No.64 木作 尚子
Researchers'
No.64 木作 尚子
高校生の時に、先生から「マイナス思考だけど前向きだね」と言われたことがありました。当時はその意味がよく分からなかったのですが、不思議とずっと心に残っていました。今、防災研究に携わる中で、その言葉の意味を改めて実感しています。
防災では、「大丈夫だろう」と考えるのではなく、「最悪の場合はどうなるのか」を想定することが重要です。特に、今後発生が懸念されている南海トラフ巨大地震では、甚大な被害想定が公表されています。被害をゼロにすることは難しいかもしれません。しかし、それでも一人でも多くの命を守り、少しでも被害を減らすために、できることを積み重ねていく必要があります。
研究では、思うように進まなかったり、現場で理想と現実の差に直面したりすることも少なくありません。それでも、「どうすれば少しでも良くできるか」を考え続け、前向きに取り組むことを大切にしています。災害は避けられなくても、被害は減らすことができる。その思いを持ちながら、研究や実践に向き合っています。
福祉施設の防災や、要配慮者の避難生活について研究しています。高齢の方や障害のある方は、普段は地域で普通に生活されていても、災害によって環境が急激に変化すると、健康状態が悪化してしまうことがあります。避難生活の負担がきっかけとなり、最悪の場合、命を落としてしまうこともあります。
近年、大きな課題となっている「災害関連死」の多くは、こうした要配慮者の方々です。そのため、避難所の環境をどのように整えるべきか、福祉施設はどのような備えをしておく必要があるのか、地域でどのように支え合う仕組みを作るべきかについて研究しています。
災害はいつ起こるか分かりません。しかし、事前の備えによって、被災後の生活の質や健康状態は大きく変わります。研究を通して、誰もが安心して避難生活を送れる社会づくりに貢献したいと考えています。

神戸で大学時代を過ごしたことが大きなきっかけです。阪神・淡路大震災から10年以上が経っていたにもかかわらず、孤独死など、震災に起因する問題が続いていることを知りました。災害は、建物の被害だけで終わるものではなく、その後の生活や人とのつながりにも大きな影響を与えることを実感しました。
ちょうどその頃、東日本大震災や熊本地震など、大きな災害が相次いで発生しました。ニュースで被災地の状況を見るたびに、「災害関連死を少しでも減らしたい」「災害後も安心して暮らせるまちづくりを学びたい」という思いが強くなり、研究の道に進みました。
「どうすれば課題を解決できるだろう」と考えている時間に、研究の面白さを感じます。防災には正解が一つではなく、地域や人によって必要な支援が異なります。そのため、現場の声を聞きながら、一つ一つ課題を整理し、解決策を考えていく必要があります。
現場での調査やワークショップを通して、「こうすればもっと良くなるかもしれない」というアイデアが形になった時には、大きなやりがいを感じます。

避難所運営訓練の一環で、実際に避難所となる体育館に一泊したことがあります。その際、トイレも災害時を想定し、グラウンドの隅に設置したテント型の簡易トイレを使用しました。実際に使ってみると、夜間に寒い中を歩いて遠くのトイレまで行くことの大変さを強く実感しました。特に、暗い道を移動することには不安があり、トイレ内も十分な明かりがないため、持っていた懐中電灯を工夫して設置しながら使用しました。凝固剤を入れて処理をする際も、見えにくい中で「ちゃんとできているのだろうか」と不安になったことを覚えています。自分自身が体験したことで、足腰の悪い高齢者の方や障がいのある方、子どもにとっては、さらに大きな負担になることを実感しました。

もともとは数学や物理が好きで、力学の知識を活かした仕事がしたいと思い、大学では建築学科に進学しました。現在のように福祉防災の研究をするとは、当時は全く想像していませんでした。
子どもがまだ小さいので、休日は家族で出かけたり、一緒に遊んだり、料理を作ったりして過ごしています。もちろん、子ども中心の生活は体力的にも精神的にも大変なことがありますが、家族と過ごす時間はとても大切だと感じています。また、わが家では曜日ごとに家事を分担しているため、夫が家事担当の日は、自分の時間を作るようにしています。美味しいものを食べに行ったり、ゆっくりお風呂に入ったり、仕事に集中したりと、平日の夜の時間が良いリフレッシュになっています。

お散歩をしながら災害用井戸を探しました。
普段も災害時も水が出ると分かって嬉しそうです。

保育園の帰り道が暗かったので、災害に備えて買ったランタンを持って歩きました。
日常生活の中でも防災を意識してもらえるように、ちょっとした工夫しています。
災害時に、誰一人取り残されない社会を実現することが目標です。特に、高齢者や障害のある方など、災害時に支援が必要な方々が安心して避難生活を送れる環境づくりに取り組んでいきたいと考えています。
研究は、論文を書くだけではなく、実際の地域や現場で役立ってこそ意味があります。現場の声を大切にしながら、行政や福祉施設、地域の方々と協力し、実践につながる研究を続けていきたいと思っています。

氏名(ふりがな) 木作 尚子(きさく なおこ)
所属 名古屋大学 減災連携研究センター
職名 特任准教授
略歴・趣味
2017年神戸大学大学院工学研究科建築学専攻博士課程後期課程修了。博士(工学)。神戸大学都市安全研究センター(研究支援推進員)、(公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構人と防災未来センター(研究員、主任研究員)を経て現職。趣味は旅行、美味しいごはんを食べること。