勇気ある知識人を育成し、尖った研究力を磨き、社会課題、人類課題の解決に貢献

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前例のない変化の時代に挑む

これまで経験したことのないような大きな変化の中にあって、国立大学は大学発の研究シーズを大きく発展させ、それを イノベーションにつなぎ、人類課題・社会課題の解決に貢献することが、ますます強く求められています。大学に対する国の財政支援の新たな仕組みとして、国際卓越研究大学制度と地域中核・特色ある研究大学強化促進事業などの大型支援が 始まったことは、深刻な危機感と大きな期待の表れです。また 加速する少子高齢化を前に、日本の大学はあるべき姿を自ら真剣に考えることが求められています。名古屋大学は、これらの変化の渦に巻き込まれるのではなく、教育・研究のレベルを さらに高め、魅力ある大学、世界で評価される大学になるために、「自由闊達な学風の下、研究と教育を通じて新たな価値を創造し人々の幸福に貢献する」というミッションとNextビジョン2027に掲げた世界屈指の研究大学を目指すとい う目的のもと、組織改革を推進しながら教育・研究力を自立的に強化することが現下の最重要の課題です。加えて、東海国立大学機構(以下 東海機構)のフラッグシップ大学として、「Make New Standards for The Public」をミッションに掲げ、知とイノベーションのコモンズとして地域と人類社会の課題解決への貢献を目指す東海機構とともに、岐阜大学とのシナジーを最大化することが重要な役割だと考えています。

 

世界と伍する研究大学を目指し加速した、教育と研究力の強化

名古屋大学は、高大接続から大学院での博士人材育成までをシームレスにつなぐ国際通用性のある教育・人材育成、世界トップクラスの研究者が集う「知の梁山泊」が生み出す知的成果の創出と価値化を進めてきました。東海機構が誕生して以来の成果を振り返ると、三段跳びで言えばホップからステップへと移行する段階に達したと評価しています。

教育・人材育成においては、教養教育の改革に取り組み、学部初年次から大学院までのシームレスなリベラル・アーツ教育と外国語などのコモン・ベーシックス教育を推進しています。 2022年度からは新たな教育カリキュラムがスタートし、コモ ン・ベーシックスとして数理・データサイエンスと外国語教育を強化、外国語教育の中では初修外国語(第二外国語)教育に改革を加え、理系学部では言語の背景にある文化もしっかりと学ぶこととなりました。さらに全学教育を1、2年次だけで終わらせることなく、超学部セミナーという今までにはなかった学部を超えた共同学習を3、4年次に実施するという新しい取り組みも始まりました。また、2023年4月に発足したディープテック・シリアルイノベーションセンターにより、学部から博士後期課程まで階層的で大規模かつ学際的なアントレプレナーシップ教育を行います。これは、名古屋大学を中心とする東海地区23大学で実施している起業家育成プロジェクト「Tongali」によるアントレプレナーシップ教育と両輪をなすものです。

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大学院教育では、世界最高水準の教育力・研究力を結集した 5年一貫の博士課程学位プログラムである4つの卓越大学院プログラムが進行中です。後期課程については経済的な支援を大きく拡充しました。国の支援事業に対応した名古屋大学融合フロンティアフェローシップ事業と岐阜大学と共同で実施する東海国立大学機構融合フロンティア次世代研究事業に加えて、授業料減免などを中心とした独自の支援プログラムと日本学術振興会の特別研究員制度による研究奨励金を合わせると、後期課程全学生のほぼ半数の学生が年間2 40 万円以上の支援を受けていることになります。さらに若手研究者の支援では、継続的かつ計画的に若手教員を採用、養成するYLCプログラム(Young Leaders Cultivation)を拡充して、採用者を年間8名から10名に増やします。また、国の創発的研究支援事業に採択された創発研究者には、研究スペースの優先配分や人件費支援を行っています。名古屋大学のこれまでの採択数は累計で55名となり、国内の大学で3番目に多い採択数を誇ります。

これらの施策により、大学院博士前期課程から博士後期課程、ポスドク、特任助教レベル、その先PI(Principal Investigator)までを一気通貫する若手研究者支援総合パッケージを構築します。さらに卓越教授という世界的な研究者にふさわしい処遇制度もスタートし、まずは2名の先生を卓越教授に選びました。

研究・価値創造においては、基礎研究の成果が社会課題の解決につながる成果を次々と出しています。例えば、化学と生物学の融合研究を行うトランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)は、国の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)に採択されていますが、アフリカの食料生産に大きなダメージを与えているストライガという寄生植物の発芽を制御する分子を開発し、深刻化するアフリカの飢餓の解決策 となることが期待されています。また、未来材料・システム 研究所と理学研究科が開発した原子核乾板によるミューオン を利用した透視技術により、ギザの大ピラミッド内部に未知の空隙があると予想した研究結果が世界的な話題となりましたが、近年、その空間が実際に見つかりました。これは名古屋大学のオンリーワン技術の成果です。宇宙地球環境研究所では、激甚宇宙天気現象の現代文明への 脅威が加速的に増大しつつある中、古文書などのアナログ 観測記録を使った激甚太陽嵐の復元研究を推進するなど、興味深い研究成果が発表されています。さらに、クラリベイト・アナリティックスのHighly Cited Researchers 2022に選ばれた研究者が代表を務めるインテリジェンス植物科学国際研究拠点も、今後の発展に大きな期待が 寄せられています。研究環境の整備面では、世界をリードする卓越した研究者が集い新たな学術分野を切り拓く “研究のゆりかご”とすべく、現在、LYKEION 棟(仮称)という一大研究拠点の整備を計画しています。

