名大生ボイス

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大学生活全般

2017.03.01

  • 大学生活全般

学生バイトと労働市場(2. 求人広告、長期複数回のマッチング)

こんにちは、今回も前回に続き「学生バイトと労働市場のマッチング」というテーマで書かせて頂こうと思います。マッチングというのは働いてほしい側と働きたい側とが結び付く過程のことです(筆者定義)。この記事の中で紹介される私の具体的な経験としては、日雇い派遣のバイトの話(作業内容は特別珍しい面白いものではなく、普通の皿洗い)等があります。第一にマッチングの形態などについて簡単に確認し、第二に学生バイトとマッチングの問題が関係する関わるような事例としてインターネット上の求人広告について紹介し、第三には学生バイトを含む若い労働者全体を対象にして複数回にわたるマッチングについて考える所を書きたいと思います。

「食器洗浄」画像出典"By Myke2020 - Own work I Myke Waddy took this photo, Edmonton, Alberta., Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=15933774"

画像出典"http://en.wikipedia.org/wiki/Dishwasher"

 

なぜ私が記事タイトルのようなことを考え共有したいと思うに至ったのかといえば、バイト探しにかかる時間的や金銭的コストを実感し、そしてそれは企業(お店)の側でも同時にコストがかかっているに違いないと思ったからです。「思ったから...」と言いますのも、そもそも高い社会的コストの関係する問題は考える価値がある、という前提によっています。

 

I. マッチングのサービス形態

 

さて、今回は以下1点に注目したいと思います。

 

・マッチングの費用

マッチングの費用というのは、具体的には(イ)派遣なら就業先企業からに支払われる派遣料金と被派遣者の受け取る賃金との差、(ロ)職業紹介なら雇用契約成立ごとに職業紹介事業者に支払われる報酬、(ハ)広告なら広告費、といった形で発生します。このマッチングの費用はサービス形態ごとに発生の仕方が異なってくることは明らかです(直接雇用を見据えた派遣の場合など例外はありますが)。つまり、派遣なら被派遣者の働いた時間ごとに、職業紹介なら成約ごとに、広告なら一稿ごとに、費用が発生するのが普通でしょう。

このうち、被派遣者の働いた時間ごとにかかる派遣というサービス形態のマッチング費用は、かなり「やった分だけ」即ち従量的で、職業紹介や広告のマッチング費用は比較的に一括固定の性質が強いと考えます。このような「費用の発生の仕方」という特徴が後で少し問題になります。

「出金」画像出典"By Chris 73 / Wikimedia Commons, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=483770"

画像出典"http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%8F%BE%E9%87%91%E8%87%AA%E5%8B%95%E9%A0%90%E3%81%91%E6%89%95%E3%81%84%E6%A9%9F"

 

II. マッチングの問題が関係するような事例のうち学生バイトに関わりが深いような事例

 

・いつも求人広告が出ているお店

大手企業等が正社員の採用を行うような労働市場については、新卒採用の中止や採用数減は、業績が低いことなどと結びつけられて、悪い事のように書かれることが多いと思いますが、学生がアクセスするようなアルバイトの労働市場については、新規採用の積極/消極に対する印象はずいぶん違うようです。すなわち、「いつも(インターネット上の)求人広告の出ている企業(お店)は待遇が悪く定着率が低いからそうなのだ」という言説をしばしば耳にします。たしかに、「いつもインターネット上の求人広告が出ているお店」というのは私の住んでいる近所にもいくつかあります。

「上場企業の業績」画像出典"By WiNG - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=5906461"

画像出典"http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A6%99%E6%B8%AF%E8%A8%BC%E5%88%B8%E5%8F%96%E5%BC%95%E6%89%80"

一旦このような言説を信じることにすれば、まず初めに言えることは、バイト(予備軍)個人としてはこれら求人には応募しないことが得策です。しかし、マッチングにかかっている(社会的な)費用という観点ではどうでしょうか。つまり、上のような言説に当てはまる企業やお店からすると「高い求人広告費がかさんででも、バイトの人を悪待遇で使用することで節約される費用等を考えれば、合計としてはお得」な状況なのでしょうか。これもおそらくはそうではなさそうです。

