No.58 原田 俊太 准教授
Researchers'
大学院経済学研究科
No.57 御子柴 みなも 講師
この言葉は、道元禅師の言葉で、春が来るから梅の花が咲くというのではなく、梅の花が咲くから春が来るのだという言葉です。この言葉から、自分が行なっている一つひとつの研究が、より人々が生きやすい社会に繋がるのだと考えると、励まされます。
私の専門はマクロ経済学で、特に税・社会保障制度、医療・介護リスク、人口構造・家族構造の変化に関する研究に取り組んでいます。例えば、税・社会保障制度の政策変更は、これらの制度に直面するミクロレベルの経済主体(例えば、家計)の意思決定に影響を与えることになりますが、その影響はその国に生きる人々に広く及ぶため、ミクロレベルの経済主体の行動の変化の蓄積はマクロ経済に影響を与えます。このとき、経済主体の属性は一様ではなく、性別・学歴・家族構成・健康状態などで異なります。この様々な属性を持つ経済主体の意思決定をモデル化し、異なる属性を持った経済主体の意思決定を分析した上で、彼らの行動がマクロ経済にどのように影響していくのかを定量的に分析を行っています。
最近では、高齢期における健康リスクに着目し、高齢者介護が人々に与える影響と、介護保険制度の役割について分析しています。昔と比較して人々の平均寿命は伸びましたが、誰もが常に健康でいられるわけではありません。長寿化が進行する中で、年齢の上昇に伴って様々な疾患リスクが増加するため、身体機能・認知機能の低下により介護を必要とする高齢者が増加しています。このとき、長寿化と少子化が同時に進行する少子高齢化社会では、高齢者比率の増加に伴い、誰がどのように介護を供給するのかが問題となります。そこで、高齢者介護は異なる属性を持った人々の意思決定にどのような影響を与えるのか、公的介護保険制度が異なる属性の人々や経済全体に与える影響について考えています。具体的には、複数の政策シナリオ(例えば、現金給付政策)のもとでシミュレーションを行い、どのような属性の人々が恩恵(損失)を受けるのかを分析しています。
時系列 高齢者比率
年齢別 要介護認定率
私は研究テーマを考えるときに自分の中で条件を課しています。それは、社会的重要性・学術的新規性・個人的関心の三つを満たすテーマであることです。介護はまさにその三つを満たすテーマでした。
そもそも少子高齢化社会のなかで、高齢者介護はなぜ社会的に重要性なのでしょうか。その理由としては、長寿化による介護需要の増加・高齢者比率の増加に対して少子化による介護供給不足が挙げられます。私も祖母の認知症を経験して、高齢者介護が本人のみならず、家族に与える影響が大きいことを実感しました。
また、介護は従来のトピックと同じ構造を持っているが故に、個別に分析しなくても政策的含意を得られるのではないのかと尋ねられることがあります。例えば、医療と介護、介護と子育ては、健康リスクという点と家族によるケアという点でそれぞれ共通するためです。しかし、介護には特有の構造があるため、その部分に着目した研究が必要であると思いました。介護には、金銭的な負担だけではなく家族による介護という選択肢があります。人々の属性によって選択する介護の方法は異なり、選択によって受ける影響は変化するため、介護を分析するためには、市場によるサービスだけではなくケアを提供する家族に着目することが重要になります。さらには医療では適切な治療を施せば完治が可能な疾患がある一方で、介護では自立した日常生活を送るまで回復することは難しいです。また、子育てにおいては、子どもの成長とともにケアの負担は低下し、成長から今後の見通しを立てることができますが、介護では介護状態は深刻化する傾向にあるとともに、亡くなるまで継続する介護の終わりを見通すことは困難です。
人々の命にはいつか終わりが来るものです。不老不死の薬が存在しない限り、人々は老化を免れることはできず、長寿の果てにあるものが介護です。日本の公的介護保険制度は、介護が必要な高齢者が彼らのできることに応じて尊厳と自立した日常生活が維持できるよう支援することを目的に導入されました。介護特有の構造に着目しながら、どのような制度が必要であるのか考えていきたいです。
振り返って考えてみると、高校生の時に南米のチリに交換留学に行ったことが大きなきっかけでした。チリは日本から最も(地理的に)離れた国のひとつであり、日本と大きく異なる環境で暮らしてみたいという気持ちから一年間ホームステイをしました。初めのうちはチリ人の考え方が日本人の考え方と大きく異なるように思えて面を食らった部分があったのですが、しばらくすると、彼らの考え方は彼らの生きる社会の制度・環境に強く影響されているのではないかと思うようになりました。その経験が、経済学を学ぼうと思った大きなきっかけとなりました。複雑な人間社会を理解するのは大変だけれども、理論やデータを用いて人々の意思決定を考える経済学はその道標になるのではないかと思ったからです。現在の研究テーマにもチリでの経験が大きく影響しているので、そのときの経験が研究の道に進んだきっかけの根っこの部分かと思います。
データに触れながら、何が重要なメカニズムであるのかを考えるときです。その上で、構築したモデルに対するシミュレーション分析の結果を確認する過程が楽しいです。
散歩をしています。長野県の四方八方山に囲まれた環境で育ったこともあり、木々や草花をみると安心します。東山動植物園によく通っています。
東山動植物園をよく散歩しています。澄んだ空気に癒されます。
家族との旅行が良いリフレッシュになります。
広島県の黄金山の展望台からの景色です。
コツコツと研究を続けていくことです。経済学を通して人間社会を見つめることで、経済現象を理解する手がかりを掴むことができたらと思います。それをヒントとして、人々が少しでも生きやすい社会を築けるよう、より良い社会のあり方を模索していきたいです。
氏名(ふりがな) 御子柴 みなも(みこしば みなも)
所属 名古屋大学大学院経済学研究科
職名 講師
略歴・趣味
1994年長野県生まれ。2017年千葉大学法政経学部卒業(3年早期卒業)、2020年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了、2023年同大学公共政策学教育部博士課程修了、博士(公共政策学)。2023年より、現職。
趣味は海外ドラマを見ることで、特に好きな作品は「Law & Order: Special Victims Unit」と「Game of Thrones」「House of the Dragon」です。