2026.01.30
- 大学生活全般
論文の読み方〜配属直後に押さえるコツ〜
みなさんこんにちは。研究室に配属されると、多くの人が最初にぶつかるのが「論文を読んで」と言われた瞬間だと思います。学部の授業では教科書や講義資料を追えばよかったのに、研究室ではいきなり英語の学術論文が机に置かれます。専門用語も多く、文章も長く、図も見慣れない。どこから手を付ければよいか分からない。これはかなり普通の反応です。
ただ、論文は「上から順に全部読むもの」だと思い込むと、しんどさが一気に増えます。研究室で求められているのは、英語の読解テストで満点を取ることではなく、その研究が何を解決し、何を新しく示し、どこに限界があるかを掴むことです。この記事では、配属直後でも再現性高く回せる読み方の型を、できるだけ具体的にまとめます。読み方の型が一つあるだけで、毎回ゼロから悩まなくて済むようになります。
論文を読む目的を最初に決める
まず大前提として、論文を読む目的は一つではありません。自分の研究テーマに直結する論文を読むときと、論文紹介の担当として読むときとでは、求められる深さが違います。
前者は「自分の研究に使える情報」を取り出すことが重要ですし、後者は「他人に分かる形で要点と位置づけを説明できること」が重要になります。さらに、研究室内の議論に参加するために読む場合は、結論の妥当性と限界に目が向きやすいと思います。
目的が曖昧なまま読むと、細部に引きずられて時間が溶けます。読む前に、今日はこの論文の何を持ち帰るのかを一文で決めるだけで、読み方がぶれにくくなります。たとえば、背景と新規性だけ掴む、手法の再現条件だけ拾う、図の意味を説明できるようにする。こうした小さなゴール設定が、読み切る力になります。
論文は「道具箱」なので、全部を同じ密度で読まなくてよい
論文は、背景説明、実験・解析、結果、解釈、限界、そして次の研究への橋渡しが一つに詰まった道具箱です。つまり、読む側が「いま必要な道具」を取り出せればよい。序盤の文章を完璧に訳せなくても、目的に照らして要点が取れていれば十分です。
特に配属直後は、英語であることに加えて、分野の前提知識が不足していることが多いので、最初から全行を精読するのは非効率です。最初は粗く全体像を掴み、必要なところだけ深掘りする読み方に切り替えた方が、結果として理解が進みます。ここで大事なのは、分からない部分が出ても「止まりすぎない」ことです。止まるのは悪いことではありませんが、止まる場所を選ばないと前に進めなくなります。
5分でできる事前準備で、読みの精度が上がる
まず、タイトルを見て、対象と課題を推測します。次に、アブストラクトを読んで、研究の型が実験中心か、解析中心か、方法論提案かを判断します。最後に、図の数と図のテーマをざっと見て、結論に至る道筋を予想します。
この五分で、読むときの視点が決まります。視点が決まると、細部の英語表現に引きずられにくくなります。特に論文紹介が迫っているときほど、最初の準備が効いてきます。
読む時間が限られているときの「時間別」読み方
現実には、論文にかけられる時間は日によって違います。そこで、時間に合わせて読む深さを切り替えられると負担が減ります。
時間が十分しかないなら、タイトル、アブストラクト、図と図の説明だけを追って、結論と新規性を一文で言えることを目標にします。三十分あるなら、イントロの要点を足し、課題と既存研究の限界が言える状態まで持っていきます。二時間以上あるなら、Methodsの再現条件まで踏み込み、結果がどの条件で成立しているかまで確認します。「今日はここまで」と線引きできると、読み終えた後に達成感もあり、次の論文に回すこともできます。
最初の一周は、要約と図で全体像を掴む
私が勧めたいのは、本文を読み込む前に、要約と図を使って「結論までの地図」を先に作ることです。多くの論文は、図を追うだけでも、何を測り、どんな差を示し、どの結論に向かっているのかが見えます。
具体的には、アブストラクトを読んで、目的、手法、主要結果、結論を一度だけ拾います。その後すぐに、FigureとFigure legendを先に眺めます。図の順番は、著者が「この順で納得させたい」と設計した順番です。図を見て、何を入力して何を出しているのか、どの比較が主張の核なのかをざっくり掴みます。
ここで大切なのは、分からない図があっても止まりすぎないことです。最初の一周は「分からない点の棚卸し」でもあります。図を眺めながら、用語や手法で引っかかった点をメモしておき、後でまとめて調べる方がテンポが良いです。理解が追いつかないままでも、論文の骨格だけは先に確保できます。
