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VOICE

大学院法学研究科

No.3 鈴木 將文 研究科長

My Best Word:なんじの一生は不断の実行であれ。

 

Q:「My Best Word」を選ばれた理由は?

これはゲーテの言葉で、大学生時代に、手塚富雄「いきいきと生きよ」(講談社新書。今は絶版のようですが、電子書籍版が入手可能)という本の中で出会って以来、怠惰な自分を鼓舞するために、いつも念頭に置いています。研究者になってからも、空理空論ではなく、現実の制度や運用に影響を与えられる研究を目指すという私の心構えの背景に、この言葉があるように思います。もっとも、ゲーテは、この言葉の前に「何事も延期するな」と言っているのですが、こちらはなかなか守れていないです。


Q:先生はどのような研究をされているのですか?

知的財産法の研究です。大きく分けて二つの柱があり、一つは、日本の知的財産法、特に産業財産権法とよばれる分野(特許法、商標法など)の研究、もう一つは、国際知的財産制度についての研究です。現在、特に注力しているのは、後者のうち「複数国間の共通的知的財産制度及び関連法制度」というテーマの研究です。これは、複数国が共有する特許制度を構想するとともに、関連する諸制度を構築する可能性を検討するという共同研究で、科研費補助金(基盤A)をいただいて昨年度から開始しました。

 

Q:この研究によって可能になることは?

将来、日本が特にアジア圏または環太平洋地域の国々との関係を一層深めたときに、国単位の諸制度を複数国間で共通化することが課題となると予想されます。特許などの知的財産制度は、現在、国単位で成立していますが、とりわけ共通化の必要性と実現可能性が高い制度であるといえます。なぜなら、保護対象が無体物で、特定の場所との結び付きがないため、そして国際条約による制度調和が比較的進んでいるためです。私たちの研究では、このような将来見通しの下、日本がリーダーシップをとって、複数国間で共有する特許制度のアイデアを提示できるように、基礎作業に取り組んでいます。


Q:研究を始めたきっかけは?

法学に興味を持ったのは、中学生時代に、弁護士を主人公とするアメリカの小説を読んで、弁護士って恰好いいなと思ったのがきっかけです。しかし、大学で法学を学んだ後は、国際的な仕事をしたいと考え、行政官の途に進みました。役所では、新しい法制度を企画立案する仕事を特に面白く感じました。さらに、1990 年代後半、日本が国内産業保護的な措置をとっていたためアメリカによってWTOへ訴えられ、その際、日本政府側の責任者の一人として、それらの事件(複数)を担当しました。アメリカの役人(元は弁護士)を相手にした国際法廷闘争に、寝食を忘れるほど熱中して取り組み、つくづく自分は条約や法律に関する仕事が好きだなと自覚しました。その後、知的財産法という大変魅力的な分野を担当することとなり、この分野を深く探求したいと思っていたところに、名古屋大学から、初めは非常勤講師として、その後、教員として声をかけていただき、研究者の途を歩むことになりました。

※ WTO:世界貿易機関


Q:研究が面白い!と思った瞬間はどんな時ですか?

一つは、難しい問題に対して理屈が通り、しかも、社会にとって望ましい効果がもたらされる結論を見出した時。もう一つは、問題意識を共有する他の研究者と様々なことを語り合う時。最近は、外国の友人たちとの研究会とその後の食事会(ワイン付き)を至福の時間と感じることも多いです。

Q:くじけそうになったときは?

研究をしていて、くじけそうになるという感覚はありません。研究は、結局のところ、自分自身で調べ、考え、判断することができるからです。研究成果が思わしくない場合は、自分の責任だからと、諦めがつきます。研究者になる前の仕事では、組織の論理や上司の意見などと自分の考えが食い違って前に進めず、空しさを感じる経験が何度もありました。それと比較すると、研究は何と自由な活動だろうかといつも感じています。

 

【キャプション】本年4月に開催した国際会議の折に、アジアや欧州の研究仲間と.JPG

本年4月に開催した国際会議の折に、アジアや欧州の研究仲間と


Q:今だから言える、ここだけの話を聞かせてください。

大学を卒業して就職したのは、“通常残業省”と揶揄される“通商産業省”でした。今でいう「ブラック」な職場で、ほとんど毎日深夜すぎまで残業していました。夕方に仕事がふってきて、締切は翌朝というのが日常茶飯事。そのような仕事の仕方を決して他人に強いてはいけないと思いますが、私自身は、頑張れば何とかなるという気持ちが染みついてしまい、今も、仕事を頼まれると安請け合いしてしまうところがあります。


Q:今後の目標は?意気込みも含めてお願いします。

将来にわたって長く参照してもらえる著作を残したいですね。それから、大学院生として指導した研究者が世界中にいるので、彼らとの共同プロジェクトを何か企画できればと思っています。

 

氏名(ふりがな) 鈴木 將文(すずき まさぶみ)
所属 大学院法学研究科
職名 研究科長

 

略歴・趣味
1981年東京大学法学部卒業。1986年ハーバード・ロー・スクール修了。法学修士(LL.M.)、ニューヨーク州弁護士。1981年通商産業省(当時)入省、司法修習生、ブルッキングス研究所Visiting Fellow、経済産業省知的財産政策室長、同省公正貿易推進室長等を経て、2002 年から名古屋大学大学院法学研究科教授。2018年から同研究科長。趣味は、音楽(歩きながら歌う癖があり、家族に呆れられている)、旅行。著書として、“PreventiveInstruments of Social Governance”(共編、Mohr Siebeck)、『商標法コンメンタール』(共編、レクシスネクシス・ジャパン)などがある。