2025.12.25
- 大学生活全般
理系学生のための「学会デビュー」入門:口頭発表ってどんな感じ?
はじめに
みなさん、こんにちは。名古屋大学大学院 修士1年の小林です。
前回の記事では、国内学会のポスター発表についてお話ししました。
今回はその続編として、もう一段階ハードルが高いと感じられがちな口頭発表をテーマにしてみたいと思います。
高校生や大学1〜2年生の方にとっては、口頭発表という言葉は聞いたことがあっても、実際に何をしているのか、ポスター発表とどう違うのかは、なかなかイメージしにくいかもしれません。
私自身も学部生の頃は、壇上で発表している先輩方を見ながら、あの場に立つ自分を想像することができませんでした。
この記事では、理系の学会における口頭発表の雰囲気や準備の進め方、実際に経験して感じたことを、できるだけ具体的にまとめてみますので、研究に興味がある方や、大学院進学を考えている方が、少しでも学会の世界を身近に感じてくれたら嬉しいです。
理系の口頭発表ってどんな場なのか
学会やセッションによって異なりますが、一般的な口頭発表は、15分程度のプレゼンテーションに5分程度の質疑応答がセットになっています。
会場は照明が少し落とされた静かな空間で、前方にスクリーンと演者用のマイクとレーザーポインタが用意されています。
自分の順番が来ると名前が呼ばれ、一人で壇上に上がり、スライドを切り替えながら研究内容を説明していきます。
聴衆の多くは、自分と同じ分野もしくは近い分野の研究者や大学院生です。
その中には、普段論文で名前を見かけるような研究者や、他大学の教授が含まれていることもあります。
前の方の席で腕を組んでスライドを見つめている先生方を意識し始めると、それだけで緊張してしまうこともあります。
さらに口頭発表では最後に公開の質疑応答があります。
自分より経験豊富な研究者から、聴衆全員の前で質問を受け、その場で答える必要があります。
ポスター発表と比べても、プレッシャーの大きさがかなり違います。
ポスター発表と口頭発表の違い
ポスター発表は、大きな一枚のポスターの前に立ち、興味を持ってくれた人に対して“対面で説明していく形式”です。
相手の表情や反応を見ながら、その場で説明内容のレベルを変えたり、途中で質問を挟んでもらったりしながら、双方向で進んでいくイメージに近いです。
一方で口頭発表は、基本的に“一方向のコミュニケーション”です。
スライドは一枚ずつ順番に進んでいき、聴衆は発表者のペースに合わせて話を受け取っていきます。発表者が少し説明を飛ばしてしまったり、前提となる情報を十分に共有できていなかったりすると、その時点で聴衆の理解が止まってしまいます。
ポスターでは分からないところがあれば立ち止まって読み返したり、その場で聞き返したりすることができますが、口頭発表では、基本的に前のスライドに戻ることはありません。
その意味で口頭発表ではストーリーの流れと情報の順番を丁寧に設計する必要があります。
スライド作りで意識していること
一つ目は、“削る勇気を持つ”ことです。研究の裏側には、試行錯誤の痕跡や細かい条件検討、採用に至らなかった方法など、たくさんの物語があります。
研究している本人からすると、どれも大事に感じられるのですが、限られた時間の中で全て説明することはできません。
私も全てを伝えようとしすぎてスライドの情報量が増えてしまうことが多々あるのですが、よく指導教員の方から鋭い指摘を受け修正しています。
なるべく必要十分なコンパクトなスライドにする為に、まずノートに自分の研究の核となるポイントを書き出すようにしています。
「なぜこの研究を始めたのか」「どの結果を一番伝えたいのか」「聴衆に持ち帰ってほしいメッセージは何か」
この三つがはっきりしてくると、スライドに載せるべき情報と削るべき情報の境界が少しずつ見えてきます。
二つ目は、“文章を減らしキーワードと図で見せること”です。
スライドに長い文章を載せてしまうと、聴衆は文字を読むことと話を聞くことを同時にこなさなければならなくなり、負担が大きくなります。
私自身、他の方の発表を聞いていると、文字だらけのスライドは途中で追いきれなくなってしまうことがよくあります。
そこで最近は、スライド上には短いフレーズや箇条書き程度の情報だけを残し、詳しい説明は自分の口頭で補うようにしています。
図やグラフを大きく配置し、この図は何を示しているのか、縦軸と横軸は何か、どこが一番重要なポイントなのかを、言葉でしっかり伝えるイメージです。
三つ目は、“聴衆の前提知識を想像しながら構成を考えること”です。
同じ内容の研究でも、発表する学会によって、どこから話し始めるべきかが変わってきます。
自分の分野の学会であれば、基本的な専門用語は共有されているため、イントロダクションを短めにして結果や考察に時間を割くことができます。
一方で、分野が少し離れた学会で発表する場合には、背景や目的の説明を丁寧に行わないと、その後の話がかえって伝わりにくくなってしまいます。
指導教員の先生に相談しながら、この説明はなくても伝わるのか、それとも一言添えておいた方がよいのかを一緒に考えて調整することで、発表全体のバランスが整っていきます。
リハーサルの大切さ
スライドがある程度出来上がってきたら、次に大切になるのがリハーサルです。
