No.59 鵜飼 真貴子 准教授
Researchers'
未来材料・システム研究所
No.58 原田 俊太 准教授
研究は、誰も考えつかなかったことを実現する挑戦を通じて、社会に新しい価値を創造するものだと考えています。このような挑戦的な姿勢は、自分自身の探究心を大いに刺激し、常に新しいアイデアや発見を求める原動力となっています。そのため、この言葉を私のモットーとして大切にしています。
次世代半導体材料である炭化ケイ素(シリコンカーバイド)の製造技術や評価方法について研究しています。この材料は、電気自動車や電気鉄道車両などに使われる『パワーデバイス』と呼ばれる装置に欠かせないもので、これによりエネルギーを効率的に使えるようになり、環境負荷の軽減にも貢献します。
さらに、人工知能を活用して、これまで熟練者の手作業に頼っていた製造プロセスを自動化し、効率を大幅に向上させる方法を研究しています。加えて、デバイスの性能を向上させる新しい材料の開発にも取り組んでおり、これらの研究を通じて、より持続可能で快適な社会の実現を目指しています。
*パワーデバイス基板の歪強度分布* パワーデバイス基板(半導体結晶ウェハ)内の歪強度分布を可視化した図です。
結晶欠陥の一因である格子内歪みを示しており、このデータは製造プロセスの改善やコスト削減、 デバイス信頼性の向上に寄与することが期待されます。
*機械学習制御による操業結果* 手動操業の結果(学習データ)を基に構築された機械学習制御の結果を示しています。
機械学習制御は手動操業と比較して理想操業に近い応答を実現しており、操業の安定性と性 能向上が確認されました。この結果は、AIが熟練者の操業を超えるパフォーマンスを発揮 できる可能性を示唆しています。
父が大学教員だったこともあり、子供のころから『研究』というものに親しみを感じていました。父自身が研究の話を家庭で語ることは少なかったものの、その姿から「研究は楽しくやりがいのあるもの」という印象を自然と抱いていました。学部4年生で研究室に配属された際には、未知の課題に取り組む面白さと、それを解明していく過程で得られる達成感を強く実感しました。そして、自分が心から楽しいと思えることを通じて、社会に貢献できる研究者になりたいと考え、博士課程への進学を決意しました。
研究の醍醐味は、他の人が注目していなかった課題や未踏の方法に挑戦し、これまで誰も知らなかった事実を発見できることです。結果が必ずしも期待通りでなく、時には失敗と見なされることもありますが、その過程で得られる「うまくいかない理由」も重要な知見です。そして、その知見を基に次のステップを考えることで、少しずつ真理に近づいていくプロセスに大きな魅力を感じます。
この試行錯誤は、仮説を立て、検証し、改善を続けるPDCサイクルの繰り返しです。自然現象を相手にする研究は再現性が高い一方で、生物や社会現象を対象にする研究は変化が大きく、難易度が高いですが、いずれも仮説検証の手法を通じて挑み続けることで新しい発見につながります。このようなプロセスを通じて、科学的に興味深い成果や社会に役立つ技術を生み出せる瞬間が、研究の最大の面白さだと感じています。
研究によって価値を創出するには、新しい技術を生み出すことと、それを社会に普及させ実用化することは全く異なる課題です。パワーデバイス半導体材料や人工知能を用いた製造プロセスの自動化・効率化などの研究では、普及を目指す企業と協力して進めています。しかし、全く新しい技術については、企業との協力を待つよりも、自ら会社を設立し、普及を主導する方が効果的だと考えました。その結果、材料分析を高速化・高度化する「スペクトル超解像」技術の普及を目指し、『SSR株式会社』を創業しました。
*スペクトル超解像技術による測定時間の短縮* 通常の測定条件(測定時間:約50分)で得られたデータと、短時間測定(測定時間:約10
分)のデータにスペクトル超解像技術を適用した結果を比較しています。この技術を利用 することで、測定時間を約1/5に短縮できることが確認され、これまでの研究では最大で
1/20まで短縮できる可能性が示されています。
現在、この技術はSSR株式会社のソフトウェアを通じて多くの企業で活用され、研究開発や検査の効率化に大きく貢献しています。
技術を自分たちで普及させるために何が必要で、どのように進めればよいのか全く手探りの状態でSSR株式会社を立ち上げました。それから約2年が経ち、ようやく普及への道筋が見え始めています。
休日は、半身浴でゆっくりとお風呂に浸かり、心身をリフレッシュするひとときを大切にしています。このリラックスした時間は、頭の中を整理し、新しいアイデアが生まれたり、研究に役立つ気づきを得たりする貴重な瞬間でもあります。また、美味しい食事を求めて外に出かけることで、好奇心が刺激され、研究への探究心をさらに深める良い機会になっています。
写真にはありませんが、最近食べたもので美味しかったのは香箱蟹です。
私が取り組むべき使命は、材料科学(Materials Science)の研究を通じて、社会に新たな価値をもたらす技術を創出することです。そのために、仮説検証やPDCサイクルを繰り返し、課題解決のプロセスを積み重ねていきたいと考えています。1つ1つの研究が新たな発見や応用につながることで、少しでも社会に貢献できるよう尽力していきます。
また、研究を通じて、サイエンスの持つ楽しさや魅力をさらに引き出し、共有することも私の目標の一つです。未知の課題に挑戦し、試行錯誤の過程で得られる発見や気づきが、サイエンスの面白さそのものであり、その楽しさを次世代の研究者や社会全体と共有することに大きな意義を感じています。未来の技術革新に貢献しつつ、科学そのものの魅力を広げていく研究者でありたいと考えています。
氏名(ふりがな) 原田 俊太(はらだ しゅんた)
所属 名古屋大学未来材料・システム研究所
職名 准教授
略歴・趣味
1984年、京都府京都市生まれ。2010年、京都大学大学院工学研究科材料工学専攻博士後期課程を修了(博士(工学))。同年、名古屋大学に助教として着任し、2020年6月より未来材料・システム研究所未来エレクトロニクス集積研究センターの准教授を務める。2023年7月には、スペクトル超解像技術の普及を目指し、名古屋大学発のベンチャー企業「SSR株式会社」を創業。
趣味は美味しい食事を楽しむことで、食の探究を通じてリフレッシュと新たな発想を得ることを大切にしている。“Healty eating”