2025.12.26
- 大学生活全般
理系学生のための「学会デビュー」入門:国際学会ってどんな感じ?
はじめに
これまで、国内学会のポスター発表編と口頭発表編についてお話ししてきました。今回はシリーズの締めくくりとして、国際学会をテーマに書いてみたいと思います。
高校生や大学低学年の頃の私にとって、国際学会は遠い世界の出来事でした。
海外で英語を使って発表している研究者たちは、自分とは別次元の人たちだと感じていましたし、そもそもどんな雰囲気なのか想像もつきませんでした。
大きく分けて、「国際学会の空気感や英語での発表に向けた準備」、「現地での過ごし方」、「参加したあとに感じた変化」を、国内学会での経験との違いも交えながら紹介していきます。
将来、研究室に所属して研究をしてみたい人や、いつか海外で発表してみたい人にとって、国際学会を少し身近に感じるきっかけになればうれしいです。
国際学会の空気感や英語での発表に向けた準備
空気感の違い
国際学会と国内学会の一番大きな違いは会場に流れている雰囲気です。
言語が英語になることは分かりやすい違いですが、それ以上に参加者のバックグラウンドの幅広さを強く感じます。
会場には、アジア、ヨーロッパ、北米など、世界中の大学や研究機関から研究者が集まり、普段は論文の著者としてしか見ていないような先生方が、すぐ隣のセッションで発表していたり、コーヒーブレイクの列に普通に並んでいたりします。
セッションの構成も細かく分かれていることが多く、同じ時間帯に自分の分野に近い発表がいくつも並行して進んでいる場合もあります。
どの会場に行くかを毎回選びながら動き回るので、一日が終わる頃には、足も頭も良い意味で疲れているという感覚になります。
会場も海外のコンベンションセンターやホテルの大きなホールなど、非日常感のある場所で開かれることが多く、朝入口をくぐるときの緊張感や高揚感がまた違ったものがあります。
英語発表の不安と準備
一番の不安はおそらく英語での発表や質疑応答だと思います。
私も最初は、発音や文法よりも、「相手の質問が聞き取れなかったらどうしよう」「沈黙が続いたらどうしよう」という不安のほうが大きかったです。
ただ、実際に参加してみると、国際学会に来ている人の多くは英語を第二言語として話しています。アクセントも話し方もさまざまで、いわゆる教科書通りの英語を話す人のほうが少数派に感じるくらいです。
完璧な英語で話すことよりも、“研究の内容やメッセージが伝わることのほうが重視されている”雰囲気があります。とはいえ、準備なしで臨んでよいわけではありません。
私は英語での発表のときには、国内の口頭発表以上に、自分の話す内容を事前に言語化しておくようにしています。
まず、スライドの構成を日本語で固めてから、それぞれのスライドで伝えたいポイントを英語で書き出します。そのうえで、実際に口に出して読んでみて、言いにくい表現や舌が絡まりそうなフレーズを、少し単純な言い回しに言い換えていきます。
かっこいい表現よりも、噛まずに言える表現を優先するイメージです。
特に導入部分と結論部分は、多少緊張していても自然に出てくるように、ほとんど暗唱に近いレベルまで繰り返し練習しておくと安心感があります。
その一方で、すべてを一語一句暗記してしまうと、少し言い間違えただけで頭が真っ白になりやすいので、最近は「このスライドで話す流れ」と「キーワード」だけをしっかり覚えるようにしています。
国際学会ならではのポスター発表・口頭発表
国際学会でも、ポスター発表と口頭発表の二つの形式があります。
形式自体は国内と似ていますが、英語でのやりとりや聞き手の多様さという点で、かなり印象が変わります。
ポスター会場では、ずらりと並ぶポスターの間を、世界中から来た参加者が歩き回っています。
説明を始める前に、相手がどの程度その分野に詳しいのかを推し量る必要があるのは国内と同じですが、国際学会ではその幅がさらに大きくなります。
同じテーマにとても詳しい研究者もいれば、少し離れた分野から興味を持って見に来てくれる人もいます。
私は最初に一度、三分程度の短い説明で全体像を話してみて、相手の反応を見ながら、その後の深さを決めるようにしています。
質問がどんどん出てくるようであれば手法の細かいところまで踏み込んで話しますし、概要レベルで十分そうであれば、関連する研究の話や今後の展望に時間を割くこともあります。
口頭発表では、国内学会と同じく7〜15分程度の発表と、数分の質疑応答がセットになっています。
ただし、質問をしてくる人のアクセントや話し方は本当にさまざまです。
最初の頃は、内容は理解できるはずなのに、耳がそのアクセントに慣れておらず、数秒遅れて意味が分かるということが何度かありました。
そうしたときには、無理に雰囲気で理解したふりをせず、聞き返す勇気も大切だと感じました。
ゆっくり繰り返してもらったり、キーワードだけ確認させてもらったりすることで、落ち着いて答えられるようになります。
分からないまま曖昧に答えてしまうよりも、確認してから誠実に答えるほうが、結果として相手にもきちんと伝わると感じました。
現地での過ごし方
学会期間中
国際学会の数日間は、学会そのものだけでなく、生活全体が小さな留学のような体験になります。
朝はホテルで簡単な朝食をとり、会場までの道を歩きながら、少しずつその街の雰囲気に慣れていきます。
日中は、口頭発表のセッションやポスター発表、企業展示などを行き来しながら、自分の専門分野だけでなく、少し離れたテーマの発表を聞くこともあります。
日本ではあまり名前を聞かない手法が当たり前のように使われていたり、別の国ではこんな観点から同じテーマを見ているのかと驚かされたりすることも多く、頭の中で自分の研究の位置づけが少しずつ変わっていく感覚があります。
