2025.03.18
エピソード記憶と英単語: skyscraperのハナシ
みなさん、こんにちは!環境学研究科 博士後期課程1 年の松山です。名大での学部は理学部地球惑星科学科で、大学院からは環境学研究科の岩石鉱物学研究室に所属しています。今回は、私が経験した英単語の勉強にまつわるエピソードを紹介します。英語の受験勉強や資格試験の対策において、英単語学習は必須。その一方で、あまり好きではない、前向きになれないという方も少なくないと思います(私もその一人です)。そんな方々の参考になれば幸いです!
① 英単語帳が嫌いな受験生
私は英単語学習用の単語帳や単語カードが大嫌いで、中学生の頃からほとんど使ったことがありませんでした。大学院生になった今でも論文を読むため、また検定試験などのために英語の勉強を続けていますが、相変わらず単語帳を使わない(嫌いなので使えない、のほうがニュアンスとしては正しいかもしれません)ので、そういう性分なのだと思います。もちろん単語帳を活用した勉強は効率が良く建設的なので、ぜひ積極的に利用してください!
そんな私が唯一、少しだけ使っていたのが、スマートフォン用の無料英語学習アプリでした(とある柑橘類が名前に冠されたアプリです)。私は高校1〜2年生まで自転車通学でしたが、3年生から電車通学に切り替えたため、電車に乗っている間の”スキマ時間”を活用しようと思ってこのアプリを始めました。
案の定(?)、私はこのアプリでの勉強も気が乗らず、あまり上手くは行きませんでした。しかしそれでも、学びになることはたくさんありました。「センター試験によく出る!」といったモードで、10秒の制限時間内に英単語の意味を4択から選ぶというシンプルな形式でしたが、語彙を引き出す瞬発力が鍛えられましたし、何より知らなかった単語をたくさん学ぶことができました。そんな中で知った単語の一つが、タイトルにもある”skyscraper”でした。
② skyscraperとの出会い
“skyscraper”は、日本語では『摩天楼』『高層ビル』と翻訳される名詞です。元々は「帆船のマストの上に張る三角形の帆」という意味で使われていたそうで、海を航走する帆船が青い空を削っている(scrape)ように思われることが語源とされています。
余談ですが、日本語の『摩天楼』は、skyscraperの翻訳を語源としているそうです。直訳すると「空をこするもの」となるskyscraperに対して、『摩天楼』という日本語は、訳語としてセンス抜群だと思いませんか?skyに空ではなく天を、scrapeに擦でも削でも磨でもなく摩を当てる漢字選び、「まてんろう」という音の響き、「天を摩する楼」という熟語としての完成度。素敵ですよね。
このエピソードは大学生になってから知ったので、アプリで「skyscraper=摩天楼」を学んだ私はただ、『こんな単語いつ使うんだ…!』と心の中で叫んだだけでした。英語に触れている時間が長くなってくると、このような出来事は日常茶飯事ですが、高校生の私はそんなことを知る由もなく、「試験で出るわけがない」と決めつけてアプリに文句を言っていました。その一方で、叫びたくなるほど心を揺さぶられたことで、skyscraperという単語を覚えることができたのもまた確かです。
③ skyscraperとの再会
そんなskyscraperと再会を果たしたのは、なんとセンター試験の英語リスニング試験第1問、通称”男女のもつれ”問題でした。私が大学受験をしたのは2018年だったので、受験したのは現行の共通テストではなくセンター試験でした。センター試験末期のこの時期は、同2018年地理の”ムーミン”問題や、翌2019年英語リスニングで現れた”リスニング四天王(野菜マン)”が衝撃的だったせいで、2018年第1問が振り返られることは少ないですが、当事者だった私にとっては思い出深い問題です(気になる方はぜひ過去問題にトライしてください!以下では問題内容のネタバレを含みます、ご容赦ください)。
当該問題は会話を聞いて最も適切な絵を4つの中から選ぶ形式で、選択肢には空と人が写ったイラストと、ビル群と人が写ったイラストがありました。そのため、”sky”に食いつくのではなく、”skyscraper”の意味を汲み取らないと正解できない構造になっていました。リスニング試験が苦手な私は、第1問で極限の緊張状態にありましたが、skyscraperの意味を思い出せたことで、自信を持って第1問に回答することができました。リスニング問題でこれほど自信をもって回答できたのは人生でこれが初めてだったので、この瞬間の喜びを今でもよく思い出します。
またこの問題は、会話文の中でちょっとした男女のもつれが発生します。回答に自信があった私はそのユーモラスな会話文をクスッと笑わされ、落ち着きも取り戻しました。すると、その後も良い精神状態で試験に臨むことができ、自分にしては頑張った、といえる点数を取ることができました。
④ skyscraperからの学び
私がこの体験から学んだこと、皆さんにお伝えしたかったことは、「ちょっとしたエピソードが自分の助けになることもある」ということです。私の場合は「アプリでたまたま出会ったskyscraper」というちっぽけなものでしたが、それでもこの単語のおかげでリスニング試験にうまく対処できましたし、この単語を知らなければ大学合格はなかったかもしれません(実際に私は合格最低点スレスレでしたので、リスニング試験がボロボロだと危なかったです)。こういうエピソードは、学校の授業、友達との雑談、テレビのニュース番組などなど、いつどこでも発生しうると思います。頑張って量をこなして自分を高めることは、もちろん最も重要です。ただ一方で、常に気を張り過ぎるのではなく、たまたま出逢ったささやかな”エピソード”に感情を揺さぶられるのも、また小さな成功に繋がるかもしれません。
⑤ まとめ
本稿では、私とskyscraperとの思い出とともに、”エピソード記憶”についてご紹介させていただきました。思い出語りのせいで駄文が多くなってしまいましたが、何か一つでもみなさんのお役に立てることがあると嬉しいです。
この春に受験をされた皆さんは、本当によく頑張られたと思います。不安やプレッシャーもたくさん感じたと思いますし、様々な方からいろいろな応援を受けたと思います。それでもやはり最後は自分との闘いになったはずで、結果の納得感は自分自身の気持ちでしか得ることができません。もう今年の受験シーズンもほどなく終わりを迎えますが、「自分は自分なりに頑張れたんだ、やり切ったんだ」と、まずはご自分のことを心から賞賛してあげてください。
またこれから受験生となる方、来年以降に受験をされる方には、ぜひ“今”を全力で過ごしてほしいと思います。学習の成果は“日々の積み重ね”でしか得ることができません。そのことを念頭に、最後に後悔をしないよう、今というこの時間を有効活用してほしいと思います。その一方で、むやみに全力疾走を続けるのではなく、きちんと日々のメリハリをもって、目いっぱい楽しみながら、心身ともに充実させて受験当日を迎えられるように鍛錬してください。目標に向かって邁進する皆さんを、心から応援しています。
Profile
所属:環境学研究科博士後期課程1年生
出身地:愛知県
出身校:名古屋市立向陽高等学校(国際科学科)