 

地域社会、国際社会との共創の場をさらに拡げる

名古屋大学は世界有数の産業集積地に根差して、社会連携・産学連携により新たな価値を創造するとともに、人類課題・社会課題解決に貢献することを目指して教育・研究活動の国際展開を進めてきました。

社会連携・産学連携では、2022年度に国のCOI-NEXT(共創の場形成支援プログラム)に2件採択されました。COI- NEXTとは未来のありたい社会像を策定し、その実現に向けた研究開発を推進するものであり、共創分野で「セキュアでユビキタスな資源・エネルギー共創拠点」、地域共創分野で「地域を次世代につなぐマイモビリティ共創拠点」が、それぞれ独創的な研究を推進しています。

社会連携・産学連携ではスタートアップの創出と育成が最重要の課題です。名古屋大学は、スタートアップ共成長パッケージを構築し、前述したアントレプレナーシップ教育、大学発シーズをもとに創業し成長するまでをシームレスに支援していくスタートアップエコシステムを構築することを目指しています。また、シンガポール国立大学の学長とも議論を重ね、双方の学生が互いに行き来し、学び合う国際的な連携体制も構築していきます。これには国内最大級のインキュベーション施設である愛知県のSTATION Aiも連携しています。

国際展開は、名古屋大学が強みとしているところです。これまでアジア諸国の法制度支援や指導者育成に貢献するアジアサテライトキャンパス学院を運営してきましたが、 2022年度は、新たな国際戦略としてグローバル・マルチキャンパス構想をスタートさせ、世界トップレベルの戦略的パートナー大学との相互拠点化を目指すこととなりました。 2023年1月には、ノースカロライナ州立大学と現地キャンパス設置に関する協定を締結し、来年からは、本学から常駐職員を送る予定となっています。シンガポール国立大学にも現地法人を設立することを決めました。国際展開は教育・研究はもちろんのこと、社会連携・産学連携にも大きなインパクトを及ぼすので、グローバル・マルチキャンパス構想のさらなる展開を目指したいと考えています。

ジョイント・ディグリー・プログラム(以下 JDP)については、医学系研究科において我が国初めてのJDPである「名古屋大学・アデレード大学国際総合医学専攻」を2015年に開設しました。現在は医学系、理学系、生命農学系、工学系でアデレード大学、エディンバラ大学、ルンド大学、カセサート大学、フライブルク大学、西オーストラリア大学、チュラロンコン大学の合計7大学とJDPを開設しています。

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ノースカロライナ州立大学(NCSU)との調印式(2023年1月)

 

世界と伍する研究大学を目指し、果敢に挑戦する

日本の大学の研究力が低下していると言われています。

私は名古屋大学の研究力が決して落ちているとは思いませんが、課題はあります。一例をあげれば、まったく新しい研究分野を立ち上げることが難しいという状況がありますので、大学がリーダーシップを発揮して新たな研究分野の開拓に迅速に対応できるような体制づくりを検討していきます。これからも、萌芽的な研究成果を次々と生み出し、次代の展開に備えていく必要があります。若手研究者の中には、分野連携や新分野創設を目指す研究者が多くいますので、新しい世界に勇気をもって踏み出すために背中を押す施策を展開したいと考えます。

これまで企業との共同研究では多くの実績を重ねてきましたので、今後は大学と企業間の大規模かつ包括的な連携を検討していきます。また産学連携分野では、リカレント教育、学び直しが重要になってきますので、しっかりと手を打っていきます。例えば、3年間でドクターを取得する長期履修制度がありますが、3年間分の学費で4年、5年かけても良いという長期履修制度も用意しました。社会人がドクターを取りやすくすることで名古屋大学の新たな魅力にしたいと考えます。

財源の多様化と外部資金の獲得に向けては、名古屋大学基金は特に重要です。基金による運用益により教育・研究などを担うことができれば、持続的な発展を支えることができます。名古屋大学基金を育てるためにも、さらに国際競争力があって魅力的な大学に進化することが求められます。支援していただける皆様の気持ちにしっかりと応えていける大学であることが何よりも重要だと考えています。また卒業生が誇りに思う名古屋大学、応援したくなるような名古屋大学を築いていきたいと願っています。

名古屋大学の使命は、世界に向けて開かれた大学、グローバル・コモンズを目指すことです。そして、あらゆる面で東海機構の中核となり、東海機構を牽引していくことが求められています。世界屈指の研究大学になるためには、さらなる高みに向かってチャレンジし続けていかなければなりません。社会課題・人類課題に向き合い、基礎的研究面でのインパクト(アカデミック・インパクト)と社会への発信・人類課題解決へのインパクト(ソーシャル・インパクト)の最大化を目指して挑戦してまいりますので、今後とも一層のご支援をお願い申し上げます。

 

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名古屋大学の執行体制

 

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