イントロダクションに「論文を読む必要知識」が詰まっている
イントロダクションを読み飛ばしたくなる気持ちはよく分かりますが、イントロは論文の中でも特に重要です。イントロは、その分野の現状と未解決課題を整理し、どの穴を埋めるのかを示す場所だからです。
私はイントロを、机を組み立てる前に道具を並べる工程に例えます。この論文を理解するために必要な概念や先行研究が、引用という形でまとめて置かれているイメージです。配属直後は、引用が多すぎて圧倒されますが、見方を変えると「何を知っていれば読めるのか」が明示されているとも言えます。
イントロでやるべきことは、すべての引用を追うことではありません。まずは、何が課題として語られているか、既存研究の限界はどこか、そして著者は新規性をどの言葉で表現しているかを拾います。特に、however、therefore、in contrast、we hypothesize、we propose などの転換・主張の合図は、意味の分岐点なので丁寧に追うと理解が早まります。ここが掴めると、Resultsで何を見ればよいかが決まります。
方法は「再現性」と「自分の研究への移植可能性」を見る
Methodsは、読む目的によって濃淡が大きく変わる箇所です。自分が近い実験や解析をやるなら、Methodsは宝の山になります。一方で、全く別分野の論文なら、手法の要点だけ掴めれば十分なことも多いです。
配属直後に意識すると良いのは、再現に必要な条件がどこに書いてあるかを知ることです。サンプルは何か、条件は何か、測定は何か、解析は何か。ここが曖昧だと、結果を読んでも「その差が出た理由」が判断できません。
また、読んでいて難しい手法が出てきた場合は、手法の全貌を理解しようとして詰まるよりも、「この手法は何のために使われているか」を先に押さえる方がよいです。例えば、ノイズを減らすため、バッチ差を補正するため、因果ではなく相関を見るため、比較の公平性を担保するため。目的が分かると、必要な理解の範囲が決まります。必要なら、代表的な解説記事や総説に一度寄り道すると結果的に速いこともあります。
Resultsは「図の主張」と「著者の言い切り」を対応させる
Resultsは、図の読み取りと文章の読み取りを行き来する場所です。ここでやりがちなミスは、文章だけを追って、図の実態を確認しないことです。逆に、図だけ見て満足して、著者が何をどこまで言い切っているかを読み落とすこともあります。
おすすめは、各Figureについて「この図で著者が言いたいことは一文で何か」を自分の言葉に変えることです。その上で、本文の表現がその一文と一致しているか確認します。特に、significant、robust、novel、consistent、suggest、indicate といった言葉は、主張の強さを決めるので注意して読みます。suggestは断定ではありませんし、consistentは可能性の一つに留める言い方です。こうしたニュアンスの違いが、研究の評価に直結します。
読み慣れていないうちは、強い言葉が出た箇所だけでも原文を丁寧に追うと、読みのズレが減ります。
Discussionは「強み・限界・次の一手」を拾う
Discussionは、著者の解釈が最も濃く出る部分です。ここでは、結果をどう位置づけ、どこまで一般化し、どんな限界を認め、次に何をすべきだと考えているかが語られます。
配属直後の人ほど、Discussionを読むと「それっぽい話」に見えてしまい、結局何が大事なのか掴みにくいことがあります。そこで私は、Discussionを読むときに三つだけ意識します。この研究の一番の強みは何だと著者が主張しているか。限界は何だと書いているか。次に必要な研究は何だと提案しているか。この三つが取れると、論文紹介でも議論でも軸が立ちます。
また、Discussionは「質問の種」が最も見つかる場所でもあります。著者が自覚している限界は、質問として成立しやすい。逆に、書かれていない限界を見つけられれば、それは一段深い理解になります。自分の研究に近い分野なら、ここから次の実験案や解析案が出ることもあります。
結論は短いが、著者の最終的な言い切りがある
結論部分は短いことが多いですが、著者が最終的に何を言い切っているかが凝縮されています。ResultsとDiscussionを読んで満足して飛ばしがちですが、結論での言い回しは、論文紹介の最後の一文にそのまま使えることが多いので、確認するとよいです。逆に、結論が曖昧に終わっている場合は、結果の強さが十分でないか、限界が近い可能性もあります。
