プレスリリース概要
名古屋大学の「デトネーションエンジン・宇宙推進工学革新研究拠点形成」が宇宙戦略基金事業SX研究開発拠点に採択されました。
2025年6月4日(水)に名古屋大学にてキックオフ会議を開催し、杉山直総長、小橋眞工学研究科長、野々村拓航空宇宙工学専攻長、笠原次郎拠点代表者をはじめとする名大関係者、JAXA宇宙戦略基金事業関係者、連携機関(*)代表者で、活動を正式にスタート出来ることを確認しました。
デトネーションエンジンは、極めて高い周波数(1〜100kHz 以上)でデトネーション波や圧縮波を発生させることにより燃焼反応の速度を格段に高めることが出来ます。
この特性を活用することにより、ロケットエンジンの革新的な軽量化や高性能化が可能となります。同エンジンは、人工衛星の軌道投入を行うキックモータ、宇宙機の軌道変更用エンジン、打上ロケットのエンジンなどの多様な宇宙輸送分野へ応用が可能であり、現在、実用化を視野に入れた研究が日米欧、アジアで活発に行われています。本エンジン研究分野において、名古屋大学は基礎研究を行いつつ、2021 年、2024 年の2度にわたりJAXAの観測ロケットS-520-31号機、34号機によるデトネーションエンジンの宇宙飛行実証を行って、世界に大きなインパクトを与えてきました。
本拠点活動では、さらに深い基礎研究を行いつつ、3度目の観測ロケットS-520-36号機の宇宙飛行実証を実施します。また、デトネーションエンジンフライトシステム専用の大型実験設備を構築します。さらに、デトネーションエンジンシステムの世界初の軌道上実証を目指します。
(*)連携機関:慶應義塾大学、静岡大学、室蘭工業大学、崇城大学、東京大学、横浜国立大学、埼玉大学、埼玉工業大学、九州工業大学、株式会社ネッツ
キックオフ会議の様子
写真1:宇宙戦略基金SX研究開発拠点「盾」の授与a
(右:JAXA角南篤プログラム・オフィサー(PO)、左:杉山直名古屋大学総長)
写真2:宇宙戦略基金SX研究開発拠点「盾」の授与b
(右:JAXA角南篤プログラム・オフィサー(PO)、左:笠原次郎名古屋大学教授)
写真3:JAXAと「デトネーションエンジン・宇宙推進工学革新研究拠点形成」
研究代表者・研究分担者等との記念写真
プロジェクト概要
この20年間、デトネーション波を利用したデトネーションエンジン(Detonation Engine)は、活発に研究されてきました。その中でも、回転デトネーションエンジン(Rotating Detonation Engine, RDE)は、極めて高い周波数(1~100 kHz以上)でデトネーション波を発生させることが可能で、宇宙用高性能エンジンとして、実用化を視野に入れた研究が日欧米、アジアで活発です。2010年代からは、本拠点と世界の大学・研究機関で、学会内に委員会を組織し、活発に研究を展開してきました。本拠点の研究成果は多数の学術誌、WEBサイトに掲載されています。本拠点は、以下の写真に示すように、2021年7月27日には、JAXA宇宙科学研究所の観測ロケットS-520-31号機を用いて、デトネーションエンジンシステムの世界初の宇宙飛行実証試験に成功しました。
(Credit: Nagoya University/JAXA)
観測ロケットS-520-31号機を用いたデトネーションエンジンの世界初の宇宙作動の瞬間
観測ロケットに搭載されたデトネーションエンジンシステム (エンジニアリングモデル(EM)は名古屋大学博物館収蔵)
(PDU: Power Distribution Unit, MCU: Main Computer Unit, DES: Detonation Engine System, RDE: Rotating Detonation Engine, PDE: Pulse Detonation Engine)
現在、デトネーションエンジンは極めて小型のエンジン、革新的な形状のエンジンとして技術的に成立することが分かってきています。本拠点では、極めて小型かつ、高性能のデトネーションエンジンをいち早く実現し、その設計則を明らかにします。名古屋大学内の設備として、大型専用フライト実験チャンバーを設置し、高頻度のシステム実験を実施し、極低温の推進剤のシステム実験を行います。3回目の観測ロケット実験を実施し、さらに、デトネーションエンジンの世界初の軌道上実証の実施を目指します。
以上のような基礎研究、大型専用設備構築、観測ロケット実験、宇宙軌道実証を、JAXA宇宙戦略基金事業・SX研究開発拠点の活動として行うことで、本拠点を強化してまいります。
スケジュール:「デトネーションエンジン・宇宙推進工学革新研究拠点形成」
※当初委託事業期間は、契約締結日から、最初の中間評価が終了する日の属する年度の末日まで
未来材料・システム研究所 プレスリリース
https://www.imass.nagoya-u.ac.jp/research/20250612_kasahara.html