名大生ボイス

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イベント

2019.01.12

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「自由奔放!サイエンス」1月12日に参加しました!

こんにちは。工学部機械・航空宇宙工学科の松高亜樹です。1月12日に行われた「2018年度名古屋大学経済学研究科オープンカレッジ『自由奔放!サイエンス』」に参加してきました。今回のテーマは「学校の日常を『見える』化するー部活動改革から働き方改革までー」というもので、名古屋大学大学院教育発達科学研究科の准教授、内田良先生に解説をしていただきました。私は工学部で、教育に関しては勉強したことがなく、全くの素人でした。強いていうなら、内田先生が執筆されたブラック部活動しか読んだことがありませんでした。そんな私が、現代の教育の現状や問題点について考えるようになった講演内容を皆さんにご紹介します。

 

始まる前に...

この講義は10時から12時までの予定だったのですが、先生が時間になっても壇上に現れませんでした。どうやら先生がくるのが遅れたようで会場内はざわついていました。すると、一人の参加者の方が「ここに来ている皆さんは教育関係者の方が多いので、それぞれ教育のことに関して考えを持っていらっしゃる。先生が来るまで、自由討論という形で、現代の教育のあり方についてディスカッションしよう。」と発言しました。そこから、挙手制で意見交換が30分ほど行われたのち、先生が到着され講演が始まりました。

以下、先生の講演の概要を書いていきます。少し長いですが、ぜひご覧ください。

 

先生の紹介

名古屋大学の経済学部を卒業しており、経済学部は割と数字に重きをおいています。他方で教育学部は、教員の情熱に重きを置いています。あれ大事、これ大事、子どものためといって教師の仕事が増えて今にいたっているが教育の問題です。先生は経済学部なので、数字を使って教育をどう語れるかということを信念でやっています。

 

イントロダクション〜算数で仕事をするとは〜

先生は算数で仕事をしています。それに先立ち、算数で仕事をするとはどういうことかを基本的な数字で説明します。全国で子どもが一学年に何人いるかご存知でしょうか?正解は100万人です。何万人という数字をみると私たちは多いと思うのでまず、数字の基礎を知っておくことが大事です。

 

次に、都道府県ごとのいじめの件数を見ていきます。みなさんはいじめの件数の多い都道府県か少ない都道府県かどちらに住みたいでしょうか?ほとんどの人はいじめの件数が少ない都道府県を選びます。しかし、正しい答えは、いじめの件数が多い都道府県に住んだ方がいいのです。それは何故でしょうか?そもそも、いじめの件数は教師が発見して初めてカウントされます。いじめは私たちが見つけようと思えば見つけられ、無視しようと思えば無視できるものです。つまり、子ども達がじゃれあっている光景を、教師が「青春、楽しそう」と認識し、そのままにしたらいじめとカウントされません。ということは、いじめの件数が多いところは、いじめを見つけてくれている場所なのです。決して数字が大きいほど悪いというわけではありません。しかし、いじめの件数が多い京都府は、世間でひどいと言われています。そんな京都とは対照的に、いじめの件数の少ない佐賀県は素晴らしいと言われています。マスコミが佐賀県におもむき、インタビューをして「いじめを防止した成果」というような声を聞きます。この茶番が起きる理由は、私たちに情報を読むリテラシーがないからです。

 

さらに、いじめと不登校の都道府県によるばらつきを見ていきます。衝撃的なことに圧倒的に不登校の方がばらつきは小さいのです。その理由は簡単で、出席しているかしていないかは、客観的に見て明らかで、無視できないからです。学力格差においても都道府県でほぼ差がないので、同じことが言えます。このことからわかるように、私たちが最も気にしている学力の都道府県格差はほとんどなく、人の命に関わるいじめの都道府県格差は圧倒的に大きいのです。さて、私たちは格差格差と心配しているのに、学力だけ見ていていいのでしょうか?このように、数学を勉強して色んな数字を見ていくと、今まで語られていない問題がたくさん見えてきます。

 

学校安全という言葉は1950年代からあります。しかし、その背景に子どもが何人死んでいるかというデータがありません。ただ子どもの命を守るための情熱しかありません。内田先生は新聞の記事を1ヶ月かけてカードにして、その数をカウントしていきました。そうして分かったことの1つは、柔道で起こったある死亡事故と全く同じ原因の事故が繰り返し起こっていることです。その時期は5〜8月に多かったことも合わせると、事故の原因は、初心者がいきなり試合形式の練習をしたからということが分かりました。このように、数字に向き合って初めてわかることは数多くあります。

