名大生ボイス

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2018.05.23

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ノーベル賞学者が宇宙を語る! 特別講演『光では見えない宇宙を探る』 に参加しました!

 

名古屋大学にて、2018年5月23日に宇宙観測の現状・将来についての一般向けの講演会『光では見えない宇宙を探る』が開かれました。講演者は「ニュートリノ振動」を発見して2015年ノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章先生です!

 

国際会議の一環として開かれたこの講演会には、僕たち理学部物理学科の学生はもちろん、高校生を含む一般の方々から外国人の方々まで、幅広い層の人々が参加されていました。

 

ノーベル賞学者、梶田隆章先生が近年ホットな重力波について語るということで、宇宙が好きな人たちには大注目の講演会となりました。

 

"光では見えない宇宙"とはいったい何なのか?

講演会の内容を簡単に紹介したいと思います。

 

 光で見えない? 何なら見える?

 

まず、「光では見えない宇宙」が発見されたのは今からおよそ100年前。このとき、当時は地下から来ると思われていた放射線が、実は空から来ていることが発見されました。これが初めての宇宙線の発見、そして人類が発見した光では見えない高エネルギー現象です。

 

さて、講演会の題名は『光では見えない宇宙を探る』ですが、光を見ないのならばいったい何を見られるというのか、疑問に思った方も多いでしょう。

実は、その答えは多岐にわたります。特にこの講演会では、ニュートリノガンマ線宇宙線重力波の4つに焦点を当てて語られました。

 

それぞれの概要を見ていきましょう。

 

ニュートリノで探る超新星の神秘

 

ニュートリノは電荷を持たない素粒子の1つです。言葉のとおり「素粒子」であるため、原子や陽子・中性子に比べて非常に小さく、大抵の物質をすり抜けます。地球や太陽すらもすり抜けます。ちなみに、冒頭で挙げた「ニュートリノ振動」は地球をすり抜ける性質を用いて、すり抜ける前と後のニュートリノを観測することで発見されています。

 

そのニュートリノですが、宇宙で起こる「超新星爆発」の際に大量に放出されます。

 

超新星爆発は、太陽よりもいくらか重い星が寿命を迎えた際に起こす爆発のことです。この爆発は想像を絶するほどの高エネルギー(星1個が超新星爆発をすると、数千億個の星の集まりである銀河に匹敵するほど明るくなる!)を発します。そのため、普段は暗くて肉眼では見えない星が超新星爆発すると、あたかもその場に急に新たな星が現れたかのように見えます。これが「超新星」と呼ばれるゆえんです。

 

星の最期である超新星爆発は、物理学においてメジャーな研究対象であり、まだまだ多くの謎が残されています。この超新星爆発のメカニズムを、大量に放出されるニュートリノを観測することで解き明かそうとしているのが、かの有名な「スーパーカミオカンデ」です。

現在、過去に発生した超新星爆発に由来するニュートリノを捉えるため装置を改良しており、来年には稼働できるだろうとのことでした。

 

 

ちなみに、上の写真は「超新星残骸」と呼ばれるもので、約1000年前に超新星爆発が起こった場所の写真です。この超新星爆発は、1000年前の日本の文献である、藤原定家が記した『明月記』に「客星(普段見慣れない星、という意)」として記述があります。

 

 

 

さて、この超新星残骸では宇宙線(高エネルギーを持つ粒子)が加速されているという考えがあります。しかし、宇宙線は宇宙に存在する様々な天体が持つ磁場によってその進路を曲げられてしまいます。そのため、宇宙線を観測することで宇宙線がどこから来るかを知ることはできません。

 

そこで登場するのがガンマ線です。

 

 

宇宙線はどこから来る? ガンマ線で見る宇宙の謎

 

 

エネルギーによって電磁波はその名称を変えます。私たちが目で見ている「光」も電磁波です。そして、電磁波の中で最も高いエネルギーを持つものをガンマ線と呼びます。

中でも、宇宙線の起源となる高エネルギーの陽子や原子核が他の粒子と衝突した際には「超高エネルギーガンマ線」というガンマ線の中でも非常にエネルギーが高い電磁波が発生します。

 

宇宙線はどこから来るのか。宇宙線は宇宙に存在する磁場によってグニャグニャと曲がって地球に到達するため、宇宙線を観測してもその問いに答えることはできません。

 

では、ガンマ線はどうでしょうか。前述の通り、ガンマ線は電磁波です。実は、電磁波は磁場によってその進路を曲げられることはありません。これは、皆さんが見ている光が磁石によって曲げられないことや、地球や太陽が持つ磁場で太陽光や星の光が曲げられないことからも想像がつくでしょう。従って、ガンマ線を観測することで、宇宙線のもととなる陽子や原子核がどこで加速されているかを調べることが可能となります。

