No.63 岩田 直也 准教授
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デジタル人文社会科学研究推進センター
No.63 岩田 直也 准教授
ローマ皇帝マルクス・アウレリウスが、古くからの格言を引用したものと考えられています。世界は絶えず変化するが、その中で自分の生き方を決めるのは自身の「捉え方」であるという、ストア派の核心を体現した言葉です。実は私が開発しているAI対話システム「ヒューマニテクスト」で、古代の名言集を作成するというプロジェクトを現在行っており、その中で最初に作ったものを選びました。他にもいい言葉がたくさんありますので、是非ウェブサイトを見てみて下さい。
私は「西洋古代哲学」と「デジタル・ヒューマニティーズ(人文情報学)」を融合させた研究を行っています。 本来の専門は、プラトンやアリストテレスといった古代ギリシア哲学で、2500年前のテキストを読み解くことです。これに加え、現在は最新のAI技術を用いて、古代の文献データを連携させた対話システムの構築に取り組んでいます。西洋古典学は、言語の壁も高く、どうしても専門家だけの閉じた世界になりがちでした。しかし、AIを活用することで、古典学の専門知識を持たない方や、他分野の研究者でも、高度な古典の知見を容易に利用できるようになります。人文学の知を現代社会に開き、様々な分野との交流や新たな発見を可能にするプラットフォームを作ることが、現在の私の主な研究テーマです。

実は、大学の2年生くらいまでは、哲学とは無縁の生活を送っていました。当時はロックやジャズ・フュージョンに没頭し、プロのミュージシャンを目指して音楽学校にも通っていたほどです。転機は3年生の頃でした。「自分はなぜ音楽をやるのか?」「芸術に人生をかける意義はあるのか?」という根本的な疑問にぶつかり、スランプに陥ってしまったのです。周囲に尋ねても納得のいく答えが得られず、悩み抜いた末に手に取ったのが、プラトンの『国家』でした。 そこには、「なぜ人は正しくあるべきか」という問いに対し、明晰な論理と対話で真正面から答えようとする姿勢がありました。そのスリリングな議論に衝撃を受け、「自分が求めていたのはこれだ」と直感しました。音楽への迷いが消え、古代哲学という学問に一生をかけようと決意したのが、研究者としての原点です。

2005年の学園祭でバンド演奏している様子(ピアスもしている!)
古代の哲学者たちが考え抜いた思考のプロセスを、自分自身が追体験できた瞬間です。古代ギリシア語の原典は、一読しただけでは意味が掴めない難解な箇所も多々あります。しかし、先行研究を読み込み、文脈を丁寧に解きほぐしていくと、ある時ふと「彼らはこの問題をこのように考えていたから、あえてこの言葉を選んだのか!」と、パズルのピースがはまるように理解できる瞬間が訪れます。その時、明らかになる彼らの思考は、現代の私たちの常識とは全く異なることがしばしばです。自分が当たり前だと思っていた思考の枠組みが大きく揺さぶられ、「なるほど、世界はこう捉えることもできるのか」という全く新しい視座が開かれる。この知的な衝撃こそが、研究の醍醐味だと感じています。
きっかけは、2023年6月の日本西洋古典学会でした。「西洋古典学とデジタル・ヒューマニティーズ」というテーマで話す機会があり、私はそこで「ChatGPTを研究にどう活用できるか」という発表を行いました。実際に、古典ギリシア語の原典を読ませてみると、かなり高い精度で要約や翻訳ができるのです。これは本格的に研究ツールとして使えるのではないかと手応えを感じていたところ、現在の共同研究者である田中 一孝さん(桜美林大学)と小川 潤さん(東京大学)が賛同してくれました。そこからトントン拍子でチームが結成され、開発がスタートしました。学会というアカデミックな場での「発見」と「出会い」が、このプロジェクトの出発点でした。

岩田准教授らが開発したAI対話システム「ヒューマニテクスト」(Humanitext Antiqua)。

「ヒューマニテクスト」(Humanitext Antiqua)を基に開発したAIソクラテス。
ソクラテスとの問答を体験することができる。
先ほど学会で意気投合したと言いましたが、実際にやると決まったのは、その後の飲み会でのことでした(笑)。発表の後、場所を上野の居酒屋に移して熱く語り合う中で、「これは面白い、何か作ろう!」と盛り上がり、その場の勢いでプロジェクトの立ち上げが決まったのです。堅苦しい会議室ではなく、研究者同士の情熱(とお酒)が交わる場から生まれる、というのはよくある話ですね。ちなみに「ヒューマニテクスト(Humanitext Antiqua)」という名前は、ChatGPTに「かっこいい名前をつけて」と相談して決めた、というのはここだけの話です。
放っておくとついつい仕事をしてしまうタイプなので、休日を家族と過ごす時間が強制的なリフレッシュになっています。小学低学年の娘と息子がいるのですが、家族4人で出かけたり、一緒に美味しいものを食べたりしている時は、自然と研究のことも忘れられます。最近は自宅でNetflixのドラマや映画をのんびり観ることも多いですね。家族との時間があるおかげで、オンとオフの切り替えができているのだと思います。

連休中に家族で伊勢志摩に出かけてクルージングを楽しみました!
「西洋古典学の知を、より広範なつながりの中で開かれたものにすること」が目標です。 ギリシア・ローマの世界が周辺の地域や後の時代にどのような影響を与えたのか、その深い関わりを掘り下げていくためには、ヒューマニテクストをさらに進化させ、かつ近接する分野の研究者と共同・共創していくことが必要不可欠です。それと同時に、そうして深められた知を、一般の方々にも様々な形で届けていくことを目指しています。デジタルの力を借りて、専門的な知へのアクセシビリティを高め、より多くの方に古典の面白さを普及させていきたいと考えています。

氏名(ふりがな) 岩田 直也(いわた なおや)
所属 名古屋大学 デジタル人文社会科学研究推進センター
職名 准教授
略歴・趣味
京都大学総合人間学部卒、同文学研究科修士課程修了。ケンブリッジ大学古典学部にて博士号(Ph.D.)取得。オックスフォード大学ポスドク研究員、福岡大学人文学部講師等を経て、2024年より現職。専門は西洋古代哲学(プラトン、アリストテレス)。
家族との旅行やグルメ巡り、映画鑑賞。かつては水泳選手であり、ジャズ・フュージョンのギタリストを目指していたことも。