コーヒーブレイクやポスター会場では、研究の話から始まって、いつの間にか大学の制度や教育システムの話、キャリアの話に広がっていくこともあります。英語で雑談を続けるのは簡単ではありませんが、共通の話題として研究があるおかげで、まったく知らない人とも会話のきっかけを作りやすいと感じました。
時間に少し余裕があれば、学会の前後やセッションの合間に、街を少し歩いてみることもあります。観光名所をしっかり回るというよりは、現地のスーパーに入ってみたり、公園やカフェで周りの人の様子を眺めてみたりするだけでも、その国の日常に触れられたような感覚が残ります。
自分の研究分野とは直接関係がなくても、異なる文化や価値観に触れることは、長い目で見れば視野を広げる良い機会になると感じています。
国際学会に向けた実務的な準備
国際学会に参加するまでには、発表準備以外にも、いくつかの実務的なステップがあります。
多くの学会では、数か月前に英語のアブストラクトを提出し、その後に採択通知と発表形式の連絡が届きます。
渡航の準備としては、パスポートの有効期限の確認、航空券や宿泊先の手配、場合によってはビザの申請などが必要になります。
これらは、研究室の先生や先輩が経験を共有してくれることが多いので、分からないことがあれば早めに相談しておくと安心です。
旅程を組むときには、発表の前日に現地入りできるようなスケジュールにしておくと、時差や移動の疲れを少しリセットしてから本番に臨めます。
到着した日の夕方に会場の場所だけ確認しておくと、当日の朝に迷子になるリスクも減らせます。
こうした細かい準備も含めて、国際学会への参加は一つのプロジェクトのような感覚があります。
国内開催の国際学会
ここまで読むと、「いきなり海外に行って国際学会に出るのは、やはりハードルが高そうだ」と感じる人も多いかもしれません。
その場合に検討の余地があるのが、日本国内で開催される国際学会に参加してみるという選択肢です。
国際学会というと海外で開かれている学会をイメージしがちですが、実際には日本を含むさまざまな国で持ち回りで開催されています。日本で開かれる国際学会の場合、参加者のうちかなりの割合が日本の研究者や学生になることも珍しくありません。
分野にもよりますが、半分以上、あるいは三割前後が日本からの参加というケースもあります。
会場や運営スタッフも日本人が多く、何かトラブルがあっても日本語で相談できる場合が多いため、完全な海外開催の学会よりも心理的な負担は小さくなります。
一方で、発表や質疑応答は基本的に英語で行われるので、国際学会ならではの緊張感や学びはしっかり得ることができます。
ある意味で、ホームグラウンドに近い環境で国際学会を経験できるステップとして活用できると感じています。
ヨーロッパや北米など、海外で開催される国際学会では、日本人の参加者が少数派になることもあります。特に英語を第一言語とする国での学会では、発表やディスカッションのスピードも速く、最初は圧倒されるかもしれません。
そのぶん、白熱した議論に直接触れられたり、多様なバックグラウンドを持つ研究者と深く話し込めたりする機会も増えます。
自分の英語への自信や、そのときの研究の進み具合なども踏まえながら、まずは国内開催の国際学会から挑戦するのか、思い切って海外開催の学会に挑戦してみるのかを、指導教員や研究室の先輩と相談しつつ決めていくのがよいのかなと感じています。
参加した後に感じた変化
初めての国際学会を終えて
出発前からずっと、小さな不安と小さな達成感の繰り返しだったなと思います。
空港での手続きや入国審査、ホテルへのチェックインなど、普段ならあまり意識しないことも、英語で行うとなると一つひとつがイベントのように感じられました。
発表当日は、国内の口頭発表とは比べものにならないくらい緊張していましたが、これまで練習してきたフローに助けられながら、何とか最後まで話し切ることができました。
質疑応答では、聞き返したり、少し考える時間をもらったりしながら、丁寧に答えることに集中しました。
すべてが完璧だったとはとても言えませんが、学会が終わって帰りの飛行機に乗ったとき、自分の中で何かが少し変わった感覚がありました。
英語力そのものが急激に伸びたわけではありませんが、海外で発表している人たちは、自分とはまったく違う人たちなのではないかという感覚が、少し薄れていたからです。
準備をすれば、自分もその場に立つことができるのだと実感できたことは、大きな収穫でした。
これから目指す方へ
これから研究室に配属される方や、大学院進学を考えている方にとって、国際学会はまだかなり遠くにある目標かもしれません。実際、研究テーマがある程度かたまり、発表できるだけの成果が出てからでないと、参加するチャンスはなかなか巡ってきません。
それでも、もし将来、指導教員の先生から国際学会への参加を勧められたり、自分の研究を外に出す機会が見えてきたりしたときには、怖さだけで身を引いてしまうのではなく、一度真剣に挑戦を検討してみてほしいなと思います。
英語での発表や質疑応答は確かに大きな壁ですが、その壁を一度越えてみると、自分の世界の見え方が少し変わります。
国際学会は、研究者としてのスキルだけでなく、自分の価値観や将来像を広げてくれる場でもあります。
この記事が、いつかどこかの国際学会の会場で、みなさんが自分の研究について語っている姿を、少しだけ具体的に思い描くきっかけになっていればうれしいです。
拙い文章ではございますが、最後までお読みいただきありがとうございました。
Profile
所属:創薬科学研究科・博士前期課程1年生
出身地:愛知県
出身校:愛知県立岡崎高等学校