 

実際に、超新星残骸の観測データを解析したところ、超高エネルギーガンマ線が見つかっています。これによって、宇宙線は超新星残骸のどこかで生じているとする決定的な証拠が確立されました。

 

 

また、高エネルギーのガンマ線は超新星残骸だけでなく、銀河中心の超巨大ブラックホールや、中性子星ガンマ線バースト(上の写真はガンマ線バーストの想像図です)といった非常に高エネルギーを持つ天体からも発せられます。ガンマ線を見ることは、このような高エネルギー現象を解明するのに適していると言えるでしょう。

 

 

陽子1コが大谷のストレート並み! 最高エネルギー宇宙線の観測

 

 

さて、先ほど宇宙線は磁場によって曲げられる、と書きました。

 

しかし、稀に高いエネルギーを持ち、磁場をものともせずに直進してくる宇宙線があります。これを「最高エネルギー宇宙線」と呼びます。この最高エネルギー宇宙線となる粒子1コは、プロ野球選手が投げる野球ボールと同等のエネルギーを持っています。粒子1コが、です。

このエネルギーは、人間が人工的に粒子にエネルギーを与えて作り出せる高エネルギー粒子の約1000万倍になります。

 

このような規格外のエネルギーを持つ宇宙線がどこから来るのか、それは未だに確定していません。というのも、この最高エネルギー宇宙線は非常に稀なものであるため観測が難しいのです。

仮に、名古屋大学の東山キャンパス全体(約70万㎡、東京ドーム15個分の面積を持ちます!)で最高エネルギー宇宙線を観測しようとすると、1000年観測し続けてようやく1~2個観測できるかどうか、というほど最高エネルギー宇宙線は珍しい現象なのです。

 

最高エネルギー宇宙線を観測するため、アメリカのユタ州では700㎢、アルゼンチンでは3000㎢もの面積で観測が行われています。その観測の結果、最高エネルギー宇宙線は近隣の活動銀河の中心で生成されている可能性が示唆されていますが、さらなる観測が必要とされています。

 

 

時空を揺るがす巨大ブラックホールの衝突 遂に見られた重力波

 

 

相対性理論で有名な物理学者アインシュタインは、「重いものが動くと、空間が伸び縮みする『重力の波』が真空を伝わるはずだ」と予想しました。これが重力波です。

 

重いものといえばブラックホールですね。2016年に初めて直接的に観測された重力波は、2つのブラックホールの衝突によって発生しました。このとき、太陽質量の3倍の質量が重力波のエネルギーに変化しました。具体的には、この時の重力波のエネルギーは太陽がその瞬間に発していたエネルギーの100億倍のさらに1兆倍となります。これは宇宙に存在する全ての星が1秒間に放出するエネルギーに匹敵しており、超新星爆発を遥かに凌ぐエネルギーです。

 

この重力波は、光の干渉という性質を用いて観測されました。干渉を簡単に述べると、2つの光が重なると強い光になるという性質です。重力波によって空間が伸び縮みすると光がずれ、干渉による光の強度が変化するため重力波を検出できるというわけです。

 

重力波は、ブラックホールや中性子星の衝突、そして超新星爆発でも発生すると考えられています。この重力波を観測していくことで、どのように超巨大ブラックホールが成長したのか、金やプラチナなど貴金属・重金属元素はどのようにして合成されたか、といった謎が解決するかもしれません。

 

日本でも、KAGRAというレーザー干渉計による重力波望遠鏡の開発が進んでいます。稼働すれば世界最高精度の重力波望遠鏡となるKAGRAは、今年試運転を始め、2019年に観測を開始する予定です。KAGRAの稼働によって、他の重力波望遠鏡と同時観測することによる重力波発生源の特定が可能となります。KAGRAの稼働は「重力波天文学の始まり」とも称されるほどであり、今後の進展に注目が集まっています。

 

 

 

 

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今回の講演会は、対象が高校生以上ということもあり、かなり理解しやすい内容となっていました。理学部物理学科の学生の間では「内容が簡単すぎる」との声も聞かれたほどです。この記事を読んで「え? 難しすぎるんだけど」と思った方もいるかもしれませんが、理学部物理学科では、2年生で既にこの講演会の内容を上回る難度の講義を受講しています。

 

名古屋大学理学部では、この講演会の内容を理解することはもちろん、さらに詳しい内容まで勉強することができます。少しでも宇宙に興味があれば、ぜひ名古屋大学理学部に足を運んでみてください。

 

※宇宙の画像は全てNASAより

Profile

所属:理学部物理学科2年生

出身地:静岡県

出身校:静岡県立浜松南高校