No.55 町田 洋 准教授
Researchers'
大学院情報学研究科
No.20 笹原 和俊 講師
吉川英治の三国志で、大志を抱きつつも放浪の身であることを嘆く主君の劉備に、義弟の関羽が喝を入れる場面があります。「得意な時にも得意に驕らず、絶望の淵にのぞんでも滅失に墜ちいらず、そこに動ぜず溺れず、出所進退、悠々たることが、難しいのではございますまいか。」この言葉を体現する人になりたいと思っています。
私は、ビッグデータや計算モデルを駆使して人間行動と社会現象を理解する「計算社会科学」という新しい学際領域を研究しています。特に、現在深刻な社会問題となっているフェイクニュースやその温床となるエコーチェンバーの研究、多様なつながりが促進されるような情報技術の開発に取り組んでいます。
フェイクニュースの問題に取り組むきっかけになったのは、2016年のインディアナ大学での在外研究です。米国が分断され、フェイクニュースの嵐が吹き荒れる中から、トランプ大統領が誕生する現場に居合わせました。社会的分断が起きる仕組みを科学的に解明し、虚偽情報の拡散を緩和する技術が作れないか、そう考えたのがきっかけでした。
自分が立てた仮説の妥当性が計算モデルやデータで支持された時、何ものにも変え難い喜びを覚えます。また、計算社会科学は複数人からなるプロジェクトで研究を進めることが多いので、多様な観点からの議論から、自分一人では思いつかないような「尖った」アイデアが出てきた時は興奮します。私が「研究が面白い!」と思うのはこういう瞬間です。
池上彰緊急スペシャルのフェイクニュース特集に出演した際、お笑い芸人の土田晃之さんや落語家の立川志らくさんと共演しました。池上さんの問いかけに対して、アドリブでテンポよく適切なコメントをする様子を見て、さすがプロだなと感心しました。そして、自分はテレビ向きではないことを悟った瞬間でもありました。
私は繊細な一面もあるので、しばしばくじけそうになります。そんな時は、B’z の「兵、走る」を聞いて、「ゴールはここじゃない まだ終わりじゃない」と自分を鼓舞します。ストレスを解消したいときは、お気に入りの曲を聴きながらジョギングに出かけたり、珈琲が好きなので、カフェに行ってぼーっとしたりします。
『フェイクニュースを科学する』を執筆していて、2回目の原稿催促が来たとき、出版社の担当者には「ほぼ書けたのだけど、もう少し時間を下さい」と言って、締め切りを延長してもらいました。本当は、1章も書けていませんでした…。
計算社会科学で世界トップレベルの研究者になれるように、ますます研究に邁進したいと思います。また、これからはアカデミアだけでなく、企業とのコラボレーションも視野に入れ、基礎研究の成果をイノベーションにつなげるような試みにも挑戦したいと思っています。
氏名(ふりがな) 笹原 和俊 (ささはら かずとし)
所属 大学院情報学研究科
職名 講師
略歴・趣味
2005年東京大学大学院総合文化研究科博士課程終了。博士(学術)。理化学研究所BSI研究員、日本学術振興会特別研究員PD等を経て現職。学外では、UCLA訪問研究員(2009年)、インディアナ大学訪問研究員(2016年)、JST さきがけ(2016〜2020年)、神戸大学計算社会科学研究センターリサーチフェロー(現在)を務める。趣味はカフェ巡り。