Hospital, Shizuoka, Japan
12Department of Dermatology, Masuda Red Cross Hospital, Shimane, Japan
13Department of Dermatology and Plastic Surgery, Faculty of Life Sciences, Kumamoto University, Kumamoto, Japan
14Department of Dermatology, Japan Community Health care Organization, Isahaya General Hospital, Isahaya, Japan
15Department of Dermatology, Chiba University Hospital, Chiba, Japan
16Department of Dermatology, Asahikawa Medical University, Asahikawa, Japan
17Department of Dermatology, Fujita Health University School of Medicine, Toyoake, Japan
18Department of Genetics, Research Institute of Environmental Medicine, Nagoya University, Nagoya, Japan

 

DOI: 10.1016/j.jaad.2023.10.070

 

English ver.
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_E/research/pdf/Jou_240111en.pdf

 

【研究代表者】

大学院医学系研究科 秋山 真志 教授
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_J/laboratory/clinical-med/musculoskeletal-cutaneous/dermatology/