No.67 橋詰 淳
Researchers'
No.67 橋詰 淳
研究でも仕事でも、最初から正解が見えていることはむしろ少ないように思います。十分に考えることはもちろん大切ですが、まず一歩踏み出すことで、新しい出会いや課題が見えてくることがあります。振り返れば、私自身も、その時々に与えられた機会に向き合い、一つひとつ取り組んできたことが、現在につながっているように思います。
医学を志したきっかけは一つに絞るのが難しいのですが、人の生命や健康に直接関わりながら、科学として未知のことを探究できる医学に魅力を感じました。神経内科を専門に選んだのは、診察を通じて病変の部位や病態を考えていく学問としての面白さに加え、初期研修を行った名古屋第二赤十字病院で、素晴らしい指導医の先生方や仲間に恵まれたことが大きなきっかけです。臨床医としての姿勢も含め、多くのことを教えていただき、「自分もこの分野に進みたい」と思うようになりました。

先端医療開発部は、大学内外で生まれた研究成果を新しい医薬品や医療機器などとして患者さんに届けるため、基礎研究から非臨床試験、臨床試験、薬事承認、さらに社会実装までを支援する組織です。名古屋大学には、長年にわたり医師主導治験やトランスレーショナルリサーチに取り組んできた実績があり、多様な専門家が連携して研究者に伴走できることが大きな強みです。

臨床研究教育学は、臨床研究を担う人材の育成と教育を主な役割としています。医療現場で生まれた疑問を研究課題として捉え、適切な研究計画を立案し、質の高い臨床研究として実行できる研究者を育成することを目指しています。また、医師だけでなく、臨床研究を支える多様な専門職の育成も重要な役割です。先端医療開発部とも密接に連携し、座学だけではなく、実際の研究開発や研究支援を通じて学ぶ、実践的な教育を重視しています。

大学院ベーシックトレーニングの様子
私自身、SBMAの治療開発を通じて、一つの研究成果を患者さんに届く治療へとつなげるには、研究者個人の力だけではなく、プロジェクトマネージメント、統計、データマネジメント、薬事、知的財産など、多くの専門家の力が必要であることを実感してきました。また、PMDAでは審査する側も経験し、優れた研究成果があっても、それを適切な形で開発につなげなければ患者さんには届かないことも学びました。現在は、研究者の「こんな研究をしたい」「新しい治療を届けたい」という思いに寄り添い、それを実現するための道筋を一緒に考えることが大きな役割だと思っています。研究者のアイデアが具体的な研究となり、やがて患者さんや社会に還元されていく。その過程に伴走できることに、大きなやりがいを感じています。
球脊髄性筋萎縮症(SBMA)は、成人男性に発症する遺伝性の神経・筋疾患です。私は大学院時代から長年にわたり、病気の進行を評価する指標の開発や自然歴研究、治療法の開発に取り組み、医師主導治験の計画・実施から薬事承認までの一連の過程を経験しました。現在は臨床研究の支援や人材育成に活動の軸足を移していますが、SBMAの研究・治療開発を通じて得た経験は、現在の仕事の原点になっています。一つの研究成果を治療として患者さんに届けるまでに何が必要なのかを実体験として学んだことを、さまざまな領域の研究開発支援に生かしていきたいと考えています。

名古屋大学の学生時代にやっていたテニスを最近再開しました。時間があれば、息子や昔からの仲間と楽しんでいます。よいリフレッシュになっています。
私が大切にしてきたのは、自分の専門だけに閉じず、異なる専門や立場の方と関わることです。これまで、臨床、研究、医薬品開発、PMDAでの審査、研究支援と、さまざまな立場を経験してきました。それぞれの立場から物事を見ることで、一つの課題にも異なる見方や考え方があることを学びました。振り返ると、そうした経験や人とのつながりが、思いがけない形で現在の仕事にも生きていると感じます。これからも自分自身が新しいことを学び続け、さまざまな方との出会いや協働を大切にしていきたいと思っています。
研究者の自由な発想から生まれた研究成果を、より速く、確実に患者さんへ届けられる環境を名古屋大学につくっていきたいと考えています。同時に、それを担う次世代の研究者や研究支援人材を育て、名古屋から全国へ、そして世界へ、新しい医療を発信できる拠点にしていくことが目標です。
氏名(ふりがな) 橋詰 淳(はしづめ あつし)
所属 医学部附属病院 先端医療開発部 治験支援センター/大学院医学系研究科 臨床研究教育学
職名 教授
略歴・趣味
2002年名古屋大学医学部卒業。名古屋第二赤十字病院、名古屋大学大学院、PMDA新薬審査第二部などを経て、2021年より名古屋大学大学院医学系研究科臨床研究教育学講師。2025年より医学部附属病院先端医療開発部教授・部長、臨床研究教育学教授(併任)。専門は神経内科学、臨床研究、医薬品開発。趣味はテニス。