 

世の中は変えられる

2012年の柔道の死亡事故は0件になりました。それは、2011年にマスコミが騒ぎ、国が動いたからです。国は教育内容にできるだけ口出ししないというルールがあります。口出ししすぎると戦時中のような状態に戻ってしまうからです。しかし、しばらく口出ししなかったことが原因で、学校がおかしなことをするようになりました。その例として、組体操で年に8,000件骨折事故が起こっていましたが、それも2012年には、名古屋市の怪我の9割はなくなりました。大事なのは、組体操をやっている学校は2割しか減っていないということです。組体操をやっているけれど、怪我が減っている。みんなが楽しんでやれるようなものを持続可能にしていくことが重要です。子どもは死ななくなりました。組体操も柔道もそれを達成できたのです。

 

組体操・組立体操の権威である日本体育大学の荒木達雄教授も、いろんな学校を見にいくそうです。そこで土台の子が泣きそうになりながら組体操をやっているのを目撃しました。荒木先生は「やめてくれ」と言ったそうです。組体操を普及する人が組体操をやめてくれと言ったのです。こんなことを続けたらみんな組体操を嫌いになるからです。トップのトップは競技の普及を考えるので、普及したい競技中に競技が原因で骨折されたら困ります。ところが、学校は運動会がその日1日だけ盛り上がればいいと考えています。部活動も学生の在籍する3年間が盛り上がればいいと考えています。しかし、子どもの人生は続いていきます。内田先生の周りに、全国を目指していたような人が大学で部活を続けることに対して「勘弁してください」と言ったことがあるそうです。これは明らかに問題です。身につけた能力をこの先に活かそうとしていないからです。こういう例がたくさんあります。これをいかにサステナブルにしていくかが大事です。

 

教員の働き方に関する話

子どもが亡くなった時、マスコミや世論は、学校に向けて戦車を寄せてきました。つまり、学校でそのような事件が起こった時、私たちは、「学校は隠し事をしている」そう言い続けてきました。しかし、この2年間でそれは変化してきています。「先生大丈夫?」と声をかけるようになってきているのです。

 

2年前、ブラック部活ということをNHKがクローズアップ現代で取り上げました。これに内田先生は最初から関わっていました。ブラック部活と言われるのには2つ可能性があり、1つは子どもの負担でもう1つは先生の負担です。内田先生が考えて欲しいことは、働き方改革が始まった時、学校の先生から「やる気をなくす」と言われたことです。学校の先生は、夜8時9時まで時間を費やし、土日も働いて、子どもが試合に勝ったり、授業で輝いたりすると、「頑張ってよかった」と思い、これで満たされているのです。つまり、学校の先生は誇りを持って満足して働いています。ここを考えなければいけません。

 

先生たちにいらない仕事はあるかと尋ねると、いくつも出てきます。しかし先生は決まって、教育的意義を考えて、「やっぱり大事だよね」と言います。ここで大事なのはこれに優先順位をつけることです。学校でやることはなんでも意義があります。体罰でさえも少なくとも当人にとっては意義があるのです。そこで優先順位をつけることが大切なのですが、学校ではそれが通用しません。学校では、子どものためにいくらでも自己犠牲を払えます。お金のことは考えずに、子どものためにいくらでも時間を使っている教師は「献身的教師」と呼ばれています。そんな状況下の学校は救急車がくる一方で、無風状態です。教員の働き方がネットで盛り上がってきたのは理由があります。学校では献身的教師像があるので、働き方について学校で文句を言ったら叩かれるのです。しかし、教師は教育者である前に労働者なのです。

 

教育現場の現状〜タイムカードの必要性〜

教員の半数が過労死ラインを超えています。それを示す大きな特徴として、タイムカードが設置されている学校は1割から2割しかありません。その代わりに出勤簿が一番よく使われていますが、これでは生きていることしか分かりません。平均で学校に11、12時間いるのにも関わらず、印鑑でしか管理をしていないないのです。逆に言えば、このようなことをするから、長時間労働に繋がるのです。ところが、学校現場にタイムレコーダーを取り入れようとすると、先生方から反発がきます。「教壇で倒れるならこれは本望だから」これに関しては論外ですが、「退勤は記録するなと言われるから」、「土日は記録するなと言われるから」、「持ち帰り仕事が増えるだけだから」ということが理由であれば、学校もテレワークの時代に乗っかっていけばいいだけの話です。

