名大生ボイス

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大学生活全般

2026.10.28

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細胞の「見た目」から、何がわかる?

みなさん、こんにちは。

皆さんは「細胞の写真」と聞いて、どんなものを思い浮かべるでしょうか。理科の教科書に載っている丸い細胞を想像するかもしれません。では、その写真を見ただけで、細胞がどのような状態にあるのか、どんな働きを持っているのかまで分かるとしたら、少し面白いと思いませんか。

 

私は現在、細胞を顕微鏡で撮影した画像とAIを組み合わせて、細胞の状態や品質を調べる研究に取り組んでいます。「創薬科学研究科なのに、研究でAIを使うの?」と意外に思う人もいるかもしれません。今回は、細胞画像を使った研究を、できるだけ身近な言葉で紹介します。

 

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そもそも、細胞の「品質」って何だろう?

身近な製品なら、「品質がよい」と聞くと、大きさや性能が一定で、安心して使えることを想像できますよね。では、生きた細胞の場合はどうでしょうか。

 

たとえば、再生医療などへの応用が研究されている「間葉系間質細胞(MSC)」という細胞があります。MSCは、骨髄や脂肪組織などから得られ、免疫の働きに影響を与える性質などが研究されています。ただし、同じMSCと呼ばれる細胞でも、採取した人や培養の条件、培養してからの日数によって状態や性質が変わることがあります。

 

つまり、「細胞がたくさん増えたから大丈夫」とは限りません。目的に応じて、必要な性質を持っているかどうか確かめることが重要です。

 

細胞の働きを詳しく調べるには、特定の試薬を使った検査や、細胞を回収して行う分析が必要になることがあります。一方で、検査の方法によっては細胞に負担をかけ、使い続けることが難しくなる場合もあります。

 

そこで私が関心を持っているのが、細胞をなるべく傷つけずに、日々の観察画像から状態を推定できないかという問いです。

 

 

写真の中には、どんな情報が隠れているの?

細胞を顕微鏡で観察すると、丸みを帯びたもの、細長く伸びたもの、周囲に広がっているものなど、さまざまな形が見えてきます。細胞同士の間隔や画像の濃淡にも違いがあります。

 

私の研究では、こうした形や画像の特徴を数値に変換し、細胞の性質との関係を調べています。たとえば、「細胞の面積はどれくらいか」「どれくらい細長いか」「画像の濃淡に特徴はあるか」といった情報です。

 

ただし、ここで一つ注意点があります。細長い細胞だから必ず品質がよい、と単純に決められるわけではありません。 同じような形でも働きが違うことがありますし、画像の明るさは顕微鏡の設定や撮影条件でも変化します。見た目だけで答えが決まるわけではないからこそ、たくさんの細胞を調べ、実験で得られた結果と比較する必要があるのです。

 

そこで、AIの出番です。

皆さんも、スマートフォンが写真の中の人物や動物を認識する機能を使ったことがあるかもしれません。AIによる画像解析は、こうした日常の技術だけでなく、研究の現場でも使われています。

 

私が取り組んでいるのは、顕微鏡画像から細胞の領域を見つけたり、形や見え方の特徴を整理したりして、その情報と実験で測定した細胞の性質を結び付ける研究です。

 

流れを簡単に書くと、次のようになります。

① 細胞を培養し、顕微鏡で画像を撮影する
② 画像から細胞の形や特徴を取り出す
③ 別の実験で調べた細胞の性質と照らし合わせる
④ AIに関係を学習させ、新しい画像でどこまで予測できるか検証する

 

ここで大切なのは、AIに写真を見せるだけでは正解が分からないということです。実際の細胞がどんな性質を持つのかを実験で確かめ、その結果を基準にして、予測が合っているか確認します。

 

また、AIは何でも見抜ける魔法の道具ではありません。学習時と異なる条件の画像では、予測が外れることもあります。画像の撮り方が変わっても通用するのか、別の細胞でも同じ傾向が見られるのか。こうした疑問を一つずつ確かめることも、研究の大事な仕事です。

 

 

実験とプログラミング、両方をやる研究生活

「AIの研究」と聞くと、一日中パソコンに向かってコードを書いているイメージがあるかもしれません。もちろん、Pythonというプログラミング言語を使って画像を処理したり、AIの予測結果を分析したりする時間は多いです。

 

でも、それだけでは研究は進みません。細胞を培養し、顕微鏡で観察し、得られた結果が本当に意味のある違いなのかを考える。画像の解析がうまくいかなければ、プログラムだけでなく、撮影条件や細胞の状態を見直すこともあります。

 

私自身、研究を通じて感じたのは、実験と情報解析は別々の仕事ではなく、お互いを支える関係にあるということです。実験を知らなければ、AIが出した数字の意味を判断しにくいですし、情報解析を使えば、人の目だけでは見落としてしまう特徴を調べられる可能性があります。

 

思ったような結果が出なくても、原因を考えて条件を変え、少しずつ分かることが増える過程には、研究ならではの面白さがあります。

 

 

なぜ工学部から創薬科学研究科へ?

私はもともと工学部で化学や生命科学を学び、その後、大学院では創薬科学研究科に進みました。高校生のころは、薬の研究と聞くと、化学物質を合成したり、実験で薬の効果を調べたりする姿を思い浮かべていました。

 

もちろん、そうした研究も創薬科学の大切な一部です。でも実際には、細胞を知る生物学、物質を調べる化学、画像を扱う情報科学など、さまざまな分野がつながっています。私のように、工学の知識を土台に細胞とAIの研究へ進む道もあります。

 

進路を考えるとき、「生物が好きだから生物だけ」「プログラミングが好きだから情報だけ」と、最初から一つに絞る必要はないと思っています。好きなことが二つあれば、その組み合わせが新しい研究の入り口になるかもしれません。

 

 

まとめ

顕微鏡の写真は、一見するとただの細胞の集まりに見えるかもしれません。しかし、そこには細胞の状態を知る手がかりが隠れている可能性があります。その手がかりをAIで読み解き、確かめていくことが、私の研究です。

 

まだ分からないことも多く、画像だけですべてを判断できるわけではありません。それでも、いつか細胞の品質を確かめる方法の一つとして役立てられたら、と考えながら研究しています。

 

大学では、授業で学んだ知識が、思いがけない分野でつながる瞬間があります。皆さんも「これって何に役立つんだろう?」「二つの好きなことを組み合わせたら何ができるだろう?」と考えてみてください。

 

この記事が、創薬科学や細胞研究、そして大学での研究そのものに興味を持つきっかけになれば嬉しいです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

Profile

所属:創薬科学研究科 修士2年

出身地:愛知県

出身校:愛知県立岡崎高等学校