理化学研究所(理研)開拓研究所伊丹分子創造研究室の伊丹健一郎主任研究員(環境資源科学研究センター拡張ケミカルスペース研究チームチームディレクター、名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)主任研究者)、名古屋大学大学院理学研究科の八木亜樹子教授らの国際共同研究グループは、窒素原子を含む芳香環であるアジン環のみから構成されるオールアジンナノリング[1]の合成に成功しました。
これにより、アジンナノリングの特徴を生かして、超分子材料やエネルギー貯蔵材料などへの展開が行われることが期待されます。また、アジンナノリングは半導体デバイスとしての応用研究が行われている窒素ドープ(添加)されたカーボンナノチューブ[2]の部分構造であることから、本研究は革新的なナノデバイス創製に貢献する可能性があります。
今回の研究では、オールアジンナノリングは長波長領域での吸収と蛍光を示すほか、小さなエネルギーギャップ[3]を持つことが分かりました。また、オールアジンナノリングの合成戦略を生かすことでアジン環[4]とベンゼン環[5]から成る新奇な「部分アジンナノリング」類の合成にも成功しました。さらに、部分アジンナノリングはルイス酸[6]との超分子構造を形成することや高い電気化学的安定性を示すことも明らかにしました。
本研究は、英国科学雑誌『Nature Communications』オンライン版(6月9日付、日本時間6月9日)に掲載されます。
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[1] ナノリング
芳香環同士が一つの単結合を介して環状に連結された分子群を指す。
[2] カーボンナノチューブ
炭素原子だけから成るチューブ状ナノ物質。単層カーボンナノチューブと、単層カーボンナノチューブが入れ子になった多層カーボンナノチューブがある。
[3] エネルギーギャップ
量子力学系では、エネルギーがとびとびの値を取る。エネルギーギャップは、あるエネルギー状態とすぐ上のエネルギー状態の間のエネルギー幅のこと。
[4] アジン環、ピラジン環
6員環構造上に窒素原子を有するヘテロ芳香環。天然物や農薬、材料科学に広く見られる。ピラジン環は分子式C4H4N2のアジンであり、ベンゼンの1位および4位の炭素が窒素で置換された構造を持つ。
[5] ベンゼン環、ひずみエネルギー
ベンゼンは炭素6原子から成る有機分子。その正六角形の炭素骨格をベンゼン環と呼ぶ。平面構造が最も安定であり、湾曲するとひずみエネルギーを持つ。
[6] ルイス酸
電子対を受け取ることができる化学種のことを指す。ルイス酸の定義は、ルイス塩基の対概念であり、電子対供与体(ルイス塩基)と反応して電子対を受け取る能力を持つ。ルイス酸は、多くの化学反応で重要な役割を果たし、触媒として使用される。
<タイトル>
Cycloparaazine, a full-azine carbon nanoring
<著者名>
Till Drennhaus, Daiki Imoto, Elena S. Horst, Lena Lezius, Hiroki Shudo, Tomoki Kato, Klaus Bergander, Constantin G. Daniliuc, Dirk Leifert, Akiko Yagi, Armido Studer, and Kenichiro Itami
<雑誌>
Nature Communications
<DOI>
10.1038/s41467-025-59934-5
<URL>
https://www.nature.com/articles/s41467-025-59934-5
https://synth.chem.nagoya-u.ac.jp/wordpress/