 

内田先生がこのように時間管理にこだわるのは過労死遺族に会ったことが原因です。夫が修学旅行から帰ってきて、すぐ亡くなった人の奥さんです。彼女が夫の勤務時間を学校に聞いてみても「わからない」と言われたそうです。彼女は何ヶ月もかけて、夫の手帳やファイルを見て、勤務時間の一覧表を作りあげました。これはタイムカードがあれば10秒で済むことです。なんの罪もない人に、自分の最愛の人がなくなったプロセスを何ヶ月もかけて毎日追わせてしまい、懺悔の日々を送らせてしまっていたのです。そうしてようやく、夫が1ヶ月で200時間も残業、持ち帰り仕事をしていたことが分かりました。こんな事例はいくつもあります。高速道路のETCの通過時刻がタイムカードの代わりになった事例もあります。

 

また、教師の中の半数は休憩時間を知りません。ノンストップで働いているから休憩時間がわからないのです。こんな中、授業準備をいつするのでしょうか?前に出会った先生は1ヶ月の授業準備時間は0分と言っていたそうです。それぐらい悲惨な状況なのです。

 

学校の先生の給料について

学校の先生は時間外労働をするので、給料を上乗せしてもらっています。これは給特法という法律で定められています。残業時間が増えても上乗せされる給料は変わりません。時間外の業務に関しては労働が労働とみなされません。先生の不払い残業は合法になっているのです。先生だけが給特法で残業代が支払われていません。残業代が出ないことは保護者にも知られていません。これからは、教員のこなす仕事を外に広げていく流れになります。その仕事が自分にふってくることになると、我々は拒否してしまうのでしょうか?これからディスカッションする必要があります。

 

部活でろうかを走るのはおかしい?

部活の時間の直前まで「ろうかを走るな」と言われていたのに、部活の時間になると「走れ」と命令されるのはおかしいです。部活の時間になるとルールが逆転するのでしょうか。部活では、子どもに危険な事をやらせているのです。なぜ、このようなことが起こっているのでしょうか?答えは

「制度設計がないから」

部活は「学校でやる」ということ以上のことは決まっていないのです。学校は授業のために作られているので、部活動に必要な人、もの、お金、場所全てが足りません。土日に先生が車で生徒を試合会場まで連れていって事故を起こした事件がありました。その後、驚くべきことに、先生方には安全運転講習が行われました。このように教育現場は矛盾に矛盾が重なった現状となっているのです。学校の行事の遠足では、全体に教師は運転などせず、運転手を雇います。また、先生が行ったこともない雪山にいき生徒を死なせてしまった事例もあります。そして、授業用のグラウンドで、ハンマー投げの練習をしていた生徒が投げたハンマーが、サッカー部の生徒に当たって死なせてしまった事例もあります。このように、学校の施設を無理やり部活動の施設として転用することによって起こる事件はいくつもあります。

 

学校は、部活動に関する垂れ幕はたらすのに、勉強の成績の垂れ幕は垂らしません。これは何故なのでしょう。勝つということに凝りだすとみんなにプレッシャーがかかります。プロならまだしも、学校でそのような状況になるのはいかがなものでしょう。部活動は自主的で制度設計がないから加熱するのです。また、5時以降の労働も制度設計がないから加熱するのです。教員が提供するサービスが肥大化していった結果が現代の教育です。まずは、部活動の規模を縮小し、部活動で起こる事故を減らすことから始めませんか?

 

 

コラム

「自分は英語の先生として学校に入ったのに、部活の時間で授業の準備ができない。」という学校教師の声がありました。それに対して他の教師が「それは一部の問題だ」と言い、声を上げた人の声をないがしろにしました。この一部の人が被害を被るものをみんなで考えるのが教育問題、社会問題です。沖縄の米軍基地問題や地震、津波、いじめ、不登校これら全て一部です。一部の人の問題だからという理由で蓋をして、問題を見なかったことにするのは間違っています。そんな問題はみんなで考えるべきなのです。

Profile

所属:工学部機械・航空宇宙工学科1年生

出身地:三重県

出身校:三重県立四日市南高等学校