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Researchers'

VOICE

糖鎖生命コア研究所

No.41 佐藤 ちひろ 教授

My Best Word:

 

偶然と必然

 

Q:この言葉を選ばれた理由は?

科学の世界は、セレンディピティ(思いがけない素敵な偶然に出会ったり、予想外のものを発見したりすること)に満ちています。

自分が考えた仮説に沿って研究していても、その仮説がいとも簡単に覆されることは日常茶飯事です。しかし、仮説が否定されたとしても、自分の想像し得なかった事実を発見したとき、本当にワクワクします。

一方、きっちり見えているものや予想できること、すなわち「必然」は確実に存在します。明確な事象を積み上げ、因果関係を突き詰めていくことは研究の大半を占める作業です。このような必然と偶然に向き合う研究者の仕事を言い表している気がして、この言葉を選びました。

 

Q:先生はどのような研究をされているのですか?

私たち生物の細胞を覆う「糖鎖」について研究しています。糖鎖は細胞間の接着や情報伝達に深く関わることが知られていますが、これまでの研究を通じ、脳に偏在し、記憶や学習、社会性行動に深くかかわる糖鎖の一つである「ポリシアル酸」の新しい機能を発見しました。

私は大学時代の研究室でたまたま糖鎖の研究に携わったのを機に、ここまで糖鎖の研究を続けてきました。当初は糖鎖の構造を解析する研究に携わり、続いて糖鎖の新規検出方法について研究を進めてきました。そして近年は、糖鎖の機能や働きを解明し、人々の生命活動に寄与する社会実装に向けた研究にかかわるようになりました。

現在、ポリシアル酸が統合失調症、双極性障害をはじめとする精神疾患にも関わる可能性を提唱するとともに、どのようなメカニズムで作用しているのかを、特に糖鎖構造に着目して解析しています。また、精神疾患のほか、癌、アルツハイマー病などの診断や治療につながる創薬を目指した応用研究を行っています。

 

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測定結果の確認

 

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「糖鎖生命コア研究所 岐阜研究棟」を視察に来た永岡桂子文部科学大臣と

Q:研究の道に進んだきっかけは?

幼いころから自然科学が好きでした。島根県松江市出身なのですが、よく釣り好きの父に連れられて日本海に出かけて、島根半島の海岸を眺めて感動したのを覚えています。特に、魅了されたのはその「地形」でした。リアス式海岸特有の岩場、断層や褶曲(しゅうきょく)した地形、そうした自然の構造を見て、地球の力強さや壮大さに思いをはせていました。今思うと、ヘンな子どもですね(笑)

学校では勉強するのが楽しかったです。中でも科学は、物事を論理的に説明できる手段として好きでした。中学生のころから漠然と「ずっと勉強していたいな~」と考えていて、高校の理数系に進み、東大の理学部に入学し、そのまま研究の道に進んで今に至ります。

 

Q:研究が面白いと思った瞬間はどんな時ですか?

研究を進めていて自分が想像した通りの結果が得られたとして、それは喜ばしいけれど、決して感動することはないと思います。糖鎖に着目をしていますが、糖鎖を見ているだけですべてが解明できるわけではありません。見えているものではなく、見えていない別のものが突然見えることがあります。未知なるものに包まれていて、それが明らかになった瞬間のドキドキ、ワクワク感。こうした感動を味わえるのが、研究の面白さであり魅力だと思います。

 

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研究室のメンバーとの鍋パーティ

 

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学位授与式

 

 Q:今後の目標や意気込みを教えてください。

もともと、好きなものや好きなことに対するこだわりが強いのだと思います。理学部出身の典型だと思うのですが、単に「研究が好き」で真理の追究をひっそりと続けてきたのが正直なところで、はじめから「社会に役立とう」という大それた意気込みなどはありませんでした (笑)。

たまたま入った研究室で糖鎖と出会い、好きで、でも必死にコツコツ続けてきたことが、今は偶然の重なりによって人や社会の役に立とうとしています。「こんな変わり者でも研究者として、社会の一員としてやっていけるんだ・・」と少しだけ心にとめて、若い学生の皆さんが安心して将来歩んでくれたらうれしいです。私自身、典型的な会社勤めができるとは想像できないので…、研究者になったのは必然だったのかもしれませんが (笑)。

 

 

 

氏名(ふりがな) 佐藤 ちひろ(さとう ちひろ)

所属 糖鎖生命コア研究所 統合生命医科学糖鎖研究センター(専任)

   名古屋大学大学院生命農学研究科(兼任)

   生物機能開発利用研究センター(兼任)

職名 教授(統合生命医科学糖鎖研究センター長)

 

略歴・趣味

東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻修士・博士課程修了、博士(理学)取得。名古屋大学 糖鎖生命コア研究所 統合生命医科学糖鎖研究センター センター長。名古屋大学大学院生命農学研究科(応用生命科学専攻)教授。趣味はポリシアル酸研究、美術鑑賞、地形と歴史を見るドライブ、四方山話。

 

 

【関連情報】

研究者総覧

研究室ホームページ

2019/1/22 プレスリリース「『やる気』の回復を促す脳内分子を発見~ポリシアル酸は海馬のセロトニンシグナル伝達を増強する~」