頭の中でシミュレーションしているだけでは、時間の感覚や自分の話し方の癖はなかなか分かりません。
私は本番前に何度か、ストップウォッチを使いながら声に出して通し練習をするようにしています。ゆっくり話しても時間内に収まるかどうか、どのスライドで説明が長くなりがちなのか、スライドの切り替えと説明の呼吸は合っているか等を確認していきます。
リハーサルをしていると、自分では論理がつながっていると思っていた部分で、説明が飛んでしまっていることに気づくことがあります。そうした箇所は、一文だけ説明を足したり、順番を入れ替えたりすることで、ぐっと聞きやすくなります。
また、私はときどき、自分の発表をスマートフォンで録音して聞き返すこともあります。
客観的に自分の声を聞くと、意外と早口になっていたり、フィラー(あー、えー等の繋ぎ言葉)が多かったり、語尾が聞き取りにくかったりすることに気づき、修正するきっかけになります。
質疑応答のプレッシャーと向き合う
口頭発表の中で、私が一番緊張するのは質疑応答の時間です。
発表が終わると座長の先生から質問が促され、会場から手が挙がります。
その多くは、自分よりもずっと経験豊富な先生方や、他大学の大学院生です。
質問の内容は、実験条件の妥当性や手法の選択理由、統計解析の方法、結果の解釈の仕方等、多岐にわたります。中には自分ではあまり意識していなかった角度から本質的な問いを投げかけられることもあります。
最初の頃は、質問が始まる合図のような沈黙の時間が、とても長く感じられました。
自分の発表に対して、本当に何かコメントをもらえるのだろうか。
難しい質問が飛んできてその場で固まってしまったらどうしよう。そんな不安が常に頭によぎっていました。
それでも何度か経験を重ねるうちに、質疑応答は自分の研究を深く理解してもらうための貴重な機会でもあると感じるようになりました。
質問の中には、今後の実験計画のヒントになるようなものや、自分ではあまり重要だと感じていなかったポイントを評価してもらえることもあります。
もちろん、全ての質問に完璧に答えられるわけではありません。
どうしてもその場で答えきれない場合には、素直に分からないと伝えた上で、今後の検討課題としたいとコメントするようにしています。無理にその場で取り繕うよりも、その方が結果的に誠実な姿勢として伝わると感じています。
質疑応答に向けた準備
とはいえ完全にぶっつけ本番で質疑応答に臨むのは心細いので、ある程度の準備も行っています。
この研究のどの部分が一番突っ込まれそうか、この学会の参加者ならどんな視点から疑問を持ちそうか、といったことを事前に想像しながら、頭の中に簡単な想定問答集のようなものを作っておきます。
指導教員や先輩にスライドを見てもらうと、ここは高い確率で質問が来ると思う、といったアドバイスをもらえることもあります。
そのようなポイントについては、スライドに補足の一枚を用意しておくこともありますし、追加の図やデータを控えとしてパソコンに準備しておくこともあります。
実際には、準備していないタイプの質問が飛んでくることが多いのですが、それでも事前に何パターンか考えておくことで、全く予想していなかった質問に対しても落ち着いて向き合えるようになると感じています。
初めて口頭発表を終えたときの感覚
私が初めて口頭発表を経験したときは、前日までスライドの微調整を続け、本番直前までずっとそわそわしていました。発表中も、すごく緊張しながら聴衆よりも画面をみながら表していました。
それでも何とか時間内に話し終え、質疑応答も周りの先生方に助けていただきながら乗り切り、席に戻った瞬間、緊張が一気に解けたことを記憶しています。完璧な発表ではありませんでしたが、自分の研究について初めて公の場で向き合えたという実感があり、少しだけ研究者としての階段を上れたような感覚がありました。
口頭発表は確かにハードルが高いのですが、そのぶん得られる学びや達成感も大きいと感じています。論理的に話す力や、他者の視点から自分の研究を見る力は、その後の研究生活にも確実に活きてきます。
おわりに
これから研究室に配属される方や、大学院進学を考えている方にとって、口頭発表はまだ遠い世界の出来事に思えるかもしれません。
私も学部の1・2年の頃は、学会で発表している先輩方を見て、自分とは別の世界の人たちのように感じていました。
しかし実際には、今壇上に立っている研究者も、かつては初めての発表に緊張していた学生です。
最初から堂々と話せる人はほとんどいないと思います。
むしろ、緊張しながらも一歩を踏み出した経験の積み重ねが、少しずつ自信につながっていくのだと思います。
もし将来、学会で口頭発表をする機会が巡ってきたら、怖さだけで拒否するのではなく、挑戦してみる選択肢も検討してみてほしいなと思います。
その経験はきっと研究だけでなく、その後のキャリアや日常のコミュニケーションにも生きてくるはずです。
今後機会があれば国際学会での発表や、海外の研究者との交流についても書いてみたいと思っています。拙い文章ではございますが、最後までお読みいただきありがとうございました。
Profile
所属:創薬科学研究科・博士前期課程1年生
出身地:愛知県
出身校:愛知県立岡崎高等学校