定着と長期就業化は「経験値が上がり業務の品質や効率の向上が期待できることはもちろん、欠員補充時の募集や採用、新人への再教育などの研修時間やコストを抑えること」("http://www.jinzai-info.net/parttime/knowledge/index_02.php"、17/2/28参照)につながるのであり、これだけの失われたメリットへの補填はかなり難しいと考えます。また、マッチング費用の発生の仕方という観点から見れば、そのような「広告一稿あたり使用できる総勤務時間」が小さい企業(お店)にとっては、広告一稿あたりで広告業者にお金を払うよりも勤務時間あたりでマッチング費用が発生した方が、都合が良いのは明らかです。以上のようなことを考えれば、「いつも求人広告の出ている企業(お店)は待遇が悪く定着率が低いからそうなのだ」といった言説に当てはまる企業(お店)の状態は、(ずる)賢く上手にそうしているというよりも、むしろ何か下手や失敗などからくる望まぬ結果と考える方が自然ではないでしょうか。

 

III. 若年労働者とマッチング、複数回にわたるマッチング

 

ここまでは主に1回限りのマッチングについて書かせて頂きましたが、仕事は実際やってみないと分からないという事実が当然にあるので、実際には何回かのミスマッチを繰り返しながら労働者が自分の好みや能力について理解を深めていくというのが普通ではないでしょうか。教科書的な、「[...][引用部分以前に挙げられたデータ]は,若年層の失業率が相対的に高いことを説明するのに有用である若年労働者は労働市場に参加してまだ日が浅くどのような職業に就くべきか迷っていることが多い.特定の職業に長期的に従事する前にさまざまな職業を試してみるのも有益であろう」(『マンキューマクロ経済学I 2版』)といった記述も、まさに上述のような長期で複数回にわたるマッチングを意識してのものであると解釈できます。

 

しかしながらあい変らず残るのは、端的に言って仕事のやめ時という問題でしょう。いくらさまざまな仕事を試すのが有益たりえるにしても、あまりにもすぐに辞めてしまうと、「労働者が自分の好みや能力について理解を深めていく」という目的が達せられず本末転倒です。「最近の若者は忍耐が足りずにすぐ辞めてしまう」といった言説も、このような非効率性を惜しんでのものかもしれません。しかしまた逆に、桃栗三年柿八年とは言っても、平均的には3年である程度熟練するような職業(喩えれば桃)に5年とどまって様子見するよりも、平均的には3年である程度熟練するような他の職業(喩えれば栗)を試した方が有益だろう、というのは多くの人が同意できる意見であると考えます。

「桃」画像出典"GFDL, https://ja.wikipedia.org/w/index.php?curid=1026164"「栗」画像出典"GFDL, https://ja.wikipedia.org/w/index.php?curid=184870"

画像出典"http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A2%E3%83%A2","http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%AA"

 

最適なやめ時(=複数回にわたるマッチングを前提)というのは、一つにはこのような「ふつうどのくらいの期間で自分の能力や好みが分かるのか」といった数字に影響されます。例えば、私が以前に日雇い派遣のバイトで皿洗いをした時は「延々と皿を洗っているだけの単純作業だから楽でいい」と感じました(ただ、長風呂をした時のように手がふやけきって数時間直らなかったのには、当たり前ですが驚きました)。それでは長く続けてそのお店でその仕事をしたいかと言われれば、単純作業というのは長期的にはむしろつらい条件ではないか、とか、そもそもある程度作業が慣れて時間が余ったら同時給で他の仕事も任せられるに違いない、とかいった要因を考えなければいけません。1日だけ働いた印象と継続的に働く意欲とにギャップがあるということは、「1日では自分の能力や好みについての情報がほとんど得られない」という(誰もが持っていそうな)予想を、裏付けているように思います。

 

私の事例のように、マッチングのサービス形態というのは仕事を続ける期間に当然関わってきますから、したがってマッチングサービス産業というものは「多くの若い労働者が複数回にわたる(しかし出来るだけ少数回で効率的な)マッチングの結果として、自分の能力と好みに合った仕事に就きその能力を発揮するように」といった大きいスケールで長期的な意義(課題) も背負わされていることが伺えます。

 

 

以上、2回にわたり学生バイトの労働市場におけるマッチングの問題について書かせて頂きましたが、いかがだったでしょうか?記事を読んでくださっている高校生の方が今後、インターネット上で求人広告を検索すること等あれば是非参考にして頂けると嬉しいです。長文乱文に最後までお付き合い頂きありがとうございました。それではまた。

Profile

所属:経済学部2年生

出身地:東京都