こんにちは。医学部5年生の佐井です。今回は2年生後期で履修する組織学と、3年生前期で履修する病理学についてご紹介しようと思います。組織学については前回少し触れましたが、病理という言葉はみなさん聞いたことがあるでしょうか?あまりなじみのない言葉ですが、ひょっとしたら、病理医が主人公の連続ドラマが先日までテレビでやっていたので、知っている人もいるかもしれませんね。
組織学 Histology
人間のからだは数多くの細胞からできあがっていますが、すべての細胞が同じ形をしているわけではなく、機能に応じて適した形をしています。外界と体内を仕切る細胞や、外敵と闘う細胞、分泌液をつくる細胞や、食べ物を吸収する細胞、といったさまざまな細胞が集まって、役割をもった組織となり、さらに集まって器官となり、器官の連携でヒトの生命活動は維持されています。具体的に分類を見てみましょう。
神経系 | 脳、脊髄、末梢神経など | 白質、灰白質、神経節など |
ニューロン(神経細胞) グリア(膠細胞)など |
脈管系 |
心臓、血管、リンパ管など |
心臓壁、細動脈など |
心筋細胞、 血管内皮細胞など |
呼吸器系 | 肺、気管、気管支など | 肺胞など |
肺胞上皮細胞、 肺胞マクロファージなど |
消化器系 |
食道、胃、小腸、大腸、 肝臓、胆嚢、膵臓など |
胃底腺、肝小葉、膵島など |
粘膜上皮細胞、 肝細胞、膵B細胞など |
感覚器系 | 眼、耳、鼻、皮膚の一部など | 水晶体、網膜、蝸牛など | 錐体細胞、有毛細胞など |
実習では 教科書と、実習室のプレパラートを顕微鏡で覗きながら見比べ、それぞれの組織の特徴を捉えてスケッチします。たとえば、皮膚や口の中は、チリやほこり、食べ物などの「異物」によって傷つけられやすい場所なので、傷ついてもすぐ剥がれるよう、薄っぺらい細胞が幾重にも重なっている様子が見られます。胃腸の壁では、消化液をつくり、蓄える、「腺」という構造と、放出するための管である「腺管」という構造などが観察できます。ちょうどフラスコのような形ですね。
それにしても、前回に引き続き、スケッチが多いと思いませんか?部分的ではあるものの、毎回4~6か所ほどのスケッチを提出しますので、終わるころには80個以上のスケッチを描くことになります。絵描きになるために大学に入ったのではないのになあと思いながら描いたものですが、スケッチの課題でもないと真剣に標本を見なかっただろうなとも思います。試験でもスケッチで答える問題があり、とことん絵を描かされる科目だったという印象が強いのが組織学です。ちなみに、評価は絵の良し悪しではなく、描くべき構造が描けているかというところなので、絵が苦手な人も安心してくださいね。
病理学 Pathology
組織学も含め、解剖学は「正常なカタチ、位置、機能」を観察するものでしたよね。対して、病理学は「異常なカタチ、位置、機能」に注目します。
病理コア画像(http://pathology.or.jp/corepictures2010/index.html)より引用
上の写真は胃がんのなかでも腺癌と呼ばれるものですが、見ていただきたいのは濃い紫色のところの形がいびつになっているというところです。濃い紫色に染まっているところは細胞の核で、正常ならば粒がそろった小さめの核がきれいに並んでいる様子が見えますが、がん細胞では核や細胞そのものの大きさがバラバラになり形もいびつになります。がん細胞の特徴として「核の大小不同」、「核の異型性」、「核分裂像の増加」などがありますが、この写真ではそれが全体で見られます。こうした細胞のことを、ベテランの病理医の先生たちは「顔つきが悪い」とか「いい顔・悪い顔」とかおっしゃるのですが、ちょっとおもしろい表現ですよね。
そして、人間のからだというのは本当によくできていて、ストレスに応じて細胞の形を変えることもあります。たとえば、肺の中は線毛上皮という細胞で覆われていて、この線毛というやわらかい毛がチリやほこりを掻き出してくれているのですが、タバコをたくさん吸っていると、たくさんのほこりが入るようなものですから、掻き出すのが追い付かなくなって、傷つきやすくなります。そうすると、傷つけられても耐えられるよう皮膚のような薄っぺらい細胞を幾重にも重ねるようになるのです(扁平上皮化生)。本来の形とは違うわけですから、これが続くと調子が狂ってきて肺がんになってしまいます。
このように、病理学の実習で見る標本は正常組織の構造が壊れていたり、他の場所にあるべき細胞に変化していたりと、見た目がまったく違うので、場所を言われなければどこを見ているのかわからないくらいです。相変わらずスケッチを描くわけですが、病理の標本は細胞の形がいびつな分、スケッチも難しいですね。
まとめ
組織学は大学に入って初めて光学顕微鏡を使う科目でもあり、使い方に慣れさせるという目的もあるようです。そして、病理学は2年生までで覚えた「正常」と、「病気」をつなげるもので、4年生で習う臨床医学への橋渡しでもあります。今回は6年間で最もたくさんのスケッチを描く、組織学と病理学をご紹介しました。
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Profile
所属:医学部医学科5年生
出身地:愛知県