英語が壁のときは「翻訳」より「構造」を助けてもらう
英語が苦しいとき、翻訳に頼るのは自然です。ただし、翻訳は意味を通す助けになりますが、理解を自動で作ってくれるわけではありません。そこで私は、生成AIや翻訳ツールには、訳すよりも「構造を見える化する」用途で頼ることが多いです。
たとえば、アブストラクトを目的・手法・結果・結論に分解してもらう、イントロの課題と新規性を抽出してもらう、図のlegendを短く言い換えてもらう。こうした使い方だと、自分の理解の枠組みが先にできるので、その後の読みが楽になります。
もちろん、専門的な内容ほど誤りも混ざるので、最終的には図や原文で確かめる必要があります。ただ、配属直後の「どこが分からないか分からない」段階では、構造化の補助はかなり効きます。慣れてきたら、ツールへの依存度を少しずつ下げていけば十分です。
読み終えたら「一枚メモ」にして残す
読みっぱなしにすると、数日後には手元に残りません。そこで、読み終えたら一枚のメモに落とすことを勧めたいです。きれいにまとめる必要はなく、課題、アプローチ、主要結果、限界、次の一手を書ければ十分です。ここが残っていると、後で自分の研究の背景を書くときにも、論文紹介の担当が回ってきたときにも助かります。
私自身も、配属直後は毎回同じところで迷っていましたが、一枚メモを残すようにしてから、次に読む論文が少し楽になりました。背景の理解が積み上がるのは、こういう地味な蓄積があるからだと感じます。メモは最初から完成形を目指さず、後から追記できる余白を残しておく方が続きます。
引用の追い方は、最初から全部やらなくてよい
論文の引用は多く見えますが、最初から全部追う必要はありません。むしろ、引用を追いすぎると本体に戻れなくなります。最初は、イントロで繰り返し出てくる「キーとなる概念」に関する引用だけを一つ二つ拾う程度で十分です。
私がよくやるのは、何度も登場する用語を見つけたら、その用語のレビュー論文や総説がないかを探すことです。一次論文を十本読むより、総説一本で地図ができることが多いからです。配属直後は特に、総説を上手に挟む方が理解が早まります。総説を読んだ後に元の一次論文に戻ると、同じ英文でも体感難易度が下がります。
「分からない」を残さないためのメモの作り方
読みながら分からない点が出るのは当たり前です。大事なのは、分からないまま流してしまわないことです。私は分からない点を二種類に分けてメモします。用語や手法の定義が分からないものと、論文の主張として納得できないものです。
前者は調べれば解決します。後者は議論の入口になります。論文紹介の場では、後者の疑問は質問として価値が高いことが多いです。最初は小さな違和感でも、言語化しておくと後から繋がります。時間がない日は、疑問を一つだけ残す、と決めるだけでも十分です。
読み方が合っているかを確かめる
配属直後は、読めたつもりでも読み方がずれていることがあります。ここで効くのは、教授や先輩がどこに反応しているかを観察することです。例えば、統計の前提を確認しているのか、対照群の設計を気にしているのか、結果よりも解釈の飛躍を求めているのか。論文紹介の場は、論文そのものだけでなく「読みの視点」を学ぶ場にもなっています。
自分で読むときも、気になった点を一つだけ持っていき、終わった後に先輩へ短く聞くのは有効です。ここはどう解釈しましたか、なぜこの図が重要なのですか。こうした確認を挟むと、次の論文から読み筋が揃っていきます。逆に、理解が曖昧なまま数をこなすと、時間をかけた割に伸びが遅くなりがちなので、聞くことが肝心だと思います。
まとめ
今回の記事では、配属直後でも回しやすい英語論文の読み方として、目的を決め、短い事前準備で視点を作り、要約と図で全体像を掴み、イントロで位置づけを取り、Methodsで再現条件を押さえ、ResultsとDiscussionで主張と限界を整理する、という流れを紹介しました。英語が苦しいときは、翻訳よりも構造化の補助としてツールを使うと、読みが安定しやすいと感じています。
次の記事からは三部作で論文紹介についての記事を投稿する予定です。論文紹介について怖い、もしくは苦手な意識がある人、興味がある人はぜひお待ちください!拙い文章ではございますが、最後までお読みいただきありがとうございました。
Profile
所属:創薬科学研究科・博士前期課程1年生
出身地:愛知県
出身校:愛知県立岡崎高等学校