名大生ボイス

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2019.10.19

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宇宙地球環境研究所:未来社会を拓く科学:宇宙へ、そして地球へ:ホームカミングデイ2019

10月19日、名古屋大学において、津田雄一先生(ISAS/JAXA准教授、「はやぶさ2」プロジェクトマネージャー)、宮原ひろ子先生(武蔵野美術大学准教授/名古屋大学大学院理学研究科卒)による特別企画講演会「宇宙地球環境研究所:未来社会を拓く科学:宇宙へ、そして地球へ」が開催されました。

 

 

津田雄一先生は、小惑星リュウグウから試料を収集し地球へ帰還するという、「はやぶさ2」のミッションにおける数々の挑戦とその成果について、講演をされました。

 

津田先生講演の様子津田先生ご講演の様子

 

「はやぶさ2」のミッションの一つに「サンプルリターン」があります。「はやぶさ2」は二度のサンプル収集を成し遂げましたが、一度目のサンプル収集はサンプラーホーンがリュウグウ表面に設置した瞬間に、弾丸を発してリュウグウ表面を破壊、その際に生じる惑星の破片を回収する、というものでした。「はやぶさ2」に予め搭載されていたビデオカメラで、その瞬間の映像が撮影されていました。このサンプル収集のシーンはほんの数秒間の映像でしたが、飛び散るチリや岩石の破片は、さながらヒラヒラと舞っている「花吹雪」のようで、この様子を津田先生は「これを見ながらお酒が飲めます」としみじみと語られていました。

また、「はやぶさ2」の他のミッションとしてクレーターも作ったのですが、そのクレーターの画像でも「また今日も飲み明かせる」と語られていました。

津田先生は、講演の中で「はやぶさ2」の業績について、七つの世界初の偉業を成し遂げたことで、「人類の技術を七歩進ませることができた」と胸を張っておられました。

サンプルリターンは非常に意味深いものだと思います。地球惑星科学の視点に立つと、始原的小惑星だと考えられるリュウグウの組成を調べることは、太陽系の組成を理解することにつながるからです。なぜなら太陽も地球も始原的小惑星も同じチリからできているはずだからです。来年(2020年)11月から12月頃に「はやぶさ2」は地球(オーストラリアに落下予定)に帰還するとのことなので、今後の太陽系に関する研究が待ち遠しいです!

 

 

宮原ひろ子先生は、地球の気候変動や日々の天気の変化が、宇宙環境や太陽活動の影響を強く受けているという、宇宙と地球のつながりに迫る研究について、講演されました。木の年輪を調べることで過去の太陽活動を調べる方法があります。太陽が活発なときには、太陽からの放射線量が多く、放射線量が多いと炭素14が生じやすいので、木の年輪に炭素14が相対的に多く存在すればその時は太陽活動が活発だったと分かります。さらに酸素18を見ることで過去の雨の量を推定し、そこからも太陽活動の活発性を理解できる、とお話をされました。太陽の活発さの変化が地球に及ぼす影響については、小氷河期に相関があるかもしれないということで、過去の洋画や日本画の背景と風景から推定しようという試みも紹介されました。さらに日本での雷の発生と太陽の太陽風放出の周期に相関を見出そうと調べていることも教えていただきました。

筆者は、宮原先生が武蔵野美術大学で美術を用いて理学的な研究を行われていることにとても興味を持ちました。正直、絵画は作者の感覚に影響されることがあるので研究の参考にならないのでは、と思いましたが、先生の説明によると、昔の風景画は正確に描写されているそうなので、絵画と理学、想像の描写と現象の記述という一見組み合わさりそうにない異なる分野が、それぞれの垣根を超えて結びつくのだと分かり大変驚きました。同時に太陽活動がまだはっきりと分かっていないことに、知的好奇心が湧きました。

 

宮原先生ご講演の様子宮原先生ご講演の様子

 

 

 

その後、パネリストとしての、津田雄一先生、宮原ひろ子先生、渡邊誠一郎先生(名古屋大学大学院環境学研究科教授)、塩川和夫先生(名古屋大学宇宙地球環境研究所副所長・教授)に、コーディネーターとして、草野完也先生(名古屋大学宇宙地球環境研究所所長・教授)を交えたパネルディスカッションが行われ、「20年程度のちの未来に何が起きるのか」、「有人宇宙開発は今後どのように進展していくと予想されるか」、そして「100年後はどのようになっているのか」の三つの大きなテーマについて討論が行われました。討論の中では、「私は宇宙に行きたくない」、「ちょっと行ってみたい」というような異なる意見もありました。一言で宇宙利用といっても、皆さんの意見がそれぞれ分かれていて、分野が違うと視点も違うというのが明らかになったパネルディスカッションとなりました。

筆者は草野先生の「アバターを作って宇宙にはびこらせたい」「AIも一つの文明」「宇宙はAIの場所」という表現が印象に残っています。確かにAIが次第に存在感を大きくしていく中で、AIが一つの文明とみなせるようになるということは容易に想像できます。また、アバターについては、以前、宇宙にアバターを送り出し、地球からの操作で資源を回収するというSF作品を見たことがあるので、アバターをはびこらせたいというのは面白い考えだなあと感じました。

 

パネルディスカッションの様子

 

 

本企画は名古屋大学ホームカミングデイの特別企画・関連企画の1つです。「名古屋大学ホームカミングデイ」は、卒業生・教職員OBの方々との緊密な連携強化、保護者の皆様との相互理解、並びに本学の優れた教育・研究の成果を地域住民の皆様に広く発信することを目的に、2005(平成17)年度から毎年10月の第3土曜日に開催されています。(出典:名古屋大学ホームカミングデイ2019 ごあいさつ(http://www.nagoya-u.ac.jp/extra/home-coming-day/hcd_15/message/index.html)

Profile

所属:工学部化学生命工学科1年生

出身地:広島県

出身校:広島なぎさ高等学校